待ちくたびれた言葉を
揺れるのは、甘いコーヒー。
缶に入ったそれは、まだ温かかった。
一口含めば、消し切れない苦味が口の中に広がる。
「素直にさせてやろうか?」
今は遠いその声を思い出す度、水面は揺れる。
それは手にしたコーヒーが揺れるように。
静かに輪を描いて、消えていく。
「私はいつだって素直だよ」
呟く答えは、もう届かない。
届けられない。
言えない。
聞こえない。
伝える人はいなくなった。
ちゃんとしよう、そう決めた次の日に。
今もわからない彼の行方を、探そうとしなくなったのはいつだったっけ。
思い出せないくらい昔だったような、つい最近のことだったような。
もう一口、流し込む。
今度は味わわないようにすぐに飲み込んだ。
それでも広がるソレに、思わず涙が溢れた。
「素直、だった。でも」
一つだけ、怖くて素直になれなかったことがある。
今も後悔していることがある。
それは彼がいなくちゃ出来ないことで、彼がいない今は悔やむしか出来なくて。
「今更、好きって遅いよね」
「今更すぎるっしょ」
突然降って沸いた声に、私は慌てて振り返る。
もう聞くことはないと予感していた音。
クスクスと笑う声は、あの時と変わらない。
「よかった。気付いてくれたんだね」
最後に会ったときと変わらない笑顔で、彼はそこに立っていた。
意外だったのか、驚きを隠せない様子で、彼は私の隣に座った。
「なんで」
「お袋が体壊してさ。俺、親父いないじゃん? だから、急遽田舎に引っ越すことになって」
数年前、何があったのか。
そんなことを聞いたつもりもなかったのに、彼は真相を語った。
「だから、突然謎の転校。……ごめんな、黙っていなくなって」
申し訳なさそうに笑う彼は、あの頃と同じだった。
そのことに溢れた涙が頬を伝わり始める。
それに慌てることなく、彼はそっと私に触れた。
「やっと素直になったね」
「う……うるさいなぁ」
「俺、ずっとお前の告白を待ってた」
どこか嬉しそうな彼に、私は抱き付く。
突然の行動に彼は戸惑いつつも、しがみつく私を抱き締めてくれた。
彼が消えたあの日。
机の中に入っていたのは、小さな紙切れだった。
待ちくたびれた言葉を
("五年後、この教室で")
(会いに来たよ、私)
♯プラチナ様/09.05.04 提出
04月お題『素直にさせてあげようか?』より。




