好きだから好き
迫られている。
人生で一度あればラッキーな……じゃなくて。
簡潔に状況を説明すれば、取り敢えず襲われそう。
空き教室に追い詰められた辺り、ヤバい。
「なーんで逃げるかな」
「ににに、逃げるなんて、滅相も……、っ!」
反論途中に、ざわりと不快な感触。
両側を腕に阻まれ、身動きが取れない私の耳を舐めたのだ。
そう、舐めやがった。
「ぎゃあっ」
「色気ないねぇ。そんなとこも可愛いんだけど」
可愛くないでしょっ、といつものように突っ込みたいが、今日のところは止めておくことにした。
近いのだ、その距離はとてつもなく。
勢いに任せて前を向いたら、唇を奪われる。
代わりに耳が犠牲になったが、仕方ない。
ごめん、私の右耳。
あとでちゃんと洗うから……。
「こっち向けよ、なぁ」
「退いてくださいっ」
「退いたら逃げるじゃん」
逃げるに決まってるでしょ、乙女の純潔の危機なのに!
彼はケタケタ笑ったままだが、私は怯えに怯えきっていた。
小さく体が震え始めたのは、気のせいじゃない。
「強情だなぁ。俺に任せれば、何も怖くないのに」
任せたら、天国行きだ。
いろんな意味で成仏させられる。
それは噂で聞いた話だが、たぶん本当だろう。
いや、絶対実話だ。
「こんなに、愛してるのに」
「結構ですっ」
「遠慮しなくていいって」
このままじゃ終わらない。
私は頭の隅でそう感じた。
同じようなやり取りを繰り返しても埒が明かないのに。
どうしてか、こうなる。
だったら、別の手で出るしかない。
「……ですか?」
「ん? もっかい言って」
「先輩が私を好きだなんて、信じられません。好きになる理由なんかないのに」
ずっと疑問だった。
周りに埋まった平凡な私に、何故彼は目を付けたのか。
不意打ちの質問に、彼も驚いたようだ。
少し体が離れて、窮屈さがマシになった。
「好きになった理由?」
「……そうです」
「んなの、ある訳ないじゃん」
「……はぁ?」
予想外の答えに、思わず正面を向いてしまう。
気付いたときには、重なった二つの唇。
食い付くようなそれは、だんだん甘く深くなっていく。
「んっ……はぁっ」
「好きだから、好きなんだよ。バーカ」
何それ、と反論する間もなく、また塞がれる。
初めは抵抗していたものの、いつの間にか彼にしがみついていた。
「可愛い……好きだよ」
「はぁ……っ、バカっ」
「バカ、イコール好きだって、俺知ってるから」
好きだから好き
(……勝手に決めないでよ)
(じゃあ、返事はー?)
(嫌いだ、バーカっ)
♯溢れる想いを君に様/09.03.11 提出
03月お題『好きになった理由』より。




