ひとひらの花
「病気なの、私。もうすぐ死んじゃうんだよね」
僕は彼女が何を言っているのか、わからなかった。初対面の彼女に、何故そんなことを言われるのか、理解できなかった。僕がそんなことを思っているのを知ってか知らずか、彼女は暢気に笑っている。
「だから、死ぬまでの残りの時間、一緒にいて」
*
今日も学校帰りに、彼女に会う約束をしている。緩やかに続く坂道をゆっくりと下りながら、いつもの公園に入った。
「あ、今日も来てくれたのね」
「約束だから」
彼女は僕が約束通り現れる度、安心したように微笑んだ。まるで僕がそのうち来なくなるのを、恐れているかのようだった。
「今日は制服なんだ」
「うん、久々にね」
僕の通う公立高校の隣にある、私立高校の制服だ。
「……貴方は私に、いつまで生きられるか、聞かないのね」
「なんで?」
「今までの人は、聞いて来たから」
「僕のほかにもいたんだ。その人たちは?」
僕の他にも彼女の相手がいたんだ、と思うと、何故か胸が痛んだ。彼女は少しだけ寂しそうな顔をして、答えた。
「みんな、私から離れちゃったの。……病気なんて、嘘なの。死ぬっていうのも、嘘」
「ふ―ん」
「怒らないの?」
怒りたい。だけど、僕は彼女が嘘をついていると気付いていて、近づいたから。だから、彼女を怒れなかった。
「知ってたよ。嘘つき少女がいるって聞いてたし、それが貴女だとも、薄々気付いてた」
「じゃあ、何故毎日会いに来てくれるの?」
「さぁ。なんでだろうね」
「明日から、来なくていいよ」
彼女は唐突に、そう言った。僕は苦笑しながら、頷いた。
*
次の日は雨だった。青い傘をさしながら、下り坂をゆっくりと歩く。
僕が何故彼女に会いたいのかなんて、答えはもう見つかっている。




