王都観光Ⅱ
おはようございます。
先週はすいません。
合流した俺達はひとまずエメラルドの待つ城まで迎えに行く。
昼時の王都の大通りは、人々が行き交って居た。
なんの目的も無く街に出かけるのは、いつぶりだろう。
「でも、本当によく見つけられたね。」
リオンとアレックスはいつの間にか仲良くなって居た。
リオンは無駄に社交性があるからなぁ。
その点ナミは人見知りなようで、俺の後ろに隠れるようにいる。まぁ、ずっと一人だった訳でコミュ力がないのも仕方ない。
そういう俺は二人の頭二つ分くらい後ろを着いて歩く。
いや、二人が仲良くなるのが速すぎて着いていけないだけで、決して俺にコミュ力が無いわけではない。
リオンが異常なのだ。
そう言えば、俺とリオンが出会った時もすぐ仲良くなったなぁと思う。あれも恐らくリオンのおかげなのだろう。
「あぁ、本当に大変だったよ。何処を探しても居なくってさ。でも、ああ言った手前城に戻ることもできなくて、この人混みで見落としたかもしれないし、さっきからまた移動したかもしれない、って思って何度も何度もこの街中駆け回ってさ。ギルドなんて普通行かないし、真っ先に選択肢から除外してたしなぁ。何度も何度もギルドの前を通り過ぎたよ。」
折角の遊びの日に、ギルドに行っているなんて誰が思うだろうか。
「すまないな、大変な思いさせたみたいで。」
俺は一応謝っておくことにした。
こいつの事だから、あんまり気にしてないだろうけど、何も言わないってのもどうかと思う。
言葉に出しておかないとな。
いきなり後ろから聞こえた声に驚いた様に振り返るアレックス。だが、直ぐに微笑んで。
「ははっ、いいっていいって。見つかったんだからもう。」
と言う。
これができる男と言うやつだろうか。
まぁ、少なくともこいつからはデキる男というイメージは湧かないのだが。
「そうだね、とりあえず早く王女様のところにいこ?だいぶ待たせちゃってるだろうし。」
そう言って振り返るリオンとアレックスの間に、白亜の城が覗いた。
「なかなか遅かったじゃないの。」
そういうエメラルドは待ち遠しかったのか、既に変装を済ませ城の外で待って居た。
そんなエメラルドを、初めて遊園地に行く妹を見る様な心境で見る。
「お待たせして申し訳ありません姫。まさか人と合流する人間がギルドに居るとは思いませんで。」
…なんかちゃっかり俺たちの所為にしてね?
皮肉混じりに聞こえるんですけど。
さっきまでカッコよかったのに。
「それでも、何処に居ても見つけると言った貴方が見つけられないのが悪いのよ。」
「うぐっ」
さっきまで自分が言っていた事を言われ、否定できないアレックス。
馬鹿め。
「まぁまぁまぁ、彼が言っている事も事実な訳ですし。私達が謝ることがあってもアレックスが謝ることは無いんですよ。」
アレックスの事を柔らかにフォローするリオン。
よかったなリオンと友達になっておいて。
それに…とリオンは続ける。
「王女様もずっと楽しみに待っておられた様ですし、これ以上待たせるのもどうかと思いますよ?」
そう言ってエメラルドの顔を覗き込み、にこりと笑った。
流石リオンだ。遊びに行ってしまえば、エメラルドも楽しさでこんな些細な事忘れてしまうだろう。
その言葉を聞いた後エメラルドは、恐らくずっと、待ち遠しくて楽しみで、にやけてしまって居た顔を赤くして焦った様にぐっと引き締めた。
「べっ、別に楽しみでもなんでもないけれど、早く行きましょう。時間が無いわ。」
ほらほらと言って俺たちの事を押して来るエメラルドの顔は、折角一度キリッとさせたのに、既に見てられないほど崩れて居た。
結果今日一日は成功したと言っていいだろう。
エメラルドも楽になったみたいだし。
俺達も楽しかった。
前世と比べてしまうと、ゲーセンやカラオケとか映画とか無い分娯楽が少ないと思いがちだが、意外とそうでもない。
射的や弓、輪投げにストラックアウト。
そういった屋台が普段から街にはあり、常に祭り状態といった感じだ。
俺達は合流した後まずアレックスのオススメのご飯屋さんに行った。
自称グルメなアレックスのオススメはどれも美味しかった。
レストランと言われたから少し身構えてしまったが、前世でいうファミレスや定食屋さんに近い雰囲気の店だった。
お金も安く済んだし、王都に来たら毎回此処に来ても良いかなとさえ思った。
その後は、日常品を探しながら各々ショッピングを楽しみ、屋台を回った。
「いやー買いすぎちゃったね〜。お財布すっからかんだよ。」
「明日から頑張らないとなぁ。」
町での買い物を終えて大量の荷物を持ったリオンが言う。
空も赤く燃えるような色に変わり始め、夜の始まりを告げる。
明らかに買い過ぎと言えるほどの荷物を持つリオンだが、その中には俺達の物も入っているのでなにも言えない。
俺とナミはそう言ったことには疎いので買い物は全部リオンに任せたのだ。
もちろん、今回の勲章をもらった時にもらった報酬はしっかりと残って居るが、これも大半は武器代に消えるので、決してたくさん残るわけじゃない。
もうお金は使えなさそうだ。
「あ、でも。まだ遊び足りないです!」
「ねー、ねー!私も私も!」
ナミとエメラルドもいつの間にか仲良くなって居て、朝よりもちゃんと話す様になって居た。
「あぁ、じゃあ…。とっても良いところがあるんだ。今有名で、無料で楽しめるんだけど。行く?」
それはもちろん…
みんなも遊び足りない様だし、お金がかからないのなら。
と言うわけでとある広場に俺たちはやって来た。
何もないただの広場なのに、異様に人が居た。
何だと思い人混みの中心を見るとステージがあり、そこには暗幕が掛かっていた。
「今、王都には有名な劇団が来ていてね。魔王襲撃の復興ステージということでチャリティーイベントを無料で開いてもらってるんだ。」
「なるほど、それで無料で楽しめるんだ。そうとなったらなるべく良い席を取ろうね。」
リオンが数人の荷物を持って走って行った。たぶん席取りに使うんだろう。
席と言っても、座れる椅子の席は先着順なので、今から並んでいてもおそらく取れない。地面に直座りしかないだろう。
席取りもとい場所取りはリオンに任せよう。
「それで、何のお話をやるんですか?」
ナミは興味津々にアレックスに尋ねる。
まぁ、生い立ち上童話やら神話やら、まず物語自体あんまり知らないだろうから気になるのもわかる。
俺も気になる。
「えっと、確か創期伝だったっけ。知らない?結構有名な神話なんだけどなぁ。名前の通り、神様が居た神話時代のこの世界の元となった世界が、今の世界に変わるまでのお話だよ。と言っても神話をそのままやるわけじゃないと思うよ?物語チックにはなってると思う。」
「えっと、その話って魔物が神々の住む世界に侵入して来たっていう、あれ?」
その話はアリスに聞いた。
その話がそのまま人間達に伝わって居るとしたら。
そしたら、人間達の誤解を解くのは意外と簡単に行くかもしれない。
神話だから、物語だからと誤魔化して居るのかも知れないが、神話時代に人間達はこの世界に存在しなかった。
そして、この世界に現れたのは魔物だけ。
その矛盾さえ指摘できれば、きっと。
「うん。やっぱり知ってるんじゃん。脚本は劇団書き下ろし完全新作だって。すっごい楽しみだね。」
「あぁ、そうだな。」
ナミがちょいちょいっと俺の裾を引っ張り
「どんなお話なんですか?」
とこっそり聞いてくる。
しかし、俺の知って居る話であってるのかそもそもわからない。
答えあぐねていると。
「や、やっぱいいです、ネタバレ厳禁ですよぉ〜。」と耳を塞ぎ始めた。
正直助かった。
塞いでいる手を無理やり剥がし、耳元で
「実はな…」とつぶやいてやると、ウッキャーー!!と叫びながらリオンの方へ行ってしまった。
そして暫くするとリオンが走って来て
「良い場所取れたよ!」
と満足顔で言った。
ナミが待っている様なので、俺たちはリオンに招かれてそこへ行く。
途中アレックスの後ろにいるエメラルドにちらっと横目をやると、盛大ににやけて居た。
さっきから黙っていると思ったら耳を塞いでいる様だった。
若干気持ち悪く思いながらも
「どうしたんだ?」
と尋ねる。もちろん手を剥がしてから。
「ん?あぁ、あんた達が今日の劇の話をし始めたから耳を塞いでたのよ。終わったかしら?」
と言った。
確かにストーリーのネタバレは嫌だが、どんなテーマとか題名とか、その位は良くないか?
どんだけネタバレ嫌いなんだよ。とエメラルドに言ってやろうとエメラルドをちらっと見た。
横目に映るエメラルドは、本当に楽しそうで、そんな無粋な事を言うべきじゃないと思った。
代わりに
「楽しそうだな。そんなに楽しみか?ヨダレ垂れてんぞ。」
と言ってやった。
「べ、別に楽しみでもなんでもないわよ。ずっとファンだった劇団が街に来てるのに、市民がたくさんいる所に行くとパニックになったり危険が多いから、禁止されてて見に行けなかったステージを見に行けて超楽しみだったなんてこれっぽっちも思ってないわよ!」
「すげぇ分かり易い説明どうもありがとう。そんな嘘付いてないで、もっと素直に楽しもうぜ。お前の顔は超楽しみだって言ってるぞ。」
俺が言うと、エメラルドはニヤニヤして居た顔を、恥ずかしそうにキュッと引き締め少し前にいるリオンとアレックスの元へ走って行ってしまった。
「本当今更だな。お前今日ずっとそんな顔してたぞ。」
小さく呟いた言葉がエメラルドに届いたかどうかは分からないが、リオンの元に辿り着く前に、肩がピクッとなったのを俺は見逃さなかった。
おやすみなさい
予約投稿で明日の朝に投稿しようと思ってたのに失敗しました。
これは明日分ということでよろしくお願いします。
中間テストの影響で少し不定期になるかもです。




