王都観光(前半)
おはようございます
授与の儀が終わり、俺は謁見の間から逃げる様に出る。
想像よりは緊張しなかったとはいえ、一人で王族やら貴族やらたくさんの偉そうな人達に見られて少なからず緊張はした。
なんちゃってでも魔王なんだから大きな態度で入れば良いのかもしれないけれど、やっぱり俺には無理だった。
エメラルドと話す機会はこの城を出れば恐らくもう無いだろうから、最後に声をかけて見る。
「よお」
王族だとわかった後でも、慣れてしまった話し言葉はそう簡単には変えられない。
俺は馴れ馴れしく声をかけた。
きっとそれが、それが今の彼女にはとても大きく効いた。
この独りで居るには途轍も無く広い城。
そこで独りで過ごす彼女には、とても大きく効いたのだった。
彼女は泣き出してしまった。
それはもうワンワンと。大きく泣き叫ぶ。
子供の様に。
☆☆☆
「なるほど…」
聞いた。エメラルドの話を。
酷く悲しいひとりぼっちな少女の話。
人様の家の事情に首を突っ込みたい訳じゃない。こんな大変な話俺が聞いていい様な話じゃ無いとも思う。
下手すれば王家から口止めされる様な。
でも、今は将来の事を憂いて居る場合では無い。
国に敵対されようが、今救わなければいけないのはこの少女なのだから。
自分のしたいように出来るこの力は、自分が助けたいと思った者のために使うために手に入れたのだから。
だから、下手な事は言えなかった。
故に無言になってしまった。
そして困った顔になってしまって居たのかもしれない。
「ごめんなさい。」
いつの間にか泣き止んで居た彼女は俺の顔をみてそう言った。
「貴方に関係の無い話をして困らせてしまって。」と。
此処にはたくさんの人が居るはずなのに、この廊下は今まで誰も通らなかった。
そして今も、足音は俺から遠ざかって行く一つしか聞こえなかった。
「待てよ!」
咄嗟に声をかける。
この時を逃したら本当に何時話せるか分からなかったから。
「そ、その。俺が居るから!少なくとも俺はお前の味方になってやる。一緒に戦った仲だしな。」
何も考えずに声をかけたので、声が吃るが、きっと伝わった。
「ええ、そうね。ありがとう。でも、城には居ないの。」
更に遠ざかって行く足音。
そこに足音が増える。
だんだん大きくなる、つまり近づいてくる足音だ。
「あ!姫様。こんなところに居たのですね!気がついたら居なくて心配したんですよ?…ん?何かあったんですか?」
そこに居たのはアレックスだ。
王女付きの騎士の見習い。
「何かって?」
「またまたぁとぼけちゃって。とても寂しそうな顔をしていらっしゃいます。そうだ!今から町に遊びに行きましょう!」
すごい。
俺が上手く出せなかった言葉を簡単に伝えて行った。
きっとエメラルドとアレックスの付き合いは長いのだろう。
俺はその場をアレックスに任せ、ナミとリオン達を迎えに向かった。
応客室。
そこに二人は待って居た。
リオンは落ち着いて紅茶を飲んで居るが、ナミのもつカップはカタカタと音を鳴らしている。
平常運転だぁ。
「おかえりヒロくん。」
「あ、あ、あ、あり、おかえりなふゃぃヒロさん。」
エメラルドの方はきっとまた頑張れる。
アレックスがいれば彼女は独りにはならないだろう。
馬鹿な様で、そんなところには気づく野郎だ。
「何かあったんですか?」
「何って?」
「私の目は誤魔化せませんよ。」
本当にリオンは何者だ。
今度ちゃんと聞こう。俺はなんだかんだ言って仲間の事を知らな過ぎる。
人里に降りて来てから何と無く日々を過ごしている感じだ。
「実はな…
………
……
…という事があって。」
兎も角、さっきあった事を全て話した。
「なるほど、それで力になれなかったのが悔しいと?」
いや、別にそういう訳じゃ無い。
ただ、俺は何が出来るんだろうって。
アレックスだけに任せるんじゃ無くて、俺には何が出来るんだろうと思ってただけだ。
「まぁ、少なくとも、ヒロくん。君は必要な時に王女様の側に居れればそれで良いと思うよ。」
今はアレックスに任せよう。彼女もきっとまだ頑張れる。
それでもまたちょっと溜まって来たら、俺の出番だ。
目一杯遊ばせて、楽しませてやろう。
その時は俺たちも目一杯遊ぼうと、そう心に誓ったのだった。
「おーい、まだ居ますか〜。」
そこへ突然男の声が聞こえて来た。
こんな、空気の読まない声はあいつしか考えられない。
「アレックス。何か用か?」
アレックスは後ろの二人に手を振りながら入ってくる。
「さっきまでヒロくん居たのに、もう居なくなってたから探したんすよ。それでっすね、王女様にもたまには息抜きが必要ってことで町に遊びに行くんすけど、一緒にどうっすか?きっと楽しいっすよ。アーサーも呼んでるんすけどね、あいつは真面目なやつだから来ないと思うんす。まぁ、仕方ないっすね。」
「強引な野郎だな。」
でも、正直断る気は無い。
というかさっき考えて居た事なのだ。
遊びに行くなら楽しませてやりたい。
「僕たち、この後王都を観光しようと思っていたんですけど、そう言うことなら王都の案内を頼めないかなぁなんて。」
いきなりの誘いに俺が断ると思ったのか、リオンからフォローが入った。
大丈夫分かってるって、という旨を目でリオンに伝える。
「りょーかいっすー。楽しみ楽しみ!」
「オラー!!アレックス!サボるんじゃねぇ!!てめえには王女付き騎士のなんたるかを一から教えてやる!!!」
一度決まりそうになったが、何か野太い声によって消された様だ。
「げ、俺と姫にはお昼まで仕事があるんす!それまで適当にぶらついててください。終わり次第探すんで。王都は俺たちの庭みたいなもんですからね。直ぐ合流出来ますよ。」
そう言ったが早いか、部屋から出て行った。
「嵐のような奴だったな。」
まだお昼前だと言うことで、王都を観光する時間もまだたくさんある。
お昼頃にはアレックス達も合流するだろうし、それまで何をしていようか。
結局、いきなり観光と言われたら逆に行きたいところが分からなくなってしまうパターンの奴で、いつの間にか俺たちは王都のギルドに居た。
この分だと、やっぱり案内は重要だな。
「始まりの町と依頼が違うかもしれませんしね。まだBランクの依頼結局一つしか受けてませんし。」
そうなのだ。
俺はAに上がったけれど、二人はまだなのだし、色々な事があった様でまだ結局一つしか受けてないのだ。
「王都なだけあって、やっぱりたくさんありますね〜。」
「うん、特にC以上の物が多いみたいだけど。やっぱり王都だからなのかなぁ。」
王都に来れる冒険者は、冒険稼業でそこそこ稼げないと此処には来れない。
中には元々家が裕福だったり、王都の町に住んで居たりする物がいるのでDとかFランクも無いわけでも無いのだけれど、やはりC以上のそこそこ難しいやつが多い。
まぁ、俺たちにはBランクが必要なので、あまり関係無いことだけれど。
「護衛、これも護衛。こっちも護衛だ。護衛が多いです〜。」
やはり国の内陸部で森などの自然から離れた王都には魔物はあまり多く無いらしく、基本は盗賊や山賊などの輩からの護衛が多い。
確かに砂漠には隣接して居るが、元々魔物にとっても住みにくい環境なので、実は彼処にも魔物は少ない。
決して居ないわけでは無いが…。
それは置いておくとして、確かに護衛依頼が多い。
魔物が少ない逆に、物の出入りが多い王都の周りを狙った輩が多いのだろう。
「王都で依頼も受けて行きたいけど、今日はお試しだからなぁ。まぁ、依頼の傾向が掴めただけでもよしとしよう。」
「そうだね、王都に来るのがこれで最後ってことも無いだろうし。そろそろ、ギルド出ようか。流石に此処に居るとは思わないでしょ。彼らでも。」
「うぉーい!!!こんなところに居たのかやっと見つけた!!!」
すごいな、おい。
なかなか忙しくて書く時間がなかなか無かったので、無理やり感がとてもやばいです。
今週も、文化祭の準備で忙しくなると思います。
そんなことにはなりたく無いけど、最悪の場合来週投稿出来ないかもしれません。
おやすみなさい




