奴隷
おはようございます
読んで行ってください
数日後俺達は予定通り、王都に招かれた。
と言うのも、王様直々に勲章を貰うためだ。
もし気配に敏感な奴が居て、俺を例の魔王だと気づく奴が万が一にも居るかもしれない。
そういう理由があって、目立つのを避けたかったのだが、魔王を退けたのは俺で、俺は一つの街を救った英雄と言うわけで、形だけでも貰ってくれと王様直々に申し込まれた。
そこまでして貰わないのも逆に不自然だし、人間の事だ、下等な魔物が人間に変化できるなんて夢にも思わないだろう。
それに冒険者ランクをAまで上げてくれると言う話だ。
ランクが上がることは単純に良いことだし、お金も入る。
そう自分を納得させ、今日王都に来たのだった。
外見の白塗りはとても美しい色で、高貴な王族を彷彿とさせる。
石造りの塔は建物の歴史を感じさせるが、決してボロくなっているわけでは無い。
遠くから見ると、別棟や、城を含めて全てがアシンメトリーになっていて神秘的な美しさを感じる。
そんな場所にいかにも場違いな3人が居た。
いや、紛れもなく俺達なのだ。
勲章を貰うのは俺だけなので、二人は遠慮して居たのだけれど、俺が不安なのもあって、無理言って付いて来て貰って居たのだ。
二人に着いて来て貰って本当によかった。
俺がぎりぎり平然と居られるのも、いつも通りの二人が居てくれるからだ。
無駄に落ち着いたリオンと、予想通り挙動不審なナミ。
平常運転だ。
今回ばかりは、正直ナミの気持ちが痛いほどわかる。
逆に何で、こんな凄いところに呼ばれて平然として居られるのかリオンに問いたい。
いくら異世界に来て、魔王になったとはいえ、元は小市民な俺だ。
さっきから、実はぎりぎりである。
「靴は?靴は脱がなくてもいいんでしょうか、このカーペットの上を歩いても良いんですか?怒られませんかね?ねぇ、ねぇ、まずく無いですか?ヒロさんならともかく、私達は無理言ってついて来たわけですし。あの騎士の人こっち見てませんか?大丈夫ですか?」
こんな様子のナミが居なきゃ正直俺がこうなって居たかもしれない。
「ナミさん、僕たちは客人なんだから堂々としていれば良いんですよ。」
「そうですか、そうですね。ところでこの服なにかおかしいところ無いですか?一応一番高いので来たんですけど。」
いや、本当リオン何者なの?
「いや、家庭の事情で、少しこんな事もありましてね。慣れているんです。」
「恐ろしい家庭の事情だな。」
そんな感じで、平常運転をしていた俺たちの元に、いかにも偉そうな叔父さんが現れた。
使用人と言った風貌ではなく、恐らく一家の主。
王城にいるということは、何処か大きな貴族なのであろうか。
「ヒロ様とナミ様、それにリオン様ですね?お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」
俺達は言われるがままに着いて行き、角の一室に案内された。
王城にしては、彫像品の類が少ないなと思っては居たが、この部屋は凄い。
予想するに客室とかそんな感じだろう。
見るからに高そうな壺や、何度も何度も上書きされた作者の気持ちが篭った油絵など。凄いものばかりだ。
よく考えてみれば、こんな高いもの比較的誰でも来れる廊下に置いたりはしないだろう。
あって精々綺麗な絵くらいだ。
ソファーも濃い赤と言った色合いで、硬く艶やかな革の質感の下に、座り心地の良いクッションを秘めている。
俺とナミは、高そうなものになるべく触らない様に、しかし促された手前断るわけにもいかずソファーに座る。
本心なら、そこの地べたに正座したい。
いや、あのタイルも実は高い何かで、傷つけたら嫌だから、直ぐこの部屋を出たい。
しかし、リオンは油絵の一枚につかつかと歩いて行って、「駄作」とつぶやいた。
「いやはや、流石ですなローラック家のお嬢さんはお目が高い。そうですとも、それはかのシェル・ヤーグス氏が人生で一番の駄作と称した油絵です。此処にくるお客様が、話のできる人物か大抵その絵を見た反応で分かるんですよ。」
「いえいえ、この位は義父に鍛えられておりますので。」
本当何者なんだ、リオン。
俺なんて作者の気持ちが篭った油絵とか言ってたぞ、恥ずかしい。
声に出さないで良かったぁ。
むしろ、このおじさんの方が小物だろう。なんて言ったってリオンのこと女の子だと勘違いしているみたいだし。
あれ?そう言えばどっちなんだろ。
僕って言ってるしたぶん男だと思うけれど、中性的な見た目だしなぁ。
これだけ一緒に居て、疑問も感じなかった事に、更に自分が小物だと言うことを感じて、少し肩を落としながら、リオン達の会話を聞く。
「これなら安心して、話が出来そうだ。」
「というと?」
「はい、私の元にこれからの国を変える大掛かりな商売の話がございまして。」
そこでようやくリオンがソファーに座り、話の続きを催促する。
「我が国の奴隷制度は、今混乱にあります。各地の貴族の家内でクーデターが起きて居て、そろそろ制度の全面見直しが行われるでしょう。そもそも、私はこの奴隷制度と言うものを好みませんでした。あまりにも非能率。使い捨ての様に使って居ては、当然働きませんし、少しでも我々にはむかおうとする。そもそも同じく神に最も近い種族なのですから、こんなに馬の様にこき使うと言うのが可笑しいのです。」
「確かに、働いても働いても自分達に得るものは無いですし、せいぜいその日生きれるほどの食料だけ。働く意欲が起きる方がおかしい。」
「ええ、その通り。そこで私は、考えたのです。いえ、なぜこの考えが今まで人間の中に無かったのか甚だ疑問です。寧ろ当然の事。こんなに辛い思いなら、魔物にさせればいいじゃ無いか。我々は魔物を嫌うあまり、街に入れたがりませんでしたが、実の所それは魔物に楽をさせて居たのでは無いか。下等な生物が我々人間の役に立てるのだから、光栄な事なのです。」
俺達は絶句した。いや、絶句したのは俺と、影世界に居る燐斗だけだが。
意味のわからない言葉の数々。しかし、確かにこの考えが人間に無かったのは不思議だ。
今現在、人間はある魔物達と共存をして居る。
と言うのも、自分達の役に立つ魔物達を益獣として、街に入れて居るのだ。
しかし、それははるか昔、人間がまだ思い上がる前の頃からの付き合いであり、馬や犬などは人間から魔物だと認識されていない。
そうすると、うちの燐斗も益獣扱いと言うことになる。
しかし、この男は魔物を魔物としてこき使ってやろうと言っているのだ。
もしかしたら、この制度が上手く転んで魔物の立場改革に上手く貢献してくれるかもしれない。
魔物の奴隷を買った後、その家の人間と魔物が、元の世界で言うペットと飼い主の様な関係になり、少しずつ色々な家庭で魔物に仲間意識が目覚めてくるかもしれない。
しかし、まぁそんな事は殆ど望めないだろう。
「今我々の手にはこの間手に入れた、大量の鷹達が居ます。どう使えるかはわかりませんが、調教は意外と簡単そうです。」
俺は無言で影世界を閉じる。
燐斗は今は出せないし、出さない。
「少し、考えておいてください。この鷹なんて、冒険のお供にちょうどいいでしょう、空から見張らせれば大抵の敵襲に気づくことが出来ますし。」
と言い終えたところで、それでは勲章授与に移りますので移動してくださいと続けこの話を無理やりに切った。
恐らくまだこの考えが、人間の中で異質であることに気づいて居るのだろう。
しかし、まだ。まだと言う言葉のように、これからこの考えがさも当然かの様に広まって行く姿は目に見えるようだ。
きっと遠くない未来。それは待っている。
勲章授与の儀式は拍子抜けするほど簡単に終わった。
途中エメラルドを見つけて、後で声をかけようと思ったけれど、エメラルドは終始俯いて暗い顔をして居たので、ここはアレックスに任せることにした。
それにしてもエメラルドだけ、王との距離が遠かった気がしたが、そんな事は部外者が口を挟むことでは無い。
終わった時にはさっきまでの話はもう過去の話になって居て、俺の中ではエメラルドの暗い顔だけが頭にこびりついて居た。
ありがとうございました。
おやすみなさい
 




