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憤怒

 くそ!これだから戦争ってやつは!

 目からは涙があふれた。短い時間でなんのいい思い出もなかったが、それでも仲間が殺されたのだ。

 降り続く雨の中、俺はひたすらにP.S〈パワード・スーツ〉を走らせた。

 俺はP.S内の狭い空間の中、この状況に焦ってもいた。正規軍の機密であるP.Sを一般人の子供に見られただけでなく、成行きとはいえ中に乗せているのだ。それも階級が軍曹である自分が操縦して。

 この状況が発覚したら厳罰は免れない。だから子供は嫌いなんだ。冷徹になり切れない自分にも腹が立つ。

 エリックはきょろきょろと機内を見まわしている。俺は涙をぬぐいエリックを怒鳴った。

「おい!あまりじろじろみるな!」

「ねぇ、ロイ……。このロボットは何なの?」

「お前が知る必要はない。」

「兄ちゃんはテロリストなの?」

「俺がテロリスト?冗談じゃない!あんな奴らと一緒にするな。」

「……そんなに怒鳴ることないだろ。」

 エリックはうつむいて悲しそうな顔をした。今にも泣きだしそうだ。

「……兄ちゃんがね、さっきの銃を持ってたやつらに連れていかれたんだ。お母さんも見つからないし、僕一人ぼっちなんだ。」

「……すまなかった。」

 一人の心細さは俺もよく知っていた。親父は軍の上層部の男でまともに会うことも少なく。母は研究者で研究所に引きこもることが多かった。

 物心ついた時から、俺は一人でいることが多かった。

 軍に入ったのは親父のコネである。親父に逆らうことはできなかった。軍人になどなりたくなかったのに。

 だから、俺は一人でバトラー少尉に連れてこられたエリックを逃がしてやりたいと思ったのかもしれない。

「安全な場所についたら、お前を下ろしてやる。そしたら好きにしろ。」

「いやだ!ロイは奴らと戦ってるんだろ!僕も奴らを許せないんだ。」

「ダメだ!俺一人なら何とかなるかもしれない、でもお前の命は保証できない。」

「そんなの大人の勝手な理屈だろ!」

「この……!」

 俺がそう言いかけた時だった。近くで建物が破壊される轟音が聞こえた。

「なんだっ!」

 その轟音の直後、P.Sの画面にDANGERの文字が浮かんだ

「警告します。『PSI』の精神波を感知しました。周囲に警戒してください。」

 PSの機械音が機内に響く。

 これはっ!まずい!

「エリック!全速力でこの場から離れる!しっかりつかまってろ!」

「えっ……?」

 そう言ってP.Sの速度を全開にした。

 予想以上のスピードが出て建物にぶつかりそうになるが、寸前のところでそれを回避する。

「うわー!」

 エリックが叫び声をあげているが、かまっている時間がない。

 少しでも無茶をしなければ、PSIが来る!

 その時、目の前に若い女性がP.Sの進路に現れた。

「危ない!」

 俺は慌てて進路を変えた。だが、スピードが出ていたP.Sは体勢を崩し、勢いよく転倒した。

「うわー!」

 俺とエリックはその衝撃をもろに受けた。

 P.Sが止まって、現状を確認する。

「っく!」

 体中に激痛が走る。何本か骨が折れてしまったかもしれない。エリックは頭から血を流していた。

「エリック!大丈夫か!」

 エリックに返事はない。生きているとしても、危険な状態であることは明白だった。

「くそっ!」

 俺はP.Sのハッチを開け、周りに避難できる場所がないか周りを見渡した。するとさっきの女が心配そうにこちらを見ていた。

「おい!あんた!手を貸せ!」

 わらにでもすがりたい気分だった。体中が痛くてとてもエリックを運び出せるような状態ではない。

「大丈夫ですか!」

 女は心配そうに駆け寄ってきた。

「あんたには、これが大丈夫なように見えるのか。」

 俺は肩を抑え、痛みをこらえて声を出した。 

「ひどい出血……、すみません私が飛び出したばかりに……。」

「俺はいい……、中に子供がいるんだ。広い場所で応急処置をしたい、手を貸してくれ。」

「えっ……?」

 女はそう言ってP.Sのコックピットの中を見る。

「大変……!」

「おい!何をしている、傷口に触るんじゃない!」

 エリックの傷口に触れようとした女を俺は出せる限りの声を出して止めようとした。

「大丈夫です……。」

「おい!」

 その時俺は信じられないものを見た。

 女がエリックの傷口に手をかざした場所からゆっくりと、だが確実に傷口がふさがっていった。

「え……。」

 一瞬何が起きているのかわからなかった。だが一つの可能性が俺の頭の中をよぎった。

 エリックの傷口がふさがった後、女は俺の方に顔を向けた。顔色がさっきよりも少し悪い。

「さあ、あなたも……。」

「近寄るな!」

 俺は腰につけた銃を女に向けた。

「貴様……、『PSI』だな!」

 俺は一つの可能性を口にした。女は表情を変えない。

「あなたは、正規軍なのね。私も軍人は嫌いよ。」

 女はそういいながら手を俺の肩にかざす。すると徐々に俺の体は楽になっていった。

「でも、あなたたちが言う『PSI』も私は嫌いなの。」

 女はそう言って俺の傷を治していく。俺は銃を下ろした。女の顔色はみるみる悪くなっていく。

「なぜ俺を助ける?軍人は嫌いなんだろ?」

「あなたこそ、どうしてその子をP.Sに乗せているの?」

 女の言葉に俺は黙り込んだ。『PSI』は目的の為なら手段を選ばないテロリスト集団だと思っていた。

「……あんたの様な『PSI』もいるんだな。」、

「『PSI』と呼ばないで。私はサラ・アンダルシアよ。」

「……ロイ・スミスだ。」

 俺の傷口は完全にふさがったが、まだ体に妙な違和感を感じる。

「しばらく、違和感が残るかもしれないけど。無茶しなければ大丈夫だから。その子もすぐに目を覚ますわ。」

「助かった、ありがとう。」

「ふふ、あなたっておかしな人ね。」

 その時、何人かの足音が聞こえた。服装から見てPSIの幹部の様だ。

「奴らだ!隠れろ。」

「無駄よ、ここは直に見つかるわ。あなたはその子とP.Sの中にいて。」

「サラはどうする!」

「私は……、もともとここにいてはいけなかったのよ。……じゃあね、ロイ、会えてよかったわ。」

 そういうとサラは足音のする方へ向かっていった。

 そうだ。サラはPSIなのだ。

 俺は狭いコックピットの中で憤りを覚え、壊れた計器を思い切りたたいた。

「ロイ……?」

「エリック……、大丈夫か?」

「うん、でも不思議なんだ。あんなに痛かったのに怪我一つしてないみたい……。」

「そうか……うちどころがよかったんだ。」

 俺は気のない返事をエリックに返す。ロイは心配そうに俺を覗き込んだ。

「ロイ?泣いてるの?」

「泣いてねぇよ……。」

 俺の目からは涙が出ていた。何の涙かもわからず、ただ訳のわからない感情に押しつぶされそうだった。


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