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崩壊

「ルーミス、エリックを途中まで送って行ってね。母さん今日は寝坊しちゃって手が離せないから。」

「わかってるよ。ほら、行くぞエリック!」

「ちょっと待ってよ兄ちゃん!」

 エリックが靴を履いている最中に僕は外に出た。空は雲がかかっていてなんだか一雨来そうな感じだ。

「待ってって言ってるのに!」

 遅れてやってきたエリックが傘を二本持って、顔を膨らませている。

「はい、兄ちゃん、傘!」

「あぁ、悪いな。」

 僕はエリックから差し出された傘を受け取った。

「お母さん、最近また痩せてきたみたい……。」

「仕方ないだろ、僕たちの学費を稼ぐ為に休みなしで働いてるんだから。僕も高校卒業したら働くし、少しは楽させてあげないとな。」

「僕も卒業したら働く!」

「お前はいーの!まだ小学生なんだから。それよりもいい大学に入れるように今のうちからしっかり勉強しておけよ。」

「兄ちゃんに言われなくても勉強ならちゃんとしてるよ!」

 エリックは怒ったように顔をそらした。

 母さんは6年前に父さんが失踪して以来、僕たち二人を女手一つで育ててきたのだ。普段は顔には出さないが、相当無理をしているだろう。母さんは僕にも大学を出なさいと言っているが、これ以上はさすがに無理をさせられない。

「お父さん……、どこいっちゃったんだろ。」

「知るかよ、あんな親父。」

 その時、後ろの方で物凄い爆発音がした。

 僕とエリックが驚いて後ろを振り向くと遠くの方で大きな煙が上がっていた。それを合図に、あちこちでサイレンの音が鳴り出した。

 煙の上がった方向のビルや建物が次々と音を立てて崩れだす。あたりは悲鳴がこだまする。空は赤く染まり、この世の終わりのように思えた。

「な、なに?」

 エリックは怯えて僕にしがみつく。そして、市内放送があたりに響いた。

「只今、市内はテロリストによる攻撃を受けています。市民の皆さんは、速やかに屋内に移動してください。」

 言っていることがよくわからない。屋内に逃げたからと言ってどうなるものでもないだろう。

 エリックは僕にしがみつきながら、不安そうにあたりを見まわしている。

 建物の中にいた人も、外に出てきはじめ、市内は人でごった返した。

「まずいぞ、このままじゃ身動きが取れなくなる。」

「お母さん!」

「おい、エリック!」

 エリックは持っていた傘を放り投げ家の方角へ駆け出した。だがその方角は煙が上がった方角でもあり、非常に危険だ。携帯で家に電話を掛けるが繋がらない。

「くそっ!エリック!一人で先走るんじゃない!」

「お母さん!お母さん!!」

 必死で走るエリックを止めることはできなかった。何よりも僕も母さんが心配だった。僕も持っていた傘を放り投げ、エリックの後を追った。

 家の中に入ると、中に人の気配は無い。

「お母さんどこー!?」

 僕も部屋中を探してみたが、母さんはやはり見つからない。

「どうしよう、兄ちゃん。お母さんいないよ。」

 エリックは今にも泣きだしそうだ。

「大丈夫だ、母さんもきっと逃げたんだよ。きっとすぐに会えるさ。」

「本当に?」

「あぁ。」

 正直僕も不安だったが、エリックを落ち着けるために、あえてそう言った。

 その時、誰かが玄関のドアを開けて、家の中に入ってきた。

「おか……。」

「しっ!」

 僕はエリックの口を塞いだ。足音を聞く限り、間違いなく母さんのものではない。もっとずっしりした男の足音だ。

「隠れるぞ。」

 僕は声を潜め、エリックと一緒に奥のクローゼットに隠れた。

 部屋の扉が開き、2人の武装した男が中に入ってきた。手には銃を構えている。

「クリア!」

 男は親指あげ、そう言うと部屋の中を乱暴に物色し始めた。その光景に僕は恐怖を感じた。

 男達は徐々に僕らに近づいてくる。隅々まで探索する男達がこの場所を見ないわけはない、このままでは二人とも見つかってしまう。だが、最悪の場合二人とも殺されてしまう。恐怖の中、僕は意を決した。

「ここで待て……。」

 小さくエリックにそういうとクローゼットから飛び出し、後ろ手でクローゼットを閉めた。

 その瞬間、男たちは容赦なく僕に銃を向けた。僕は両手をあげ服従のポーズをとった。

「貴様!この家の人間か!」

「……。」

「答えろ!」

 男は今にも発砲しそうな雰囲気だ。恐怖の中、僕は声を絞り出した。

「……はい。」

 武装した男たちは顔を見合わせると、一人は部屋を出ていった。だがもう一人は僕に銃口を向けたままだ。

「ここで待て!」

 部屋の外から話し声が聞こえる。無線か何かで別の人間と通信しているのだろう。マイヤーズ家の人間をどう……などと聞こえてくる。

 僕たちを知っていてこの家に踏み込んだのか?いったい何のために?だが、答えを出すには判断材料と時間があまりにもなさ過ぎた。

「出ろ!」

 僕は二人の男に連れられ、振り返ることなくエリックのいる部屋を出た。

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