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無限ループ

作者: 尚文産商堂
掲載日:2011/01/31

「5年、親分が閉じ込められてから5年が経った。我々が長い間待ち望んだ奪還の作戦を、実行する!」

鬨の声を上げ、士気を一気に盛り上げる。


5年前、ヤクザ同士の大規模な抗争があり、民間人を含む12名が死亡した。

その下手人の監督責任を問われ、双方のヤクザの親分が逮捕された。

それから1年後、禁固10年の確定判決が下され、収監された。

だが、その直後、親分の奪還作戦を実施し、看守を1名射殺、面会に来ていた家族を人質とした立てこもりへと発展した。

その時、親分が子分らをいさめ、事態を掌握した。

しかし、親分は脱獄未遂として、裁判無しに5年間の禁固延長を申し渡された。


そんな状況で、スーツを着た二人の男が、親分が収監されている刑務所の分厚いレンガでできた壁にもたれながら話していた。

「あんなことは、二度と起こさない。決して」

「わかってますぜ若頭。そのために入念な計画を練り、襲撃練習もしました。下見もばっちりと」

「ああ、だからといって、急な計画変更という可能性もある。最後のブリーフィングをするから、それぞれの班長を呼んできてくれ」

「へい!」

若頭の横にいた男に、班長を集めるように若頭が支持をすると、3分以内に全班長が集まった。


突入班、制圧班、交渉班、陽動班、総務班、脱出班の6班で構成されている今回の脱獄の概要はこうだ。

まず、親分の面会という名目で、交渉班が内部に入る。

親分とは一つの部屋であわせてもらうように、あらかじめ申請してそれが受理されているから、陽動班は親分と面会室で合流することができる。

次に、合流してから5分以内に交渉班が、看守と単純なもめ事を起こし、それにいちゃもんをつけたうえで大規模な暴動へと発展させる。

この時点で、内部は混乱しているだろうから、突入班が壁を破壊したうえで突入。

脱出班、陽動班、制圧班が内部に入り、まず制圧班が看守達を制圧。

陽動班は、制圧班で制圧しきれなかった看守達を脱出口から遠ざけ、そのすきに交渉班と脱出班が合流し、親分を連れて脱出。

外で待機している車に乗せ、脱獄は完了。

内部に残った仲間は、突入班により救助されるという手筈になっている。


「以上だ。何か質問は」

「若頭。若頭からの指示は、どうやって受け取ればいいんですかい」

「俺から指示を出すことはない。各個の任務を果たせ。それでいい」

若頭がそういうと、全員うなづいた。

「準備は」

突入班と交渉班に聞いた。

「いつでもいいですぜ」

「すべては親分のために」

そう言って、それぞれの班のもとへ戻った。


午前10時、交渉班が内部に入った。

「身分証を提示してください」

受付にいる刑務官に言われ、交渉班2人が運転免許証を見せ、名前を名簿に書き、住所を教えたうえで、看守の付き添いで面会室へ案内された。

面会室には、すでに親分が座って待っていた。

親分の手にかかっていた手錠は、交渉班の二人が入った時点で外された。

「親分、ご機嫌はいかがでしょうか」

「ああ、何事もない。お前たちも大丈夫か」

「こちらも、おかげさまで」

そういった定型句を繰り返していた。


5分ほど、親分に現状を話すと、外の看守を呼んだ。

「おい、終わったぞ」

扉は内開きになっていて、交渉班がいるほうへ勢い良く開かれた。

同時に、扉の後ろに立っていた交渉班の一人にあたり、作戦が始まった。


「ってーなー。おい、お前どこぶつけてんだよ」

単純ないざこざから、暴動を誘発するような騒動へ発展させる。

「お前が悪いだろうが。見てみろや、鼻血が出てるだろうがよ。どう落とし前付けるんや!」

そこはヤクザ。

看守に有無を言わさず、ボコボコにしようと胸ぐらをつかんだ。

だが、看守も仲間を呼んできた。


けたたましいサイレンが刑務所に鳴り響く。

「始まったな。突入班、いくぞ!」

若頭が指示を飛ばす。

「いいな、計画どおりにするんだ」

「わかってます」

突入班の班長が答える。

持ってきたのは、鉄球が先端に付いたショベルカーのようなものだった。

それを振り子の要領で刑務所の壁にぶつけ続ける。


3回目ぐらいでひびが入り、5回目で向こう側が見えるようになった。

「よーし、あと一回!」

7回目、壁は轟音を立てて崩れた。

「突入!」

若頭の号令一下、あけられた穴から次々と部隊が入っていく。


看守たちが気付いたのは、制圧班が看守たちに銃を向けた瞬間だった。

「おい、親分を解放せよ」

「貴様ら…ただでは済まないぞ」

「当然覚悟の上、俺たちは失うものもない。何も恐れてない」

班長は銃を突き付けたまま、彼らに告げた。

「もう一度言う。親分を解放せよ」

「解放もへったくれもあるか。貴様らの親分は、面会室だ」

「わかった」

班長はすでにわかっている面会室の場所にいると、脱出班に伝えた。


脱出班班長は、その連絡を受けて、一気に面会室へ進んだ。

陽動班は、途中で脱出班と別れ、脱出口と反対側で大規模な爆発を起こした。


面会室には、靴ヒモで手を縛られた看守二人と、交渉班、親分がいた。

「親分!」

そこに、脱出班が駆け込んできた。

「お前らか…」

「ご無事でしたか。さあ、こちらへ。脱出します」

班長が手をさしのばすが、親分は手を出さない。

「俺は行かんぞ。5年前を忘れたか」

「親分。5年前もそう言って、脱出の機会をみすみす逃がしてしまったんですよ。しかし、今回は大丈夫です。さあ、早く」

「お前たちは、何を考えているんだ。順当にいけば10年かそこらで仮出所、15年で釈放といった段取りだから、それまでは俺の代わりに組を守れって言っただろ。お前らはバカか」

「俺たちは親分のことを思って……」

しどろもどろになりながらも、交渉班班長は説得を試みようとしたが、親分に一喝される。


壁の外で待機している若頭と見張り役は、中でどうなっているかの情報をほしがった。

「…だれか、連絡を」

持ってきていたトランシーバーで、誰彼問わずに状況を聞こうとした。

「脱出班です。親分と合流しました。しかし、親分は出てこようとしません」

「どうにかしろ。親分無くして組は無し、組無くして俺ら無しだ」

「了解しました」

脱出班の班長はそう答えると、トランシーバーを切った。


「班長、どうしました」

脱出班の班員が聞いた。

「ああ、親分を連れて脱出する」

班長が言うと、親分のもとへ歩み寄り、耳打ちする。

「親分がなんと言おうと、我々の気持ちは変わりません。連れて行かせてもらいます」

「…好きにしろ」

「よし、交渉班、親分を連れ出すのを手伝ってくれ。急いで脱出させる」

「わかりました」

脱出班と交渉班が合流し、親分を面会室から廊下へ連れ出した。

「左右を確認、無人確認後、脱出をするぞ」

脱出班班長が指示を出す。

「親子がいます!」

「またか…どうしてる」

「看守に守られて、こちらを見てます。おそらく、面会に来た家族でしょう」

班員が答える。

班長は、次の指示を出した。

「また殺すことはできない。どうにかしてよそへ移してもらうしか……」

「どうするんだ」

親分は、周りを固められながら移動していた。

すでに面会室の扉のすぐ近くまで来ている。

「だれか、奴らを追い払え」

「わかりました」

班員のうち、2人が銃を片手に看守とその家族のところへ向かう。

その間に、親分は逆の方向にある脱出口へと動かされる。


「おい、お前ら。ちっとばかし退け」

「貴様ら、テロリストの要求をのむ気はない。だが、この家族のためだ。銃を撃たないでくれよ」

「ああ、こちらも何もなければ、銃を撃つことはない」

そう言って班員は銃を狙いながらも、一歩ずつ彼らに近寄る。

その後ろで、親分を取り囲んで警護しながら、ゆっくりと移動をしていた。


若頭へ連絡が伝わったのは、その最中だった。

「ああ、俺だ」

「若頭、脱出班班長です。親分を連れて現在脱出口へ移動中。10分もかからずに到着する予定です」

「そうか、よくやった」

きると、その場にいた人たちに指示を出す。

「親分が来るぞ、車を回せ。突入班は、再度突入を行い、仲間を救助せよ」

しかし、その指示は直後に撤回されることになる。


親分たちが面会室から10m程離れたとき、パーンと乾いた音が廊下全体に浸み渡った。

「やっちまった」

「…き…貴様…ら」

「楽にしてやれ」

再び発砲音が聞こえたと同時に、重いものが廊下に落ちる音がした。

「…やってしまったか」

親分が一行を止め、左胸と頭から血を流している看守のところへ戻る。

まだ硝煙の煙が立ち込めているところでは、家族を追い払うために派遣された二人が、銃を持ちながら震えて立っていた。

「親分……」

「お前たちは、もう家族じゃない。今日で足を洗え」

そう言って二人を無視し、より震えている家族の近くで片膝を地面につきながら話した。

「今回は、俺のところの部下が、バカなことをやってしまったばかりに危険な目に遭わせてしまいすまない。こいつらは、俺が警察へ出頭させる。だから、安心するんだ」

だが、その家族は震えるのをやめなかった。

「計画を中止させろ。今回取り仕切っているのは、どうせ若頭だろ。あいつも前回から何にも変わっちゃいねえ」

班長が持っていたトランシーバーを取り上げ、親分自らが若頭に連絡を取る。

「おい、若。返事しろ」

「親分。今どこにいらっ……」

「銃を発砲しやがったバカがいてな、今回も失敗だよ。お前たちはもう帰れ。この場は俺が掌握した。いいか、こんなこと、もうやめろ」

「…わかりやした」

若頭はそうつぶやくと、そのトランシーバーで一斉に話をした。

「突入班、全員を救助せよ。作戦は中止だ。親分、発砲については任せました。よろしくお願いします」

「わかってる」

それから、トランシーバーを脱出班の班長に返し、自身はその場に残り、発砲者以外の全員はその場から駆け足で出て行った。


結局、銃を発砲した元組員2人は逮捕され、親分には追加懲罰として禁固5年の延長が即日申し渡された。


若頭は組の事務所に戻り、各班長を集めて会合をしていた。

「まだだ、5年後、もっと計画を練って…」

「ですね」

また5年後、彼らは同じ過ちを繰り返すのか、どうなるのかは、また別のお話。

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