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Day1 -1日目-

【登場人物】

神崎零壱かんざきれいいち

元東京中央技術大学 情報工学科の教授。日本の情報工学の第一人者で、インターネットの普及に貢献した。2020年に定年退職、現在は年金生活。子どもは独立、妻に先立たれてからは、東京都北区にある築40年以上の二階建て住宅で、妻の思考を学習させたAI(人工知能)と暮らしている。

神崎悠季かんざきゆき

神崎零壱の妻で結婚してからは専業主婦だった。2015年にアルツハイマーを発症。東京中央技術大学病院のアルツハイマー新薬研究プロジェクトの治験に参加するが、治験途中に亡くなる。看護師が気づけなかった投薬装置の故障による過剰投薬が原因と推測されたが、因果関係は不明。

・AI(YUKI)

神崎零壱が神崎悠季の思考を学習させたAI。神崎零壱のことを誰よりも把握している。自宅にかかってきた電話に音声で対応、電話をかけることもできる。受信したメールに対する返信を作成して送信できるなどの機能も搭載している。

佐藤波流さとうはる

東京中央技術大学 情報工学科 2020年卒の神崎教授の教え子。警視庁 サイバー犯罪対策課。

上条雷人かみじょうらいと

東京中央技術大学 情報工学科 2010年卒の神崎教授の教え子。元米国IT企業「ダーウィンスペース」日本法人の社員。「ダークマップ」管理人。サイバーテロを計画し実行する。

※ブログにも掲載中。

11月6日、大場玲を名乗る犯人の要求動画が放送された翌日。

各放送局は今回の事件を報道特別番組として放送していた。

ある局は事件の経緯を説明、元警察官や弁護士、セキュリティ専門家の意見を聞いていた。

また、各公的機関への取材の様子も放送していた。


「最初に今回の事件の経緯を振り返ってみたいと思います」

司会者の男性が、フリップの内容を説明していた。

「11月3日の文化の日、犯人はドローンを使って、東中技大病院の火災を起こしました。

翌11月4日、都内の病院に、東京都の注意喚起を装ったウイルスメールを送りました。


このメールが届いた病院はウイルスに感染、システムが使えなくなりました。

翌11月5日、当局を含む民間各局に要求動画を添付したメールを送りました。

メールには、要求動画を放送すれば、病院のシステムを復旧させるとありました。

当局が放送した後、犯人は病院のシステムを復旧しました」、司会者が自慢げにいう。


「これまでの経緯で、何かご意見はありますか」、司会者がゲストに尋ねる。

「あの、よろしいですか」、元警察官が手を挙げていう。

「はい、どうぞ」、司会者が発言を促す。

「要求動画を放送することは、警察には相談されたんでしょうか」、元警察官がいう。


「捜査に支障が出る可能性があるので、お答えできません」、司会者がいう。

「もし、警察に相談していないのであれば、問題ではないか」、弁護士がいう。

「そうなんですよね。そのことも踏まえ、局内では慎重な議論が行われました。

議論した結果、昨日の放送をさせていただきました」、司会者ははぐらかした。


「犯人は、1週間以内に全ての公的機関のトップを40歳以下にするよう要求しています。

この要求に対して、何かご意見はありますか」、司会者がゲストに尋ねる。

「現状の法律ではできない。従うなら超法規的対応しかないでしょう」、弁護士がいう。

「私も先生の仰る通りだと思います」、司会者が困った顔でいう。


「犯人は、要求に従わない場合、都内の電力供給設備を使用不能にするといってます。

電力供給設備を使用不能にすることは可能でしょうか」、司会者がゲストに尋ねる。

「犯人は都内の病院のシステムを使えなくしたことから、かなりの能力があります。

電力会社のセキュリティを考えると、可能だと思います」、セキュリティの専門家がいう。


警視庁のサイバー犯罪対策課。

捜査責任者の岩田は、捜査員たちと、捜査方法の打ち合わせをしていた。

結果、上条雷人を東中技大病院火災事件の容疑者として指名手配する方向になった。

そのとき、対策課のドアが開いて、スーツ姿の男たちが入って来た。


「今から捜査の指揮は、公安が行う。

責任者と打合せしたいので、部屋を用意してくれ」、先頭の男がいう。

入って来た男たちは、捜査員たちの動きを見ている。

「こちらへ…」、岩田は先頭の男を別室へ連れて行った。


しばらくして、別室から岩田だけが出てきて、捜査員たちにいった。

「現場からの報告は私が公安へ伝え、公安からの指示は私が伝える、以上だ」

公安の男たちは、捜査員たちの背後をうろついて、動きを見ていた。

我々を監視しているみたいだな、昨夜の男も公安なのか、佐藤は思った。


東京都中野区。

仕事帰りの佐藤は、昨夜、夕食をとったファーストフード店に向かっていた。

別室にこもった男以外の公安の男たちは、一日中、捜査員たちを見ていただけだった。

ときおり、岩田さんが別室の男に報告をしに行き、出てきたら指示を伝える。

定時になると、帰るように指示された、普通なら考えられない、佐藤は思った。


昨夜、夕食をとったファーストフード店が近づいてきた。

交通量の多い大通りに面しているためか、この時間は客が多かった。

ガラス越しに見える店内は、椅子の8割ほどに客が座っていた。

店の奥の厨房から入口に向かって店員が移動する通路があり、周りがカウンター席だった。


店内に入ると、自動券売機で食券を買った。

入口に近い空いている席に座ると、カウンターに食券を置いた。

店内の客の顔を見渡したが、昨夜の男はいなかった。

右隣りの席に座っていた会社員風の男性が食べ終えて、席を立ち、店を出て行った。


男性が座っていた席に、会社帰りらしい女性が座り、カウンターに食券を置いた。

チラ見した横顔からすると、30代後半といったところか、佐藤は店員に目を移した。

「あっ」、女性の声がした瞬間、スラックスが冷たくなった。

とっさに足を動かして、下を見ると、スラックスが濡れていた。


カウンターを見ると、女性がピッチャーから水を入れようとしたグラスが倒れていた。

グラスからこぼれた水が、カウンターの上を流れ、佐藤のスラックスを濡らしていた。

「すいません!お拭きします!」、女性がハンカチを手に席を立った。

「自分で拭きますから」、佐藤はいい、おしぼりをとり、スラックスを拭いた。


「申し訳ありません、大事なお洋服を…」、女性が頭を下げて謝る。

「気にしないでください、大丈夫ですから」、佐藤がいう。

「クリーニング代をお支払いします」、女性がいう。

「本当に大丈夫ですから」、佐藤がいう。


「クリーニングに出してもらって、払った金額を教えてください。

明日、何時に来れますか」、女性がいう。

女性の表情を見た瞬間、佐藤はこの女性が確認する人だと気づいた。

「あ、明日なら、夜の8時には行けると思います」、佐藤は答えた。

END

※本作に登場する手法は防犯上の観点から一部改変しています。

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