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息子たちの船出  作者: やす。


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断章 迷い子たちの幕間

大助と太地が、旅立った後の幕間の一コマ。ちょっと気楽に、番外編。

第一幕 迷い子たちは隠れ(られ?)ない


 亮太が二人を見送った後の、コロニー宇宙港。輸送船はすでに、木星圏へと向かう為の、加速シークエンスへと入り。光の点になる、徐々に星々の光の中へと紛れつつある。

 亮太はしばらくそれを見上げていたが、ふと、背後の植栽ブロックの影に視線を向け、にやり、と口元が上がる。ちょっと悪い顔になっている。

「……で? いつまで隠れてるつもりですか、英雄さま方?」

 気まずい沈黙が流れた後、観念したように、物影から現れる二人。それは、八木太一と中島退助。

「隠れてたわけじゃない。」

退助が淡々と言う。

「偶然ここに立っていただけだ。」

「偶然にしてはタイミング完璧すぎません?」

亮太が腕を組みながらニヤリと笑う。

「心配で見に来たんでしょ? 可愛いとこありますね〜。」

太一が軽く笑う。

「お前、随分余裕だな?」

「余裕ですよ。俺、置いてかれてないんで。」

強がり半分。

 それを見抜いている目が、四つ。退助が一歩近づく。

「榊。」

「はい?」

「お前は、見送られる側になる覚悟はあるか?」

亮太は一瞬、言葉に詰まる。そこへ太一が畳みかける。

「追いかけるのは簡単だ。だがな、隣に並ぶのは体力だけじゃ無理だぞ?」

亮太は眉をひそめる。

「……どういう意味ですか?」

太一、にやり。

「木星太陽化計画の次期選抜、知ってるか?」

 嫌な予感。退助が端末を軽く掲げる。

「次年度、アカデミーに特別加速課程が設けられる。」

「へ?」

「適性試験の成績次第では、一学年飛び級もある」

「え!?」

 太一が肩をすくめる。

「ビッグウェーブ、乗るんだろ?」

ぐうの音も出ない。亮太は一歩下がる。

「ちょ、ちょっと待ってください。俺まだ心の準備が!」

退助は即答。

「波は待たない。」

太一も追撃する。

「それとも、岸で見てるか?」

亮太の負けず嫌いスイッチが、完全に入る。

「……やりますよ。やってやろうじゃないですか!」

目が真剣になる。

「絶対、追いつく!!」

 太一と退助が、視線を交わす。そして小さく頷く。退助が最後に言う。

「からかうなら、勝ってからにしろ。」

亮太は悔しそうに笑う。

「……覚えててくださいよ。」

二人が去る。亮太は空を見上げる。

 もう船は見えない。だが、進む方向は分かっている。

「乗るしか無いんだろ、これ。」

ひとり呟く。

遠くで、太一が小さく笑う。

「似てるな。」

退助が答える。

「ああ。……誰かに。」

宇宙港に、静かな風が流れる。


第二幕 迷い子たちの羞恥プレイ(?)


 太一と退助は、本来の宇宙飛行士としての、宇宙開発に関する任務をこなす傍ら、その待機期間に於いては、アカデミーの教官として後進の育成にも関わるという、中々にハードな日常を送っているのだが、そんな彼らは、もう一つ。宇宙から奇跡の帰還を果たした、「木星圏の英雄」として、宇宙開発機構の「顔」の役目も、持たされている。

 幾度目かの宇宙での任務を終え、メディカルチェックを経て、アカデミーの教官として復帰を果たし、一月ほどの時間が経った頃、二人は校長から、直々に呼び出しを受ける。

 何やら悪い予感を感じながらも、太一と退助は渋々、校長室のドアを4回ノックする。

「八木、中島、参りました。」

「入りたまえ。」

校長室の応接セット。その革張りのソファーには、見慣れた校長の他に、もう一人の男性が座り談笑の最中だった。

 見慣れてはいないが、見覚えのある顔。以前、退助の「週刊誌事件」の際に、その記事の配信元への抗議を担当してくれていた、広報部のスタッフだった。二人の顔を見たその男は立ち上がり、スーツの襟をただしながら。

「ご無沙汰しています。」

と、二人に声をかける。

「あぁ、その節は、お世話になりました。」

と、握手を交わしながら退助が応じ、それを見た校長は、ソファーから自分のデスクへと席を移し、太一と退助に、ソファーへの着席を促しながら、

「今回来てもらったのは、他でもない。」

と、テンプレート通りの特に個性もない一言を投げかけた。その言葉に、二人の中の悪い予感は、いよいよ現実味を帯び始める。

「広報部からの要請を伝える為だ。」

”うわ、ヤッパリ。”

さすがに口には出さないが、彼らの心の声は、完璧なまでのシンクロを見せていた。(見えないけどw。)

 太一と退助の前に座るスタッフは、校長から促され、カバンから出した何やらの資料を二人に手渡しながら、説明を始める。

「実はこの度、お二人の”奇跡の生還”の実話を元にした、映画が制作されまして。」

 渡された資料は、その作品のフライヤーと、パンフレットだった。そこには。二人とは似ても似つかないイマドキの、所謂イケメン俳優というヤツが、派手なポーズを取って写っている。太一が頭を抱えながら、呟く。

「いつの間にこんなモノ…。」

退助は、パンフレットの表紙に視線を落としながら、固まっている。どうやら呆れ果てて、文句の一つも出てこない様子だ。

「制作期間中、お二人は火星中継ステーションで、整備の任に就かれておられましたので。」

「仕切りの一切は、広報部の方で担当させていただきました。」

 沈黙していた退助が、ようやく言葉を絞り出す。

「おられましたので…って。」

 そんな二人の困惑を気にも留めずに、目の前の男は話を進める。

「つきましては、お二人には是非、試写会に来賓としてご列席を賜りたいのですが…。」

言葉遣いは丁寧で、”要請”と言う形式を取ってはいるが、これは事実上の業務命令であり、勿論、二人に拒否権などは無い。

 広報スタッフが引き揚げた後の校長室には、校長と太一に退助の三人が残る。

「宮仕えの宿命ってヤツだな。まぁ、これも給料の内と思って、諦めてくれや。」

と、決して、慰めにはならない言葉をかける。

 校長のデスクの引き出しの中には、そのイケメン俳優の直筆サイン色紙が入っている事に、二人は気づく事も無いまま、校長室を後にする。

 つまりは、校長の娘に対するご機嫌取りの為に、売り渡された木星圏の英雄たち。

 二人にとっては、どっと疲れの出た、長い一日だった。


 その日から五日後、太一と退助は、シャトルで地球へと降下し、指定された都内某所に存在する、巨大ホールを訪れていた。劇場の看板には、堂々たるタイトルと、エントランスへと続くレッドカーペット。

『木星からの帰還』

伝説の探査行、その真実。

 大勢の観客が見守る中、慣れないタキシードなどを着せられて、用意されたリムジンから降り立つ二人。慣れてはいないが、意外にも似合っている。まぁ馬子にも衣装と、言うところか。

 英雄たちの登場に花道は黄色い歓声に包まれるが、これはあくまで二次的なモノであり彼女らの本命は、この後に登場するキャスト陣なのである。

 その中を、相変わらず慣れる事のない、引きつった笑顔で何とか切り抜けながら、会場内に入った二人は、係員から用意された席へと、案内される。

 客席後方、目立たぬように用意された来賓席。そこにポツンと並ぶ二人。八木太一と中島退助。

「……帰っていいか?」

太一が、辟易した口調で呟く。退助は無言。腕を組み、目を閉じている。

「広報部の業務命令だ。」

「校長からも言われたろ?“これも給料のうちだ”と。」

退助から諭される太一。

「もう減俸でもいい。」

 そのときだった。かさっ。と軽快な音。二人の隣に、どかっと腰を下ろす人影。

「おつかれっす、レジェンド!」

なぜか亮太がそこに居る。膝にはLサイズのポップコーンを抱え、ドリンクホルダーには特大コーラ。

「……何故、榊がここにいる?」

退助が低く問う。

「校長からの命令っす。二人が逃げない様に、見張ってろって。」

にっこりと、天使の様な悪魔の笑顔で、亮太が微笑む。太一が頭を抱える。

「お前、加速過程の真っ最中じゃないのか?」

「言う事聞いたら、出席扱いにしてくれるそうなんで。」

即答。

「だって本物の隣で観るとか、最高じゃないですか。」

退助が溜息をつく。

「帰るか。」

「今立ったら、余計目立ちますよ?」

 亮太が、再びニヤリと笑う。やがて上映開始となり、ホールの照明が落ちる。


■ 種子島・運命の出会い(映画版)

大袈裟なBGMが流れ、スローモーションになる。

若き日の退助(俳優)が、強風の滑走路に立ち。振り向く。

そこへ現れる若き日の太一(俳優)。二人の視線が交錯して、壮大な音楽。

「退助…中島退助だ!」

低く響く声。

「八木太一だ。よろしく。」

固い握手を交わす二人のバックで、夕日が爆発的に輝く。

客席から、どよめきが起こる。

亮太が、小声で。

「うわ、カッコつけすぎ」

太一、即座に。

「実際は?」

退助、淡々。

「会議室だ。」

太一。

「名刺交換しただけだ。」

退助。

「風も吹いていない。」

亮太、吹き出すのを堪える。

スクリーンではさらに誇張。

退助(俳優)「君の論文、読んだよ。あれは画期的な視点だった!」

太一(俳優)「あなたの操縦データも、常識を超えていた。」

亮太が、小声で尋ねる。

「そんなこと言ったんすか?」

太一は、無表情のままで。

「言ってない。」

退助も、呆れながら。

「初対面で、あんなに喋らん。」

スクリーン上では、既に固い絆が芽生えている。

実際は。

ぎこちない敬語。

距離のある会話。

それでも。

どこかで“何か”が引っかかった。

映画はそこを誇張している。

まぁ、あながち完全な嘘でもない。


◾️木星圏・短い休息(映画版)

切ないBGM。

暁光の無重力区画。お互いの服を脱がせ合い、生まれたままの姿で抱き合いながら宙を漂う二人。

恋人たちの、甘い会話。

唇を重ね、生還を誓い合う二人。

劇場を埋め尽くした、所謂「腐女子」達は、俳優たちの美しさに、うっとりしながら画面に魅入る。

亮太もちょっと、頬が赤い。

「ほ、ホントにこんなコトしてたっすか?」

「………。」

「………。」

完全に固まる二人。

実はこのシーン、脚本家がフィクションとしてアイディアを出した物だったのだが、

正に「事実は小説よりも奇なり」を、地で行く様な、偶然の一致であった。


■ 木星圏・奇跡の帰還(映画版)

緊迫したBGM。

警告アラームが鳴り響く。

船体が損傷した絶望的な状況で、太一(俳優)が、自分の生命維持を切って

退助(俳優)を生き延びさせようとして、二人が衝突するシーンでは、

会場から、女性のすすり泣く声が聞こえてくる。

太一(俳優)が、起死回生の作を叫ぶ。

「磁気セイルを展開する!太陽風を使って加速するんだ!」

観客は、息を呑む。

亮太が、身を乗り出す。

退助は、目を細める。

太一は、静かに言う。

「展開角度が違う。」

亮太「え?」

退助が続ける。

「太陽風の粒子密度が、あの日は想定より高かった」

スクリーンでは、ドラマティックにボタンを叩く演出。

だが実際は。

太一が咄嗟に計算式を構築し、ひたすら端末内で走らせる。

中性子線封じ込め理論を応用し、磁場強度と帆の展開角度を瞬時に算出。

「まだ帰れる。」

それだけ言った。

退助は。

「なら二人でやる。」

短い言葉。

理論値限界の更に外側。

機体フレームの許容応力。

推進系の残余出力。

全てを頭の中で同時に処理。

操縦桿を握る。

スクリーンでは、船体が派手に回転する。二人を演じる俳優が、

「うぉぉぉぉー!!」

必死の形相と、二人がかりでコントロールスティックを引く。

その演技は、もはや「顔芸」である。

実際は。

極めて繊細な微調整。

ミリ単位。

秒単位。

退助がぽつりと呟く。

「奇跡じゃない。」

太一も。

「積み上げだ。」

スクリーンの船は地球へ滑り込む。

客席、拍手。

亮太、無意識に呟く。

「……やっぱ、すげぇ。」

太一と退助は、顔を見合わせない。

ただ、少しだけ。

ほんの僅かに。

呼吸が揃う。


 上映が終了し、ホール内に明かりが灯る。拍手喝采。スタンディングオベーション。

 二人も角が立たない様にと、一応立ち上がってはいるが当然、浮かない表情だ。

 亮太だけが、全力で拍手している。

「いやー最高でしたね!」

太一は疲労の極み、明らかに気疲れしている。

「脚色が過剰だ。」

退助も似た様な感じだ。

「だが、本質は外していない」

 亮太が振り向く。

「本質?」

退助が亮太を見る。

「理論だけでも、技量だけでも、帰れなかった。」

太一が応じる。

「片方では成立しない。」

 亮太の手が止まる。二人は立ち上がる。退助が最後に言う。

「お前は、誰と帰る?」

亮太、固まる。太一が追撃。

「ポップコーンでは帰れんぞ。」

「ちょっ――!」

 二人は会場を出ていく。亮太は一人、座席に残る。他の観客は、キャスト陣の舞台挨拶を目当に、まだ動く様子が無い。

 亮太は呟く。

「……俺は。」

答えはまだ出ない。

 だが、ビッグウェーブは、確実に来ている。


たまにはこんなのも如何でしょう?ってコトで、今回は番外編をお送りしました。

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