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白夜  作者: 悠羽
4/7

第四話 こちらの生活

朝、

 目覚ましを止めた記憶がない。


 気づいたときには、

 部屋は静かで、

 カーテンの隙間から

 昼の光が差し込んでいた。



 遅刻だった。


 理由は、

 分かっている。


 昨夜、

 向こうで

 遅くまで話していた。



 こちらの世界の私は、

 最近、

 少し雑だ。


 服は適当。

 食事は抜く。

 返信は遅れる。



 集中力が、

 途切れやすい。


 仕事中、

 ふとした瞬間に、

 別の風景が

 頭をよぎる。



 向こうの部屋。

 向こうの時間。

 向こうの彼女。



「大丈夫?」


 同僚に、

 そう言われたのは

 初めてだった。



 私は、

 笑って誤魔化した。


 いつもの癖だ。



 帰り道、

 無意識に

 店に入っていた。


 目的はない。


 ただ、

 足が止まった。



 並んでいたのは、

 柔らかい色の服。


 夢の中で、

 彼女が

 よく着ていた色。



 手に取ってから、

 はっとする。



 ——違う。



 これは、

 私の生活には

 必要ない。



 そう思って、

 棚に戻す。


 けれど、

 指先に残った感触が

 なかなか消えなかった。



 家に帰ると、

 鏡の前に立つ。


 いつもと同じ顔。


 でも、

 どこか

 しっくりこない。



 その夜、

 家族に呼び止められた。



「最近、

 ちゃんと眠れてる?」



 答えに、

 詰まった。


 眠ってはいる。


 でも、

 休めてはいない。



「一度、

 相談してみない?」



 その言葉は、

 優しかった。


 責める響きは

 なかった。



 それでも、

 胸の奥が

 きゅっと縮んだ。



 整える。


 戻す。


 普通にする。



 そのすべてが、

 向こうを

 手放すことと

 同じ意味に思えた。



 私は、

 何も答えなかった。



 その夜も、

 眠った。


 向こうに行くために。



 でも、

 いつもより

 景色が

 少しだけ

 薄かった。



 彼女の声が、

 遠い。


 部屋の輪郭が、

 曖昧だ。



「疲れてる?」



 そう聞かれて、

 私は

 頷いた。



 疲れているのは、

 こちらか、

 向こうか。


 もう、

 よく分からなかった。



 目を覚ますと、

 胸に

 重たいものが

 残っていた。



 こちらの生活が、

 崩れ始めている。


 それは、

 否定しようのない

 事実だった。



 それでも、

 私は

 向こうを

 手放す準備が

 できていなかった。


第五話:整えるということ

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