第二話 夢の方で
夢の中で、
私は彼女に出会った。
正確には、
思い出した、に近い。
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初めて会ったはずなのに、
声を聞いた瞬間、
胸の奥が静かに落ち着いた。
理由は分からない。
ただ、
この人だ、と思った。
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夢の世界での私は、
異性として生きている。
それが特別だと
感じなくなってから、
どれくらい経っただろう。
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彼女は、
私のことを
最初から
自然に扱った。
戸惑いも、
説明も、
いらない。
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会話は、
不思議なほど噛み合った。
言葉を選ばなくていい。
間を埋めなくていい。
沈黙が、
気まずくならない。
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それは、
現実では
ほとんど経験したことのない感覚だった。
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夢の中での時間は、
流れ方が違う。
一日が、
ちゃんと一日として存在している。
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仕事が終わって、
待ち合わせをする。
並んで歩く。
何気ない会話をする。
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そのすべてが、
夢にしては
あまりにも普通だった。
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ある夜、
彼女が言った。
「一緒にいると、落ち着くね」
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その言葉を聞いた瞬間、
私は理解してしまった。
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これは、
本気の恋だ。
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目が覚める直前、
私はいつも少しだけ
焦る。
続きを失う感覚が、
怖い。
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現実に戻ると、
胸の奥が
妙に軽い。
そして、
少しだけ、
物足りない。
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その日、
仕事帰りに
ふらりと
店に入った。
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理由はない。
ただ、
足が止まった。
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ラックに掛かっていたのは、
柔らかい色の服だった。
夢の中で、
彼女が着ていたのと
よく似た色。
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手に取ってから、
私ははっとした。
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——違う。
これは、
私のじゃない。
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慌てて戻す。
周りを見る。
誰も、
気づいていない。
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それなのに、
心臓が
うるさかった。
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帰り道、
ふと思う。
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夢の中の私は、
迷わなかった。
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現実の私は、
なぜこんなに
立ち止まっているのだろう。
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その夜も、
私は眠った。
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目を閉じるのが、
少しだけ
待ち遠しかった。
第三話:向こうの時間




