第一話 白夜
毎晩、同じ夢を見る。
それは、
眠ってから始まるのではなく、
目を閉じた瞬間に、
もう続いている。
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夢の中の私は、
異性だ。
朝、鏡を見ると、
そこには現実の私とは違う身体が映っている。
肩幅。
声。
視線の高さ。
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最初は、
驚いていた。
次は、
戸惑った。
今は、
ただ確認するだけだ。
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夢の世界にも、
朝がある。
カーテン越しの光。
鳴り慣れた通知音。
昨夜の続きの感情。
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人と話す。
仕事をする。
誰かに触れる。
どれも、
夢にしては、
あまりにも具体的だった。
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現実に戻るのは、
目覚ましの音だ。
音が鳴るたび、
私はもう一つの人生から
引き剥がされる。
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こちらの私は、
別の性別で、
別の名前で、
別の生活をしている。
同じ癖。
同じ考え方。
同じ、迷い方。
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違うのは、
扱われ方だけだ。
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夢の中では、
言葉が軽くなる。
冗談が通じる。
怒りは、
外に出しても許される。
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現実では、
飲み込む。
笑う。
なかったことにする。
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ある朝、
歯を磨きながら、
ふと思った。
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どちらが夢なのだろう。
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現実の私は、
眠ることで
あちらへ行く。
夢の中の私は、
眠ることで
こちらへ来る。
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もしそうなら、
私は二つの世界を
行き来しているのではない。
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同時に、
生きているのだ。
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昼と夜の境目が消えるように。
眠りと覚醒の区別が曖昧になるように。
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白夜。
夜なのに、
終わらない明るさ。
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眠っているはずなのに、
私は、
どちらの世界でも
目を開けたままだった。
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今日もまた、
夜が来る。
そして、
私は眠る。
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目を覚ます場所を、
確かめるように。
第二話:夢の方で




