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終,とある深窓の未亡人についての調査まとめ

 杯が何度も鳴らされ、兄弟たちは共に歌った。

 花瓶がいくつも飾られ、今日、公爵家では盛大な晩餐会が開かれている。


 「母上」「お母様」と八人もの兄弟たちが口々に自分を呼ぶ声に微笑み返しながら、ミレイユは考えた――そろそろ、私がこの家を去る時が来る。だから、大切なこの子達全員と母として会えるのはもうこれが最後かもしれない、と。


 久しぶりに家族全てが揃った喜びにミレイユは終始笑顔だった。ついつい勧められるまま、母にねだる声の甘さに誘われ、杯を煽る。


 そのうち、ミレイユの瞼は静かに閉じられた。夢の底で「母上」と呼ぶ愛おしい子らの声が幾重にも重なり、子守唄のように彼女を抱いていた。



 眠りの底から、誰かに呼ばれている。


 「……ミレイユ」


甘く、切なく、何度も何度も。夢うつつで聞いていた。


 「ミレイユ、愛してる」

 「愛しているわミレイユ」


 ぼんやりと目をあけると、いつもの喪服は脱がされ、真っ白な布を纏う自分の身体が見えた。いつの間にかミレイユの私室にいて、八人の男女が彼女の寝台に腰掛けたりのぞき込んだりしている。


 その眼差しは母を見る目ではない。長い年月、母として守ってきた役目は、いま圧し寄せる熱の前で薄れてゆく。


 ミレイユは息を止めた。


 彼ら、彼女らが、私を求めている。そう悟った瞬間、彼女は身体の力を抜いた。名を呼ばれるたびに胸を焦がす。幾つもの手が、ミレイユのほどかれたうねりのある豊かな髪を、つるりとした真っ白な手足を、触れるとふるりと震える胸を、桜色の頬を、ゆっくり撫でてゆく。


 「ミレイユ」――重なる声は甘く、熱く、その熱さに彼女は頬を染める。

 静かな愛撫が繰り返されるたびに、十五年分の愛を感じる。ミレイユが愛した全てが、此処にある。何も前と変わらずに。

 

 彼女はただ、静かに微笑んでいた。


 ――公爵家に全てを捧げたあの日からずっと。



 深窓の未亡人と呼ばれたミレイユ公爵夫人には、たくさんの子供がいる。


 前公爵の息子や娘も、それから、新しい夫となった現当主である長男との間の子らも。


 分け隔てなく育てられた、あまりに多くの子供たちがいるのだ。

 度重なる出産で殆ど社交界に出なくなった彼女だが、時折見かけられたその姿は、まったく変わらずこの世のものとは思えないほど、美しいそうだ。


ミレイユがどんな人なのか…それは、皆様の中に。よければ評価やブクマお願いします!また、コメント頂ければまたこう言う作風も描きたいと思います。

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