2,社交界と公爵家領民の証言
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【若い男爵の証言】
ミレイユ殿はいつも控えめで社交の場でも年嵩の女性とばかりいらっしゃる。
だが時折見せる笑顔がとても可憐で、ついつい目で追ってしまうんだよ。
我々男たちは誘いたくても一歩踏み出せず、だが、誘わずにはいられない。誘ってもこちらを見透かすような目で断られるとわかっていても、ね。
....何故か彼女に断られることさえ名誉なのだ。
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【同世代の伯爵夫人の証言 】
ミレイユ様はね……元はといえば同じ伯爵家の出なのよ。ミレイユ様が公爵家に嫁いですぐ、年の離れたお兄様がギャンブルにハマってしまって没落したそうだけど。
いつも喪服に身を包み飾り気ひとつないのに、どうして彼女あんなに目を引くのでしょうね。
舞踏会で私たちが宝石を散りばめたって視線はみな彼女の方へ流れるのよ。夫ももちろん見るわよ。
胸元を見せているわけでもなく、華やかに話す訳でもない。むしろ、いつも黙っているからこそ怖いほど美しいわ。
私は彼女が羨ましくて仕方ないのです。あの人の目線ひとつで何人が心を乱すことか……ええ、もちろん嫉妬もありますわ。
けれどそれ以上に、私自身があの方の目に止まりたい…と、思ってしまうのですわ。
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【領地の年老いた農夫の証言】
奥方様は毎年収穫の頃になるとお出ましになって、ひとりひとりの名を呼んで手を握ってくださる優しい方さね。あの細い体で何日もかけて領地を回るんだってみんな感心してるんだよ。
けどなあ……手を触れられると、年寄りのわしでさえ胸が高鳴っちまっていけねえ。魔性ってのはああいうもんだと思うね。
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【領地の年頃の娘の証言】
ミレイユ様みたいになりたい!ってみんな思ってますよ!髪も肌も仕草もぜーんぶ整っていて、頭も良くって。しかも偉そうじゃないし。
…でも、お会いするととっても安心するのに、帰ったあとは寝つけないくらい思い出してしまうんですよね。あんな方がお母さんだったら、毎日眠れないかも、なんてね。
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【出入りの商人】
商売人にしてみりゃ、求められるのはありがたいが……よくあの奥方様みたいな服を作って欲しいなんて言われることがあるが、奥方様のあの喪服姿の美しさは真似しようとしても、どうにもならんからなあ。
布の量や仕立ての問題じゃない。あれは奥方様が着ているから映えるんだ。理屈が立たない美ってのは、商いには厄介なもんだよ。
とはいえ、高襟と袖がドレープになっているドレスのデザインは公爵家から広まったものだよ。今や定番だけど、見せたくないところは見せずに品よくなるって人気だな。図案をさ、最初に描かれたのは奥方さ。理にかなう流行は長持ちするし、まさにそういう賢い方さ。
…まあ結局少しばかりはあの女神のような美貌のお陰でもあるんだがね。
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【領地の司祭】
ミレイユ様のおそばでは人が自然と声を落とし、大声で話すのは恥ずかしくなるのです。静かに人を動かす才は天分のものですね。
そして領地の孤児院や救済院に足繁く通い、夫の喪に若くして服し続け、日曜日には欠かさず教会で祈ってらっしゃる。国で一番、敬虔な女性と言って差し支えあるまい。天使のように清らかだと評判ですよ。
ただ困ってしまう事も.....何しろ、あのお美しさですからね。
祈りにいらっしゃると有難い話でもあるが人が集まり過ぎてしまって。率直に申し上げると神官やシスターまでも浮足立ってしまい....祈りの場としてあまり機能しなくなってしまうのです。いやはやお恥ずかしい限りです。




