タイトル未定2025/05/09 14:32
「ふぅ……」
一気呵成に書き上げて、筆を置く。
『……まぁ、下手くそなりに上出来だろ』
全体を眺めて、ひとり息をついた。
『あとは……あいつらのお手並み拝見、ってとこだ』
動き出すきっかけは与えた。
半ば無理矢理でも、動くきっかけを作った。
だから、俺の仕事はこれで一旦終了。
『頼むぜー? 上手く動いてくれよ……?』
この先は、俺は手を出せない。
それぞれがそれぞれに歩みを進めるのを見守るしかない。
『……ったく。世話が焼ける』
誰にともなく呟いて、薄い微笑みを浮かべる。
『おめーら、俺の努力を不意にしやがったら許さねぇぞ』
俺の声に応じるように、紙面から笑い声が聞こえる。
「ハッハッハッハ! そんなこと、この僕がするわけないでしょ?」
「ほんと、黒兄ぃ、心配性〜。……大丈夫。後のことは俺たちに任せて」
「夕飛のこと、みくびらないでよね!」
『……そうだから、心配なんだろうが。まったく』
そうは言いつつ、こいつらがミスったら、フォローする用意はある。
……決して言わないが。
決して。……決して。
「いーから、行ってこい! 備えなら、俺がしておくから!」
あぁ……。俺はどうして……。
どうして、言っちまうんだろう……。
「了解!」
勢いよく駆けていく皆の背中を見送りながら、俺は布団の中にもぐりこむ。
『俺は……ここまでだ。すまん、みんな』
最後まで、永遠に、みんなと共に在りたかった。
だが、それはこの身体が許してはくれない。
『ハハッ……。情けねぇ……』
自由にならない身体が口惜しい。
自由に動かせぬ、この口が疎ましい。
みんなと同じに在れない、俺の存在すべてが……悔しくて仕方ない。
だが。
それが、俺だ。
今のこれが、この状態が、俺だ。
紛うことなき、俺自身に他ならない。
失ったものは、還らない。
決して、還ることはない。
だから、俺は……今出来ることに必死だ。
上手く動かない身体を引きずりながら、それでもあいつらを信じていたい。
あいつらがうまくやることを期待したい。
俺には、出来ないから。
『頼む……みんな。頼む……!』