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 帰宅して、オレはテレビと会話して、そんなロマンチックめいた気分がすべて吹き飛んでしまった。この数年間、オレはなかなかうまくやって来たじゃないか? 挑戦を選ばず、安定を選んで何の問題がある? オレはもう若くない。すでに二十九なのに? ところがテレビという奴はCMという奴は、オレが今すぐ求人サイトに応募して一歩上の職場に応募し、果敢な挑戦をすることを望んでいるようだ――いや、オレにはそれしか選択肢はないのだ。上昇。向上心。向上心のない人間はばかだ。暗い影がまたしてもすっと刺してきて、CMが弁解を始める。ここにはオレとテレビしかいない。テレビがいっぱしの人格を持っているのがオレの世界観なのだ。テレビやラジオは雄弁に語る。もっともらしい答えを。バイアスに毒された広告情報を。じりりり、とスマホが鳴った。オレは覚悟した。出ると、やはり、朋ちゃんからだった。明日のロイヤルホストでの食事会には行けなくなるそうだった。


     ―――――


何が悪かったのだろう。すべてだ。涙がつ、と流れ、オレはベッドに伏した。テレビをぶち壊したい衝動にかられたが、すんでのところでそれを押しとどめた。それでも明日になれば。オレは思う。明日になれば事態はきっと改善されているはずなんだ。今日のことがいつまでも尾を引くなんてことはないのだから。けれども、今夜はつらい。死んでしまいたくなるほど。

その日の晩、オレは夢を見た。今考えているようなことは社会的地位の向上よりも下に置かれるものなのか。というか、ただ純粋に、自分が厳しい条件で働きたくない、大本はそれだ。それを冒険しないことや、周囲の応えられないこと――え、なに、応える? 応えるだって? いったい誰が何を応えるというんだ? 周囲がそんなものを求めているとでもいうのか? それはいわゆる「大人」の眼ってやつか? ああオレはすっかり「教育」済みだぜ! 本気でそう思う。単純で、正直で、御しやすい、まるで子供だよ。どうせ同じ子供なら、狡猾で、残酷で、反骨心のある子供になりたかったとオレは思う。きっとそんなクソみたいな子供のなれの果てが、今の大人たちで、この社会を形作ってるんだろうさ。


 うだうだうだうだ。


 冷蔵庫を開いた。ビールを探したが、なかったので近所のコンビニまで買いに向かった。こんな感じに気落ちした日にはアルコールがいい。そのことにある日気づいて、オレにはいつの間にか飲酒の習慣がついた。時々だが――こんなふうに落ち込む日に飲むのはいい。酒が悪い気分を洗い流してくれる。本当に酒がうまく感じられるのは、肉体的疲労のある時だが、こんなふうにツキのない日にアルコールを流し込んで、漫才番組でも見てカラカラ笑うのも悪くはないものだ。




 


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