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金では買えないものは金では買えないから金では買えない。という、わかりやすい真理を前にして、オレは止まった。この数か月、くだらないものばかり買いあさっていた。本、CD、電化製品、うまいもの、とか、一つ一つはそれ程高額なものではなかったが、その日暮らしの満足感だけはあった。
その日の朝はタワーレコードにCDを予約注文し、コンビニで代引きした。それから仕事に行き、帰宅し、居間でテレビを点けるとフィギュアスケートの選手が映っていた。あ、そういや、こういうのって金では買えない関係ってやつだな、ということに、ふと、オレは気づく。フィギュアスケートの選手間の友情だけじゃなくって、ポケモン世界大会の出場者の連帯だってそうだし、Ⅿ‐1グランプリの漫才師の関係性なんかだってそうだ。その点、オレはクソ下らないことにばかり金使ってる。金で買えるものばかり買って満足してる。
オレがすべきことは何なのか。
だから、オレはカネを有効活用しようと考えた。公園とかそんなものを作ろうと考えた。昔見た映画にそんなのがあったからだ。それを聞いて、周囲は憤慨した。公園を作ろうというこの金が、さも自分の財布から出ているかのように憤慨した。オレはそれはちがうだろうと思ったが、そもそもその金は誰のもののためなのかオレにも分からなかった。公園を利用する子どもたちのための金か。それともオレの自己満足のための金か。そんなことか可能なのか。オレは小難しいことは嫌いだ。回りくどいことを考えたくないし、出すと決めたら、ポン、と出してしまいたい。周囲の大人は、オレが大富豪か何かだったらそれもいいだろうという。でも実際、オレはかつかつだ。生活面の話や現実的な話を出されると、何だか、単純な頭には、意気がそがれるような心地がする。
すると負けん気が顔をもたげてくる。えいやっ、と勢いそのまま払ってしまいたくなる。でもそれで後悔することは分かっている。何故後悔することがわかっているかというと一度ならずやった経験があるからだ。でもやってしまいたい。そうしなくては負けだと思う。オレはいつの間にか不純になっている。もう、やめだ。
当初オレは何を考えていたのか。金では買えないものがこの世にあるということだ。本当に小難しいやつだな! 要するに、努力したくねえんだろう? 動きたくねえんだろう?
金では買えないものはカネでは買えないから金では買えねえんだ! それから買ったCDを聴いて、Amazonプライムの映画を観て、購入した本を読んで、それで独りでいることの寂しさを埋めた。結局、カネ払ってもほんとうに欲しいものは手に入らない。この世にはほんとうに悲しいことが二つある。泣きながらメシ食うことと、すべて金に捕らわれている奴の魂だ。俺は救われたい。救われないならせめて満たされたい。でも、駄目だ。モノや金額では。なにも。そんなもので救える命はないのだから。
つづきは明日2時からです