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サイエンサーズ!!   作者: よしけい
2/5

目覚め、そして

 目を覚ますと、白い天井が目に入った。

 消毒液の匂いが鼻をかすめる。

 どうやら俺は倒れた後、保健室に運ばれたらしい。

 

 ガララ   

 ベッド横のカーテンが開けられ、保健室の先生が顔をのぞかせる。

 なぜか頭の上に1という数字が浮かんでいる。


「あら、気が付いたのね。あなた、2時間ほど気を失っていたのよ。

 もう少ししても目が覚めなかったら、病院に連れて行くところだったわ。」 


 俺は2時間も気を失っていたのか。

 他の生徒はとっくに下校している頃だろう。


「そんなに経ってたんですね。ご迷惑をおかけしました。」

「私はいいのよ。それより、ここに運んでくれた捌幡先生にお礼を言いなさい。

 先生、しばらくあなたに付き添ってくれていたのよ。」

「そうだったんですね。後で職員室に行ってお礼してきます。」

「もう平気なの?」

「大丈夫みたいです。ありがとうございました。」

(先生の頭上に数字が見えているあたり、まだ大丈夫ではないかもしれないけど。)



 俺はお礼を言うと保健室を後にして、人気のない廊下を歩きながら職員室に向かう。

 それにしても、どうしてこんなに酷い頭痛を起こしたんだ。

 加えてあの夢だ。

 深く考えていなかったが、もしかしたら記憶が戻っている兆候なんじゃ……


 

 ガッッッシャーン!!!


 突然目の前で窓ガラスが砕け、今までの思考をかき消すように轟音が響く。


「な、何が起こったんだ……」


 反射的にそらした顔を上げると、目の前には飛び散ったガラスの破片と見知らぬ男の姿があった。

 金髪ピアスに着崩した制服、そして右手に金属バット。よく見ると制服はうちの高校のものではない。

 身長は175cmぐらいで、頭上には2という数字が浮かんでいる。

 突然のことに驚き体は固まって全く動かないが、頭だけは動いた。

 人間、あまりに非日常的なことが起こるとかえって冷静になるのだろうか。


 「お前が一ノ瀬ってやつか? 意外と落ち着いてるなぁ。」


 金髪ピアスが口を開く。

 落ち着いている? 動けないだけだ。


「だ、誰ですか? どうして俺のことを……」

「俺か? 俺は八木(やぎ)って言うんだ。なんでお前を知っているかってそれは……言えないなぁ。」


 八木と名乗った男はそう言うとにやりと笑って、いきなりバットを俺の頭めがけてフルスイングした。


 ビュン!  

 間一髪でよけた俺の頭のすぐ上を、空気を切り裂きながらバットがかすめる。


 「お、なかなか反射神経いいじゃん。でも次はあてるぜ~。

 大丈夫、死なないから。ちょっと気絶するだけだから。」


 キゼツスルダケダカラ? 何を言ってるんだこいつは?

 あんなの頭に当たったら死ぬだろ!!

 なんでこいつは人の頭にバットをフルスイングできるんだ? ウシ〇マくんか? 

 俺が何をしたんだ!? なんでこんな目に会ってるんだ!?


 とりとめのない思考が浮かんでは消えたが、本能が感じることは一つだけだった。


              逃げろ!!


 途端固まっていた体が自由になり、俺は廊下を猛ダッシュした。


「お~い逃げんなよ。」


 のんきな言葉とは裏腹に、全力で追いかけてくる八木。   


(ヤバいヤバいヤバい、さっきは避けられたけど次は無理だ、当たったら死ぬ。マジで死ぬ。)

 

 確信めいた予感とともに俺は全力で走る。

 だが、八木の方が速かったようだ。

 肩をつかまれ、俺は後ろに引きずり倒される。


「はい捕まえた。じゃあ、ちょっとおねんねしようね~。」


(くっそ、日頃から運動しておけば……!)

 

 俺の後悔などお構いなしに八木はバットを振りかぶる。


(あぁ、俺は死ぬのか)

 

 不思議と落ち着いていた。


(思えば今日は運が悪かったよな。授業中にぶっ倒れるし、わけわからん奴に殺されるし。いや、赤点回避できたのは良かったか。)


 死ぬ間際までくだらないことを考えるものだなぁと、どこか自分を客観視しつつ、俺は目をつむって切れ味の悪いギロチンが頭を潰すのを待った。

              



 ――いつまでたっても俺の頭が潰れたトマトになることはない。

 恐る恐る目を開けると、そこには金属バットを食い止めている二ノ宮 零の姿があった。

 他の二人同様、頭上には数字が浮かんでいる。

 値は26だ。


「二ノ宮さん!? なんでここに!?」

「そんなことより一之瀬君、動ける?」

「なんとか。」

「じゃあ離れてて。」


 二ノ宮さんはそう言うと、八木を押し返す。

 八木は体勢を崩し後ろによろける。

 すかさず二ノ宮さんが距離を詰め、目にもとまらぬ速さで攻撃を繰り出す。

 だが、八木も初撃こそは食らったものの後はバットと体術で攻撃をかわしている。

 天井まで届くほどの跳躍や、壁を走る彼らの動きはまさしく人間離れしている。


(状況は分からないけど、とにかく離れないと。二ノ宮さんは心配だけど、あの2人は俺と強さの次元が違う。ここにいても邪魔になるだけだ。)

 

 俺はそう思い、その場を後に……

 できなかった。


「逃がさないぜ~。」


 突然八木が目の前に立ちふさがる。


「なんd」


 言葉を発する間もなく、腹をバットで思い切り殴られよろめく。


「一ノ瀬君!? そんな、いくら何でも動きが速すぎる。まだ分析結果出ませんか!?」

「よそ見はだめだぜ~。」

「しまっ…」


 フルスイングされたバットが二ノ宮さんの腹にめり込む。

 吹き飛んだ二ノ宮さんの体は、廊下の壁に激突した。

 

「二ノ宮さん!! 大丈夫!?」


 声をかけるが、うなだれたままで返事は返ってこない。

 意識を失っているようだ。


「どうやらゲームセットみたいだな~。俺のコールド勝ちか?」


 八木がニヤニヤ笑いながらゆっくり近づいてくる。


 (どうすればいいんだ? 俺より強いはずの二ノ宮さんが一撃でやられる相手だぞ。俺がなんとかできるような奴じゃない……!)


 「一ノ瀬君、聞こえる!?」


 突然足元から女性の声で名前を呼ばれ、下を向くと、そこにはイヤホンが転がっていた。 

 どうやら二ノ宮さんが装着していたもののようだ。


 「とにかくイヤホン拾ってどこかに隠れて! 後で説明するから! あいつの狙いは君だから、二ノ宮は大丈夫!」


 信用していいかは分からないが、他に選択肢はないので、言葉に従ってイヤホンを拾い八木と逆の方に走り出す。


 「次はかくれんぼか? いいぜ~やってやるよ。」


 背後から聞こえる言葉が小さくなっていくのを聞きながら廊下を走り、空き教室に駆け込んだ。

 



「ここなら大丈夫なのね?」

「はい。あいつとはだいぶ距離を取りましたし、今は放課後なので人もいないはずです。」


 イヤホンからの声に返事をしつつ、俺は息を整えた。


「オッケー。じゃあ今から言うことよく聞いてね。

 まず、あいつは敵で私たちは味方。これは信じてもらうしかない。」

「あいつは俺を襲ってきたし、二ノ宮さんには助けてもらったんで全然信じます。」


 この状況であの男が味方だと思うやつはいないだろう。


「ありがと。じゃあ、本題はここからよ。

 信じられないと思うけど、ウチも二ノ宮もあの男も普通の人間じゃないの。

 能力と呼ばれる特殊な力を所持しているわ。」

「……信じます。」


 普段から漫画を読んでいるおかげか、以外にもすんなりと受け入れられた。

 目の前で起こったあまりにも非現実的な出来事を前に、脳が何でもいいから落としどころを欲しがっているだけかもしれないが。

 それに、他に何か合理的な説明ができるわけではない。


「身体能力が人間離れしているのが能力ですか?」


 能力が存在している前提で質問する。


「あれはただの副産物。能力はもっと別の力よ。」


 副産物であれか……

 いよいよ漫画みたいになってきたな。


「それであの男のことだけど、」


 イヤホンからの声は続ける。


「あいつの名前は八木 悠介(ゆうすけ)。一言で言えばウチらの敵ね。

 そして、奴の能力は <「求めろ」は腹が立つ(ジャイアントキリング)> 相手が強いほど自分も強くなる能力よ。

 弱点は、相手が自分より弱いと自分も弱くなること。」


 相手が強いほど強くなる……逆も然りか。

 だからバットで攻撃されたとき、俺は平気で二ノ宮さんは重傷だったのか。

 さっきの出来事の辻褄が合う。

 俺は奴よりも弱かったのだろう。能力なんて持っていないから当然か。

 その時、こちらに向かってくる足音が耳に入った。


「色々と言ったけど、一ノ瀬君は隠れてて。もうすぐうちらの仲間がそっちに行くはずだから。」

「……それはできない相談みたいですね。」


ドガン!!  

 八木が教室の扉を蹴破り教室へと侵入する。

 相変わらず、頭の上に2という数字が浮かんで見える。

 

「一ノ瀬君み~つけた。」


 仲間とやらを待っている余裕はない。

 俺が、今この場でこいつを倒さないと。

 イヤホンの声の通りなら、八木は俺と同等に弱くなっているはずだ。

 覚悟を決め、八木に突っ込む。


「ちょっ!! 一ノ瀬君!!」

「うぉぉぉぉ!!」

「お、ついにやる気になった? いいね!」


 三者三様の声が入りまじる。

 八木は嬉しそうな口調で、俺の頭めがけてバットを右スイングする。

 俺はギリギリのところでバットを避け、八木の動きが目で見えることを確認する。


(能力ってのは本当みたいだ。二ノ宮さんと戦っていた時より明らかに遅くなってる。)


 確信した俺に向かって、八木は再びバットを振りかざす。


(来る! 怖いけど、攻撃はそんなに効かないはず・・・・・・)

 

 自分を信じて、あえてバットを左腕で受け止める。

 ミシィ  

 左腕から嫌な音が鳴る。


(痛い、だけど動けないほどじゃない!!)


 心の中で叫び、渾身の力を込めた右腕を八木の顔面めがけて放つ。


 「食らえ!!」


 カウンターをされるとは思っていなかったのか、八木は慌てて左手でガードしようとしたが、俺の拳が八木の顔面にめり込む方が早かった。

 

 メキィ  

 鈍い音を立て、八木の体が後方に吹き飛び、壁にめり込む。

 そして、そのまま八木は動かなくなった。

 頭上の数字は1になっている。


 「え・・・・・・? ワンパン? 嘘だよね?」


 イヤホンから唖然とした声が聞こえてくる。

 俺自身、今自分がしたことが信じられなかった。

 俺に人を吹き飛ばすことができるような力なんてない。

 考えられるとすれば……


 「もしかして、一ノ瀬君も能力に目覚めた?」

 

 俺の心情を代弁するするかのように声が聞こえる。


 キーンコーンカーンコーン  完全下校を告げるチャイムが鳴る。

 

 俺は、その音が日常の終わりを告げる合図のような気がしてならなかった。

 


 


 

 


 


 

 


 


 





















 


 


 




 

 




 


 




 

 

 




 

 

初投稿作品です。拙い部分も多々ありますが、応援していただけると嬉しいです。

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