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外れ者共は今を生きる  作者: 春夏 フユ
第二.五章 オレと借金返済
147/148

オレと文



 クズルゴには〈霊召集〉という屍霊術師の魔法がある。

 その効果は使役しているゴーストを自らの元へと引き寄せるというもの。

 かつてはクロイ達にルベリーを気絶させられた際の回収に使ったのもこの魔法だ。

 そんな魔法を持つクズルゴだが、森に取り残されたルベリーとリーラズとの合流には自らの足で赴かなければならなかった。


 理由は単純、目撃されるのを避ける為だ。

 【花吹雪の大森林】には現在、他でもないクズルゴが起こした大規模火災が発生している。

 その消火活動を行っている【火消団】が森には大量にいるだろうし、なんなら街の冒険者達だって火事に気付き消火の手伝いか野次馬だかで集まる可能性が高い。

 そして〈霊召集〉は気絶しているゴーストにも行使出来る事から分かる通り、この魔法による引き寄せは強制力を伴うものだ。

 今ルベリー達もクズルゴとの合流を目指しているだろうが、流石に大量の人の気配に気付き身を隠している事だろう。

 そこを〈霊召集〉してしまえば息を潜めている2体を無理矢理引っ張り出す事になり、誰かに姿を発見されるかもしれないのだ。

 ルベリーの〈神隠し〉でリーラズと共に透明な状態であるなら使ってもいいが・・・・使役しているゴーストは大凡の位置は分かってもどういう状態になっているかなども細かい情報は分からない、故に安易に魔法を使えない。

 

 もし消火をしている【火消団】や冒険者に発見されれば、絶対に面倒くさい事になる。

 だって不自然な山火事が発生したと思えば生命溢れる森には本来いない筈のゴーストが何故かいる上にどこかへと向かっているのだから、そりゃあ怪しさしかない。

 リーラズとルベリーが捕獲されたり、なんなら追跡した結果クズルゴの元に辿り着くとかそんな事になればもうお終い。

 明らかに不自然な痕跡から人為的火災と断定されるのは間違いない以上、クズルゴは最有力容疑者扱いになるだろう・・・・実際犯人なのは間違いないのだし。

 もしそうならなくてもゴーストの目撃証言があるだけでもダメだ。

 城下街近くの森への放火事件の手掛かりとして【騎士団】やその他諸々が調査を開始、屍霊術師である事を隠しているクズルゴでもいずれは尻尾を掴まれるかもしれない。


 それを嫌がった結果、クズルゴは既に疲労困憊の体に鞭打ってルベリーとリーラズを迎えに行くハメになった。

 幸いにも位置だけは分かるので他の野次馬冒険者に紛れて森へとある程度接近し、こちらに気付いた2体が〈神隠し〉で姿を消した状態となりクズルゴの元へと飛んできた。

 後は己に憑依させてゴーストの姿を隠したクズルゴが怪しまれないように、しかし迅速にその場を離脱。

 なんとか事なきを得たのだった・・・・


 そしてクズルゴは自身が寝泊まりしている宿部屋に帰った途端、疲れのあまり気絶してしまったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「約束通り、お迎えに来ました」


 「???」


 あれからほぼ一日中を寝て過ごしたクズルゴ。

 お嬢様と別れた際に伝えられた通り、クズルゴの元には迎えの者が訪れていた。

 しかし、クズルゴの頭に浮かぶのは疑問だらけ。


 何故ならば。


 「・・・・どうしてご自身で?」


 「アナタは恩人なのですから、ワタシ自ら会いに行くのは何の不都合もありません」


 (その理論はおかしくないか?)


 迎えの者を向かわせるとか宣っていた筈のお嬢様本来が一人で来ていたからだ。


 「アナタの借りている部屋にお邪魔しても?」


 「え? あぁはい、どうぞ」


 しかも堂々とクズルゴの部屋に上がって来た。 

 クズルゴは(なんだコイツ)という思いを抱かずにはいられなかった。


 「それで、今回の報酬の話なのですが・・・・」


 「あ、はい」


 急に真面目な顔になるお嬢様に、クズルゴは困惑しつつも応じる。


 「こちら、報酬です。 先日言った通り、感謝も兼ね少し増やさせて貰っています」


 そうしてお嬢様から手渡された袋、そこから感じる金の重み。

 クズルゴが待ちに待った報酬の80万エヌ、更にプラスアルファも入ってるらしい。

 意外と軽いもんなんだなぁと思いつつ、後はテクルが要求していた証明書も貰えれば完璧だ。

 まぁお嬢様が感じているらしい恩義と性格から考えて証明書を要求しても断られる事はないだろうと、早速話を切り出して・・・・


 「報酬の25万エヌ、確かにお渡ししました」


 (・・・・25万!? え、何故!?)


 「ではこれからもよろしくお願いします」


 (これから!? 何の話をしているんだこの女は!?)


 お嬢様の発言でクズルゴは証明云々どころではなくなってしまった。

 なんか明らかに報酬少ないし、護衛の依頼は終わったのだからこれからなどない筈なのだ。

 だがお嬢様は動揺しているクズルゴを見て心底不思議そうにコチラを見ている。


 「え、あーーー、その。 け、〔契約書〕ってお持ちですか? あの、一応、そのーーー、確認みたいなの、したいっていうか、はい」


 「えぇ、勿論です。 どうぞ」


 相手がお偉いさんでなければ間違いなくぶん殴っていたクズルゴだが、ここで我慢。

 多分何かしら手違いがあったのだろう、〔契約書〕を見てそこを指摘すればいいだけだ。

 何もおかしくはない・・・・クズルゴは焦りつつもそう考えて〔契約書〕に目を通し、絶句した。


 [今回の依頼を受理して頂く当冒険者(以下「甲」という)と依頼書を配布したワタシ(以下「乙」という)との長期護衛依頼を締結する。 依頼内容は護衛であり、締結されたならば甲は8ヶ月間乙の護衛を務める義務が発生する。 甲は乙の呼び出しには必ず応え、乙の遠出時にも必ず同行しなければならない。 義務が達成されなかった場合はこの依頼書の効力により契約違反と見做されて深刻なペナルティが課される。 義務が達成され続ければ一ヶ月10万エヌ、計80万エヌを互いに任意の場で乙が甲に直接渡す。 この報酬は甲の働き次第で一ヶ月経たずとも支払われたり増加する可能性もある。 サインはこちら→【⚫︎】]


 (な、内容が違うじゃねぇかよぉ!!!!)


 そう、記憶にある契約した際の文面と内容が全く別のものになっていたからだ。

 クズルゴは長期契約なぞ結んだ覚えはないし、報酬も一括払いから分割へと変化していた。

 頑張りに応じて報酬が増えるという記載も前はなかったし、逆に雑多にあった余分な文章が消えている。


 (オレの血判は残っている、という事は〔契約書〕はこれで間違いない筈。 何故文章が変わっているんだ? 魔法による偽造は〔契約書〕が弾く、アナログな方法ならば色々と書き換えれるだろうが〈契約〉の魔法は契約時に効果を発揮する。 後から文章だけ変えても〈契約〉の内容は契約時から変わらねぇ・・・・だから一度〈契約〉をすれば写しもいらない安心安全、それが〔契約書〕の売り文句だったな。 だが実際はどうだ? お嬢様が今80万に満たない報酬をオレに払っているのにペナルティが発生してねぇ! 記憶にある記載では報酬は一括払いで80万、それが破られているのに、だ! つまり〈契約〉の魔法は〔契約書〕の今の文面を基準に契約違反か否かを判定してやがるんだ!! つまりオレが遵守すべきもこの内容って事になる・・・・8ヶ月!? っざけんなよ!? どんなカラクリを使った!? 考えられるのは、金を積んで〔契約書〕の製造元に契約を弄ってもらったとかか!? 製造元なら細工できてもおかしくねぇしな!! それか元々これが本物の〔契約書〕じゃないとかか!? 本物じゃない唯の紙なら後から魔法による改変し放題からなぁ!! 少し前にオレも魔人相手にやった、紙切れを〔契約書〕と勘違いさせて思い込みで縛るやり方かぁ!?)


 思考の中でキレ散らかしつつ色々と考察するクズルゴは、ふとお嬢様の顔を見た。

 お嬢様は変わらず和やかに微笑んでいる。


 (何笑ってやがんだこの女ァ!! 契約内容を書き換えてよく堂々とオレの前に一人で立ってられんなぁ!!)


 「どうしました? 何か不備でも? もし何かあるならばおっしゃってください、えぇ。 すぐに対応させて頂きます」


 笑みを浮かべたままお嬢様、臆した様子もなく平坦な口調でそう溢す。


 (・・・・もう怖くなって来た。 というか報酬の合計額は80万から変わってない、なんなら今渡されたのが本当に25万なら増えてるし。 この女に何の利があっって〔契約書〕は書き換えられてんの? ていうかこの女が余りにも堂々とし過ぎてて逆にオレが間違ってる気がしてくるのはなんなん? いや、もしかするとお嬢様はこの書き換えに関与してなくてないとか・・・・あるか? 誰かが何かしらで契約内容を弄ってお嬢様の認識も魔法かなんかで狂わせて〔契約書〕が最初からこの書面だったと信じ込んでいるとか・・・・いや何の為に契約を長期にすんだ!? わ、分からねぇ。 マジで何も分からねぇ。 けど一つ確かな事がある)


 「どうしました?」


 「いえ、なんでも・・・・なんでもないです(ここまで謎な事ばかりだが、この異常は絶対に誰かの思惑によるものだ。 お嬢様本人かオレが預かり知らぬ誰かによるものかは不明だが、ここまでやっておいて簡単な退路があるとは考えられねぇ。 もし〔契約書〕が本物ならペナルティがあるし、もし見せかけだけの偽モンでもペナルティ以外の何かがあるだろう。 つまり!!)」


 クズルゴは乱れる考えを無理矢理まとめ上げ、お嬢様を見据えてこう言った。


 「問題ないです!!! これからよろしくお願いします!!!!」


 退路はないならやるしかない、報酬貰えんならまぁいいかぁ!!

 そう強引に自分を納得させて、クズルゴは完全に死んだ目でお嬢様によろしくした。


 「これはご丁寧に・・・・えぇ、こちらこそ。 あ、すいません。 一つだけお願いが」


 「なんでしょう!!!!」


 「アナタのお名前を改めて伺っても?」


 「はい、[クズルゴ]と申します!!!!」


 「あら・・・・それはとても、素敵な名前ですね」


 「ありがとうございます!!!!!」


 「そういえばワタシも名乗っていませんでしたね。 恩人相手に失礼でした」


 「いえそんな!!!!!」


 「そうですか? ではコチラも改めて・・・・ワタシは[テキス]と申します。 永い間、どうぞよしなに」


 クズルゴも、テキスも。

 瞳に光を宿さない両者は、共に笑っていた。



《To be continued》

→第三章 エンカウントは止まらない

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