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外れ者共は今を生きる  作者: 春夏 フユ
第二.五章 オレと借金返済
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tag:精霊術師とは tag:死に損ない tag:運命

 この世界には、精霊術師という存在がいます。

 屍霊ゴーストと双璧を為す精霊フェアリーを使役する事が出来る、生に関する魔法の適正がある者達。

 それが{精霊術師}なのです。


 精霊術師は【精霊の里】という【屍霊の里】が隣接している隠れ集落で世間の目から離れて暮らしています。

 【精霊の里】の精霊術師達・・・・彼らは[プネウマンスの血族]という特殊な血族であり、[ネクロマンスの血族]と協力して生きています。


 さて、精霊術師は屍霊術師と違い、誕生過程が一つしかありません。

 屍霊術師には精神性や魔法適正さえ突破できればOKな“自然発生”がありますが、精霊術師にはなんとそれがありません。

 精霊術師は[プネウマンスの血族]の血を継ぐ者が精霊術師となる“血統発生”でしか生まれないのです。

 しかも[ネクロマンスの血族]は血が交われば必ず屍霊術師となるのに対し、[プネウマンスの血族]は血が交わっても絶対に精霊術師になるワケではありません。

 例え[プネウマンスの血族]の血を受け継いでも精霊術師になる確率は精々10%。

 [ネクロマンスの血族]が一般人相手でも子が生まれれば屍霊術師となるのは100%なのに対し、圧倒的な低さです。


 ただしこの不均衡な確率は、[ネクロマンスの血族]と[プネウマンスの血族]の血が交わった場合のみ大きく変動します。

 この組み合わせで血が混ざり合った場合、屍霊術師となるか精霊術師となるかはおおよそ半々の確率となるのです。

 そして生まれた子は屍霊術師か精霊術師のどちらになったかによって[ネクロマンスの血族]に属するか[プネウマンスの血族]に属するかが決まるのです。

 

 余談ですが、[ネクロマンスの血族]には血縁関係があっても髪色や容姿が似ないという特徴がありますが、それに対して[プネウマンスの血族]は基本的に金髪であるという点が共通しています。

 遺伝の強さは一見[ネクロマンスの血族]が基本優勢であるのに、見目の観点からすれば実際は[プネウマンスの血族]の方がちゃんと遺伝しているのですね。

 

 ちなみに世間は屍霊術師の存在を認知していても精霊術師の事は知りません。

 屍霊術師は里に引き篭もる[ネクロマンスの血族]以外でも“自然発生”で血に関係なく誕生してしまうのに対し、[プネウマンスの血族]は“自然発生”がないのに加えて里の内でしか血の交りが起きないからです。

 例外として過去に里を脱走した[プネウマンスの血族]がおり、それが外で子を成して更に精霊術師としての能力も遺伝したという事があったのですが・・・・それはかなり昔の話であり、明確な証拠も残っておりません。

 現在では血は薄れに薄れ、もう精霊術師としての能力が目覚める事はないでしょう。


 こういう理由もあり、世間はゴーストを使役する=屍霊術師がする事、フェアリーを使役する=無理という認識です。

 ただしこの国の王だけは精霊を操る術を持っているという噂があり、実際に少し前から流通している〔契約書〕は精霊の力を利用しているとの事ですが・・・・真偽は不明です。


 さて、精霊術師について色々と話しましたが精霊術師が使役するフェアリーの説明が不足していますね。

 簡単に説明するならば、フェアリーはゴーストの逆です。

 命持つ“者”の生が死に転じる際に膨れ上がり魂から弾き出された未練の塊がゴーストの正体ですが・・・・元より命を持たない、いわば死んでいる“物”が命を持った結果生まれる意思の塊、それがフェアリーです。


 より詳細に言うならば、無機物や概念などの非生命体が時の流れ、魔力の共鳴、魔法の干渉、その他諸々の複雑な理由から自我を獲得した場合に。

 非生命体は総じて自我を保有出来る構造をしていないので自我は自己の内ではなく外に持つ事となります。

 そうして外部へと吐き出された意思の塊が周囲の魔力を本能的に集め仮の実体としたのがフェアリーという存在なのです。


 火が意志を持てば火の精霊、鏡が自我を得れば鏡の精霊、車輪が己を確立させれば車輪の精霊、音に精神を芽生えさせれば音の精霊・・・・大分なんでもありな個性豊かな存在です。

 ゴーストは色の違いで変わる固有の能力がありますが、フェアリーは自分という存在を媒介に周囲に働きかけることで自身の本体とある程度同質のものを操る事が出来るという能力を持っています。

 火の精霊は火を操り、鏡の精霊は鏡を操り、車輪の精霊は車輪を操り、音の精霊は音を・・・・といった風にそれぞれ対応したものを操作可能なのです。


 尚、精霊術師にはフェアリーとの相性があります。

 火や溶岩などの熱い物が本体のフェアリーとの相性がよく存分に力を発揮させる事が出来ても、雨や氷などの冷たいものを本体とするフェアリーとの相性が悪くそもそも使役不可などという事例があります。

 屍霊術師がゴースト全般を使役する事が出来るのに比べると、使役出来るフェアリーに制限があるというのはなんだか悲しい話です。


 ちなみに、ここまで説明しておいてなんですが。

 実際のところ、現存している精霊術師はなんと一人しかいません。

 ある日【屍霊の里】共々【精霊の里】は燃え、血族は両方ともほぼ滅んでしまったからです。

 [プネウマンスの血族]で、どうにか生き延びる事が出来たのは里の長の娘だけでした。

 彼女の名は[トワア]、幼馴染の許婚がいたそうです。


 一応里を滅ぼした側である3名の内にも精霊術師はいたようですが、そいつはある男の復讐によって殺害されたそう。

 だから血統発生でしか生まれ得ない精霊術師は、生き残ったトワア1人だけとなったのです。


 ただ、彼女は地獄と化した里から逃げた際に大火傷を負ってしましました。

 綺麗な顔は半分が焼け焦げ、美しい金髪は殆ど燃え落ち、首から下にかけても多大な火傷跡が残る結果となりました。

 生命系の魔法と使役している精霊の力もあり、なんとか生きる事自体は可能でしたが・・・・その有り様は、生き残ったというより、死に損なったとでもいうべきように凄惨なものでした。


 そして、更に酷い事に。


 彼女は痛みと衝撃で、記憶の殆どを喪失してしまったのでした。


ーーーーーーーーーーーーー


【とある娘の追憶】


 ワタシは過去の記憶が抜け落ちています。

 今のワタシとして目覚めた時に感じたのは、燃えるように熱い痛み。

 実際に酷い大火傷をしていたので、多分本当に一回燃えたんだと思います。

 

 かなりの時間が経った今だから冷静に振り返る事が出来ますが、当時のワタシはかなりの錯乱具合でした。

 激痛に加え、自分が何者かすら分からなかったのですから。

 そのような理由で動揺し混乱しているワタシに駆け寄ったのは、一人の男性でした。

 その方は長身で恰幅が良く、縦幅横幅共に広くデカい人でした。

 顔だけが幼い子供のような童顔だったのが印象深かったです。


 その時に気づいたのですが、ワタシは柔らかいベッドに寝かされていました。

 カレはワタシに優しい声で落ち着かせるように、ゆっくりと語りかけて来ました。


 その話曰く、ワタシはカレに保護されたとの事でした。

 余りにも深刻な傷のワタシが外で倒れていたところをカレが偶然発見したそうで、急いで己の住居に連れて来て治療を施してくれたのです。

 ワタシは深い感謝をしました。


 ワタシが記憶が無いことを打ち明けると、カレはワタシに取り敢えずはその傷の治療が一段落つくまでここにいて貰いたいと言いました。

 記憶喪失はその過程で直るかもしれない、とも付け加えました。

 ワタシはカレの優しさに甘える事にして、暫く厄介になることにしたのです。

 

 最初の三ヶ月はは特殊な魔道具を身体中に取り付けました。

 それは医療用の魔機械らしく、使用者の体質を読み取りそのデータを基に最適な回復魔法をかけてくれるという非常に便利な物。

 これだけ聞けばあっという間に治っても良さそうに思えますが、回復魔法は一日に使用していい量の上限がありました。

 回復魔法に頼り切りで全てを治してしまうと、身体の機能が著しく低下してしまうらしいです。

 それに一定の回復魔法にかけられた後にはしっかりと時間をとって肉体を安定させなければ回復後の肉体に異常が起きる可能性もあるとも聞きました。


 そのような理由があり、安定と回復を繰り返して三ヶ月。

 火傷跡は極限まで薄くなり、肌を刺激さえしなければ痛みが走る事もなくなりました。

 髪の毛も短いながら、しっかりと生えて来ました。


 ですが治療の為にベッドに寝たきりだったワタシは、体が上手く動かせませんでした。

 ですので、次に取り掛かったのはリハビリです。

 カレが手配してくれた先生と共に歩く練習、魔法の練習などを時間をかけて行なっていきました。


 この頃にはワタシの記憶は一部が思い起こされて来ました。

 それは自分が{精霊術師}である事と、その力の使い方。

 ワタシは恩人であるカレにそれを打ち明けました。

 どうやら精霊術師とは実在しないとされてる存在のようで最初こそ眉唾ものであると思われていましたが、実際に精霊を使役した事で信じて貰えました。

 ワタシは恩を少しでも返すために精霊の力を利用したアイテムを作りカレに渡したり、カレの奥さんと会ってお話をしたり、朧げながら記憶の一部が浮かび上がったり、カレと定期的に会話をしたりと・・・・色々とお世話になりながらも過ごしていきました。


 そうしてリハビリ期間も終わり治療が一区切りついた時、カレにある提案をされました。

 まだ記憶が戻らず、帰る場所がないのなら・・・・自分と自分の妻の“娘”になって欲しいと、そういう提案でした。

  その話に驚いたワタシに次いで明かされたのは、カレがワタシを助けた理由でした。


 どうやらカレは定期的に善行をする事で、善人のように善く在りたいと考えているそうです。

 本当の善人であれば無自覚に善行を積めるが自分はそんなに綺麗ではなく打算で物事を考えてしまう、だから定期的に自分の利益には繋がらない善行をして少しでも本当の善人に近づきたいという考えでした。

 善行をして人を助けてるならばそれは紛れもない善人では?と思いましたが、カレが言いたいのは、他人からの評価でなく自分自身が善行らしくなれているという実感を得るのが目的との事です。


 ですのでワタシを助けた当初はその定期的な善行の一環だったそうですが・・・・その善行の最中に、ワタシが幻の存在である{精霊術師}であると判明したのです。

 その時にカレの打算的な面が『自分達夫婦には諸事情で子を成せず困っていた事』、『年齢的にも娘という形で取り込むのが最適である事』、『妻も自分も人柄を気に入っており互いに良好な関係を築けている事』、『精霊術師が多大な利益をもたらすのは恩返しで貰ったアイテムから既に実利が発生している事から判明済みな事』、『記憶喪失の精霊術師とおうどう考えても厄ネタの存在だがそのリスクが込みでもリターンが多大な事』、その他諸々を考慮してワタシを手元に置くべきだとカレ自身の心に囁いたそうです。


 カレは悩んだそうです。

 もしワタシを抱き込み利用したら、それは無償の善行ではなくなってしまう。

 最初から打算込みでの行動だったならともかく、コレは一度善行として始めていた行い。

 それを無視すれば善人らしい善行とは程遠いモノとなってしまう。

 他人からすれば『そんなに難しく考える事か?』と思ってしまいそうなものですが、カレにとっては自分のアイデンティティが揺らぎかねない重大な事態だったのです。


 自分一人では結論がでないと判断したカレはその葛藤を自身の妻に相談しました。

 カレの妻は、その葛藤も含め全てを打ち明けてどうしたいかをワタシ自身に聞いてみればどうかと返したそうです。

 全てを開示し、互いの納得のいく結論を出す・・・・そうすれば打算も何もないだろうとの事。


 そのような経緯があり、カレはワタシにこの様な話をしたそうです。

 どこか行きたい場所があるなら娘になって欲しいという提案を断ってくれて構わない、一定のお金や食料やらを渡して見送ろう・・・・正に打算とは対極の善行となる。

 もし全てを聞いた上で尚娘になってくれる事を良しとするならば完全合意の上でのウィンウィンで、少なくとも自分本位の打算ではない。


 こう言われたワタシは、娘になる事を選択しました。

 実は行きたい所もありましたが・・・・この選択の方が都合がよかったので、娘になる方を選んだのです。


 さて、一体娘になる事の何が都合がいいのか・・・・それは動かせる人員が多いというところ。

 見ず知らずのワタシに手厚い治療を何の躊躇いもなく施せる程の財力がある事から分かる通り、父様と母様には沢山の部下がいます。

 娘となって実績と信頼を重ねれば部下を借りる事が出来るでしょうし、いずれはワタシ直属の部下だって与えられるかもしれません。

 そうして部下を得て、ワタシはこう命令するのです。


 [シレイ]という人物を探して欲しいと。

 特徴として、性別は男、少し痩せ型だが概ね標準的な体型、口調は基本的に荒く調子に乗ると饒舌になる、前髪の先端が赤紫になっている事を除けば全て黒色の毛髪、そして何よりゴーストを使役出来る{屍霊術師}である。

 名前や体型、口調などは変わっている可能性があるものの大凡はこの情報に沿って捜索をして貰うのです。

 ワタシの行きたい所、それは他でもないシレイの元なのです。


 何故シレイのとこへ向かいたいのか。

 それは、シレイがワタシの大事な人の筈だから。

 ワタシが時折突発的に思い出す過去の記憶・・・・いや、記憶というには余りにも実感が薄く朧げであり、文字起こしのような形で思い起こされる『過去の記録(Past log)』とでも言うべきソレ。

 その全てに現れる、ワタシとどこか秘密基地のような場所で会話している男。

 それこそが、シレイ。


 ワタシとシレイの会話から推測するに許嫁の関係であった様子。

 だが思い起こされる話の仕方は、どちらかというと気軽な友人のようです。

 互いに好意を抱いているのは間違いなく、毎度の如く記録に登場する頻度や読み取れる感情から察するに少なくともワタシが愛していた人である事が分かります。

 それが親愛か恋愛なのかはハッキリと判断出来ませんが・・・・そこは重要ではありません。


 ワタシはただ純粋に、シレイに会いたいのです。

 ワタシの過去の記録の多くにいるシレイに会えば、全ての記憶を取り戻せるかもしれません。

 何より、実際に会って話してみたいのです。

 出来る事なら触りたいし、嗅いでみたいし、舐めてみたい。

 その為にも、父様と母様の娘として努力するのです。


 こうしてワタシは父様と母様の義娘となって数年、愛情を受け、教育を施され、努力を重ね、信用を得ていき、成長をしていきました。

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