オレとᚾᚪᛣᛟᛞᚪᚱᚪᚴᛖ
「ここで止まってください。 到着です」
「マジで疲れt・・・・・ましたぁ!!」」
火事によって生じた障害物の所為で度々ルート変更を余儀なくされたものの、その都度お嬢様がマップを確認して修正して進んで行くと・・・・誘拐犯に出会すことも、強力な魔物の登場も、全くの想定外も起きる事なく、わりかしあっさりと目的地にたどり着いた。
ただ純粋に、めっちゃ遠かった。
(こ、この女・・・・ここまで遠いと理解しておきながらオレに自分を抱えさせて連れて行って欲しいと頼んだのか? 人間性終わってんだろ・・・・)
クズルゴ達が誘拐犯達追跡の為に炎を放った位置からは大分離れ、お嬢様の案内が始まってからどれ程の時間経過したか分からない。
しかし朝日が登り始めてるので数時間単位なのは間違いないだろう。
ここまで遠いのは想定されていた移動手段が馬車だった時点で察せる話だったかもしれないが。
「重ね重ね、ありがとうございます。 もう降ろしていただいて構いません。 ワタシはこの石碑に用があったのです」
「・・・・はぁい(今機嫌が悪くなってるから何言われてもブチ切れて罵倒が口から飛び出そうになっちまう。 ここまでクッッッソ頑張ったんだ、お嬢様に悪印象を抱かせるワケにはいかねぇ・・・・無心でいるんだ。 取り敢えず全部『はい』って言っとこう)」
心を落ち着かせ口を最低限しか動かさない事により、怒りを吐き出しそうになる自分を抑制しお嬢様を丁寧に降ろすクズルゴ。
降ろされたお嬢様は魔法の影響からは回復した様子だが、ずっと馬車に座っていた+ずっと運ばれていたので、かなり久しぶりに自分の足で立った事となる。
それ故足元が少々おぼつかなくなっており、ちょっと危うい歩き方となっているようだ。
「おっとと・・・・」
しかし今のクズルゴにそんな若干フラついてるお嬢様を気にする余裕はない。
今自分を疲労困憊に追い込んだ元凶であるお嬢様を注視してしまうと、怒りゲージがジワジワ溜まって行ってしまうのでそれ以外・・・・周囲の風景を小休憩がてらざっと見渡す。
(ここが目的地? 思ってたのと全然違ぇな。 オレはてっきり、森の中にある別荘とか森の向こうにいる誰かに会いに行くだとか、そういうのを目指していたと思ったが・・・・)
クズルゴの予想を大きく外して、此処にあるのはどこか見覚えがあるような気がするも、全く読むことが出来ない不思議な字が余すことなくびっしりと刻まれた大きな石碑だった。
サイズは自分の3倍ほどのデカさで、横幅も手を全力で広げても少し足りない、それぐらいの大きさ。
辺りの静けさに見合うように、ドッシリと佇むようにある石碑からは並々ならぬ威圧感がある。
(石碑? なんだぁ、この気持ち悪いくらいに敷き詰められてる文字はよぉ。 なぁんか見た事ある気がすんだよなぁ。 昔見た気もするし、最近見た気もする。 マジでなんだ? ・・・・・ん? ルベリー達は何してやがる?)
クズルゴとリーラズ&ルベリーは〈使役〉という魔法により特殊な魔力によるラインが形成されており、それを意識する事で例え距離が離れていようとも見ずとも大体の位置が把握できる。
その繋がりから感じるに、リーラズとルベリーは自分たちの少し離れた後方で忙しなく辺りを飛び回っているのだ。
(何故ウロチョロしてる? オレに何かを伝えようとしてんのか?)
その不審な動きに疑問を感じたクズルゴは、ゴースト達の様子を確認しようと振り返・・・・
『ᚾᚪᚾᚪᛏᚢᚾᛟᛋᛁᚱᛖᚾᚾᚵᚪᚺᛁᛏᛟᛏᚢ,”ᚪᛁ”ᚾᛟᛋᛁᚱᛖᚾᚾᚾᛟᛏᚪᛋᛋᛖᛁᚥᛟᚴᚪᚴᚢᚾᛁᚾᚾ. ᚴᛁᚾᚾᚵᚢᛋᚢᚴᚪᚱᛁᛒᚪ-ᚾᛟᛋᛖᛁᚵᛖᚾᚾᚥᛟᛁᛏᛁᛒᚢᚴᚪᛁᛣᚤᛟ. ᛏᚢᚵᛁᚾᛟᛋᛁᚱᛖᚾᚾᚾᛁᛋᛟᚾᚪᛖᚤᛟ』
・・・・る事はなく、突如聞こえた謎の声に動きを止めた。
いや、声というよりは機械的な音声だった。
まるで森に似つかわしくない音、その発生源は他でもない謎の石碑から。
クズルゴはゴースト達を見ようと振り向きかけた首を石碑の方に向き直す。
「・・・・これで用は済みました。 帰りましょう」
石碑の前にいるのは当然お嬢様。
もう終わった感を出して帰宅ムーブを醸し出しているが、なんか明らかにおかしい所がたくさんある。
(・・・・なんで『剣』を持ってやがる? いつ出した? どこから出した? そんなんオレが運ぶ時持ってなかっただろ!!)
まず一つ、お嬢様が剣を持っている事。
見た感じは特徴のない至って普通のロングソード、だがそんな物は今までお嬢様を運搬中に見た記憶がない。
しかもちゃっかりとこれまたさっきまで存在していなかった鞘まで腰に付いていた。
クズルゴは物を収容するタイプの魔法かと考えたが、(だったら鞘いらなくね? そんなん無くても収容魔法があるなら安全に持ち運べるんだから。 そういう魔法は容量に厳しい限界あるから余分な物は極力減らしてスペースを確保するだろ。 それともバカだから容量とか気にしないのか?)と疑問点がいつの間にかシフトしていた。
そしておかしなところ二つ目。
(そんで、何でその剣を石碑にブッ刺してんの? ていうか刺さるの? 石碑が脆いのか剣が硬いのか判別出来ねぇけど。 もしかして刺す為にここまで来たの? 今さっきの音声は剣を刺したから鳴ったの? ・・・・マジでどういう事? あ、剣を抜いた。 ・・・・石碑に刺さった剣が跡がない。 なんで?)
お嬢様がいかにも重要そうな謎の石碑に剣を平然と刺していた。
確かに魔法で強化をすれば薄い剣でも巨大な石を貫けるかもしれないが、だとしても何故そんな事したのか見当もつかない。
さっきの訳のわからない音声が鳴った原因はこの行動のせいかとクズルゴは思った・・・・だってこれ以外にそれっぽいアクションがないんだもの。
剣が石に刺さって機械音を出す意味も分からないが、その後すぐに剣を抜いたら石碑に刺し跡がなくキレイな平面のままだというのも意味分からんかった。
更におかしなところ三つ目。
(ついさっきまで子鹿みたいに足プルプルしてたのになんか普通に立って歩けてるんだが。 なんでそんなピンピンしてやがる。 時間経過があったにしても急激に元気になりすぎじゃねぇか? むしろ体力満タンみたいな雰囲気出してるんだが。 出所不明の剣で石を突いたら回復したってか? 余りにも意味不明だ。 なんかキレそう)
先程までの弱った姿はどこへやら。
クズルゴの前にはしっかりピンと真っ直ぐ足を立たせ、肩を回して体の調子を確かめているお嬢様の姿が。
心なしか顔の血色もよくなっている気がする・・・・クズルゴは自分はこんなにも疲れ果てているのに、と嫉妬した。
(というかまた帰る為にさっきまでの道戻るのか? オレの足が死ぬじゃねぇか! もう少し休憩させろや!)
休憩したいと口に出しもせず上っ面だけは普通そうに取り繕ってるクズルゴはよく分からない事ばかり+単純な疲労でかなりのギリギリ状態であった。
「では失礼して・・・・」
そんな限界クズルゴにお嬢様はスタスタと歩いて接近したかと思えば。
クズルゴの体にお嬢様がタッチをした瞬間、足元に魔法陣が出現した。
「!? えっ、コレ何な」
「ここまでお疲れ様でした。 すぐに〈帰還〉致しましょう」
その魔法陣から発される光に包み込まれたかと思えば。
気づけば護衛依頼の為に最初に集まった、【喫茶店アッセンブル】の前にいた。
朝日はあるが、まだ早朝すぎる為か人通りはない。
急に見た事ある場所へ飛ばされたクズルゴはすぐに転移したのかと察した。
お嬢様はそのクズルゴの顔を見て、頭を下げて言葉を発する。
「ここまで想定外のトラブル続きでしたので、報告や調査など色々とやっておかねばならぬ事があります。 その為、誠に申し訳ありませんが少しばかり報酬のお支払いが遅れてしまいます。 勿論それの謝罪込みで報酬は色をつけさせて頂きます。 ご容赦いただけますと幸いです」
「はぁい!!!!! (・・・・・転移系の魔法持ってやがったこの女ぁ! 先に言えや!! 多分帰る時専用なんだろうけどよぉ!!! そういう魔法あるって知ってたらやろうと思えばすぐ帰れるって分かってオレの心理的負担が減ってただろうがよぉ!!!!)」
「アナタが泊まっている宿の場所はどこでしょうか? 明日の朝までに迎えの者を向かわせます」
「エリアAのヤスラギ宿でぇす!!! それでは待ってまぁす!!!」
「はい、ではこれまでの全てに感謝を」
「はぁい!!! では失礼します!!!」
もうなんか色々と心身共に疲労のピークに達していたクズルゴは最低限の礼儀だけを忘れずに、逃げるようにその場から離れた。
向かう先は自身の宿泊先であるヤスラギ宿・・・・ではなく。
(ルベリーとリーラズ置いてってるんだよぉ!!!!)
目の前で転移されて途方に暮れてるであろうゴースト達がいる【花吹雪の大森林】だった。
どうやらお嬢様の言っていた【火消団】が出動しているようだが、余りにも火の範囲が広く消化活動は終わっていない。
“轟轟と音を響かせ、森は未だ燃えている”。
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「誘拐犯が持っていたタブレット、ですか」
クズルゴが見えなくなる程遠くに離れて行ったのを見届けたお嬢様は、クズルゴ本人が頭からすっぽり抜け落ちて存在を忘れているだろタブレットを手に取り、ずっと起動しっぱなしの画面を見つめる。
その瞳にはクズルゴに見せていた人当たりの良さそうな柔和な印象がなくなり、まるで氷のような冷徹さを感じさせるものへと変わっていた。
「一度画面を閉じたりしたら恐らく再起動する際にパスワードがあるでしょう。 だからこそつけっぱなしにしていたのですが・・・・まだバッテリーが切れる様子もありません。 地図機能以外ないと考慮してもも、かなりの長持ちです」
その言葉も、元より綺麗な美声から変わっていないはずなのにどこか“強さ”と“不気味さ”を感じる声へと変貌している。
「こんな高性能なタブレットを、ただの一グループが持っていたという事実。 コレを自分達だけで入手出来るワケがありません。 一体、だれから貰ったのでしょうね?」
タブレットは誘拐犯の持ち物・・・・クズルゴからの口頭でのみ伝えられている筈の情報を、お嬢様はまるで実際に見ていたかのように疑う様子がない。
そしてその言葉からは、疑問のように発されているものの何かを確信しているのが分かった。
「それにワタシの乗っていたキャビンは魔法的防護で守られていました。 外側からは簡単に干渉できません。 ワタシを眠らすのに必要なのは、キャビンの内側から魔法を発動出来る物」
お嬢様はおもむろに金のペンダントを首から外す。
「その上、タブレットに搭載されているのは詳細な地図にプラスしてワタシの位置情報追跡機能付き。 ワタシに睡眠魔法を当てる為に要るのは魔法を外から内へと中継出来る何かしらの魔道具。 ワタシの位置を把握する為に必要なのは発信機かそれと同等の機能を持つアイテム。 どちらにしろワタシ自身が持っている事で効果を発揮する物です」
調和など知ったことかとお嬢様の服に全く合っていなかった金のペンダントをゆらゆら揺らしながらお嬢様は口を止めない。
「さて、このゴテゴテでピカピカの金ネックレス。 これ、貰い物なのですよね。 送り主曰くお守りであり、肌身離さず持っていて欲しいと言われた記憶があります」
お嬢様はクルリと回って後ろを向く。
「そういえばこのお守りをプレゼントしてくれた人は、ワタシが護衛の募集を頼んだらワタシを攫う事を目的とした20人を集めた人と同じでしたね」
お嬢様は、後ろからコッソリと接近していた1人の男と目を合わせた。
「[オビディエンスホース]に道を教えられる程の人なら、タブレットに森の地図データを入力する事だって出来ますよね」
独り言のようであったが、実際にはこの場に隠れていたある人物に語りかけていたお嬢様はその男の名を言い放った。
「ねぇ、ベゴニア」
「・・・・バレてしましましたか」
そこにたのは他でもないこの場所でクズルゴの護衛採用に反対していた男、ベゴニアだった。
「さて、弁明を聞きましょうか?」