オレと道
ここまでイレギュラー続きだった今回の依頼。
依頼書が1人だけ他と違う形式だったり、護衛採用が本来のルートでない飛び入り参加の形だったり、自分以外の護衛がまさかの全員裏切り者だったり、その所為で環境破壊を余儀なくされたり、かなり焦っていたから仕方ないとはいえ人前ではずっと隠していたゴースト達を誘拐犯達の前で堂々と出しちゃってたり、お嬢様のお願いで絶賛炎上中+誘拐犯がランダムエンカウントする森に再突入する羽目になったりと・・・・・本当に散々なものだった。
(クロイ、あの男のせいだ・・・・! アイツがこの依頼書を渡しさえしなければ、オレがこんな目に遭うことはなかった! それにあの触手女がオレに金の出処を証明出来る物を用意しろとかふざけた事をぬかさなければ・・・・! オレをこんなにも苦しませやがって! あの2人は絶対に許さん!!)
尚クロイ達がクズルゴに復讐と称して負債を押し付けたのは元を辿るとクズルゴがラスイに詐欺ったのが理由なのだが、クズルゴの都合のいい頭はその事実を無かった事にした。
そして勿論クロイもテクルもクズルゴがこの様な異常事態に巻き込まれる事は想定していないので濡れ衣である。
「あの、どうかしましたか?」
筋違いな怒りの気配を感じ取ったのかお嬢様が質問をしてきた。
表面上は平穏を保ち、しっかりと丁寧に返答する。
「なんでもねぇy・・・・でございますよ」
ダメかもしれない。
既にいっぱいいっぱいでようやく帰れると思っていたのにまた引き返す事になったクズルゴは敬語が若干外れかけるぐらいキツかった。
むしろ『どうかしましたか、だぁ!? んなワケねぇだろ!! ここまでやってまだ働かされてるんだぞ!? どうかしてんのは見りゃ分かんんだろ!! 目ぇ腐ってんのか、あ゛ぁ゛!?』とキレ散らかさない時点で相当自制してる。
さて、そんな心中穏やかでないクズルゴはお嬢様が頼んでいた目的地がどこなのか全く知らないので記憶を頼りに自分が誘拐犯を追跡して来た・・・・つまり馬車が停まった位置を取り敢えずは目指している。
ゴースト達はお嬢様に存在を気取られないよう少し離れた位置からついて来ている。
後お嬢様は体が元より弱い上に睡眠魔法をガッツリ受けた影響か、体が上手く動かせないので依然クズルゴに抱えられている。
が、その道中で問題が発生した。
途中までは記憶で進む事が可能であったが・・・・今この森は誰かさんが火を放ったので燃えている真っ最中!
時間経過で木の燃焼が進み景観が一変し、なんなら倒木で道が塞がれてよく分からなくなっている・・・・記憶が頼りにならなくなったのだ!
(おっ、おまっ、マジで、おまっ、も、森風情がオレの邪魔するんじゃねぇぞブチ殺すぞゴラァ!!)
怒りのあまり森相手に殺害予告するというよく分からん事をしてしまっている。
「火事のせいで上手く進むことが出来なくなっているのですね。 何か位置が分かるものがあればよいのですが」
「そんな都合のいいもんがありゃとっくに使ってん・・・・・でございますですますよぉ!!」
敬語が外れるどころか文法が崩れかけているクズルゴ。
ここで・・・・何かが後ろからコツンと触れた。
腹が立って冷静ではないといえクズルゴも冒険者、咄嗟に距離をとりつつ振り返り武器を向ける。
が、そこにあったのは敵などではなく、フヨフヨと浮くタブレットが一台。
(タブレットォ? リーラズがよこしたのか? こんなもんが一体何に・・・・あ?)
リーラズに指示し〈ポルターガイスト〉で持ち帰る予定である誘拐犯からぶんどったタブレット。
そういえば何が表示されているのか確認しておらず、この状況でリーラズがわざわざ背中にぶつけて来るので画面を見た。
そこに表示されているのは何かのマップらしきものと、中央にある赤い点。
(まさかこの森のマップ? んな好都合なのが・・・・待てよ、誘拐犯共はこの画面を見てオレ達の位置を把握した。 じゃあ分かりやすい赤い点がオレ達の現在位置? そんでもってマジにこのマップはこの森のもの? ・・・・・あったわ、都合のいいもん)
恐らくリーラズもこのマップを見て同じ結論に至り、この状況で有用だと判断した為クズルゴの背中に軽くぶつける形で気づかせたのだろう。
「一体何を・・・・あら、そのタブレット。 アナタの魔法で浮かせているのですか?」
クズルゴが急に振り返ったので驚いたお嬢様だが、その関心はすぐに浮遊してるタブレットの方へと向けられる。
彼女は小脇に抱えられており視点が低いのでクズルゴよりワンテンポ遅れて気付いたのだ。
「ま、まぁそんな感じですよ、はい。 あぁいやね、このタブレットは誘拐犯との戦闘の際に得た戦利品なんですが、どうにもここらの地図がデータとして内蔵されているようでして。 これを使えば道もある程度分かるかと・・・・どうです? これを見てどのルートを通ればいいとか分かります?」
どうやらお嬢様はタブレットが浮遊しているのを魔法によるものと判断した様子。
片手がお嬢様で塞がってる都合上、残りの手をタブレットを持つ事に使えば両手が使用不可になってしまうので敢えて持たずに浮かせっぱなしにしていたが・・・・お嬢様が勘違いしてくれたお陰でわざわざ誤魔化す手間が省けた。
そんでもってクズルゴの意図を察したルベリーがタブレットの位置をお嬢様の目の前まで移動させた。
普通に戻るルートが火災で封じられている以上、ここ以降の道は完全に分からなくなった為お嬢様に道案内して貰うしかないのでマップを見せたのだ。
「少し見る時間を頂きます。 お待ちください・・・・・・・成程、今はこのあたりでしたか。 ではここからはワタシが案内致します」
「あ、道分かるんですね」
「はい、ここらの地図は事前に記憶していますのでこうして今どこにいるかを理解出来れば道が分かります。 本来なら馬車の中に地図があったのですが、手元にありませんので。 むしろワタシはアナタがある程度道を知っていた事に驚きました」
「そ、そうですか(もしかして記憶を頼り引き返してたのを『道を知っていたから進めてた』だと思われてる? なんで目的地まで行って欲しいと頼んで来たのに肝心の目的地までの道を説明しないかと思ったら、オレが普通に歩いたから知ってるもんだと思われてたのかよ! 変な勘違いしやがって! 普通に考えりゃ護衛開始直前に依頼を受けたオレが目的地とか知るワケねぇだろ!!)・・・・そういえばお嬢様が道を把握してるって事は、馬車で移動してた時に馬がスイスイ進んでたのはお嬢様によるものだったんですか?」
さっきタブレットが浮いている事について勘違いされた際は都合がいいと喜んでたのに、自分が道を理解して進んでるという別の勘違いをされたらすぐにキレるクズルゴ・・・・怒りスイッチが緩すぎる。
最初から素直に道を聞いてれば起きなかった勘違いなのだが・・・・そんなお門違いな憤りをお嬢様に見せない様に心の中だけで収めつつ、少し気になっていた事を質問した。
それは馬車移動の際御者台に乗せられていたクズルゴが疑問に思っていた、『この馬車、どうやって馬を御して適切なルートを進ませてるのか』という謎だ。
あの時は変に深読みしていたので質問出来なかったが、お嬢様が自分から道に関する話題を出した今ならば聞ける。
「いえ、確かにワタシは目的地までの道程を把握していましたが馬に指示を飛ばしてはいません。 アレは特殊な馬系魔物、[オビディエンスホース]というものでして、強く賢く主人に従順で物覚えがとてもよいのです。 あのオビディエンスホースの主人であるベゴニアが事前にここの地図を見せて道のりを教え込んだのです。 ベゴニアにはいつも本当にお世話になっています。 このお守りである金のペンダントも彼の贈り物なのですよ」
「便利な馬ですねー(ベゴニア、オレの護衛採用を渋ってた奴か。 馬そのものが利口で教えられたルートをそのまま進んでくれる・・・・御者いらずの馬とは、上級国民が飼ってるだけはある。 ・・・・・何か分かりそうな気がするが、何が分かりそうなのかすら分からねぇ。 疲れが相当溜まってるな)」
“今までの情報を組み立てて点と点を繋げれば何か重要な事が分かる”気がしたクズルゴだが、生憎彼の脳にこれ以上複雑な推理をする余裕はなかったので、質問の答えに納得し、案内に従って進むのみである。