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外れ者共は今を生きる  作者: 春夏 フユ
第二.五章 オレと借金返済
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オレと目覚め



 「・・・・ふぅ」


 お嬢様の奪還、ついでにタブレットも奪って一息つくクズルゴ。

 誘拐犯の内行動可能な11名が自分を追っているが・・・・コチラにはルベリーの〈神隠し〉で透明化出来るのだ。

 だだっ広い森の中、視界外で不可視になってしまえば向こうの人数が圧倒的に多くとも見つけられる事はないだろう。

 なんならコチラの位置を把握出来るらしいタブレットだって今はクズルゴ自身の手中に収まっている。


 こうしてある程度安心出来る要素が揃ったからこそ、クズルゴは緊張の糸を少し緩めて一息ついたのだ。

 だが勿論これで全部お終いのめでたしめでたしというワケではない。

 森からの脱出とかしばらくしたら起きるであろうお嬢様への説明とか・・・・特にヤバいのは森を燃やした事に対する弁明だ。

 ここまでやったのだから報酬は当然貰いたいが、その為にもまずどうしてこんな事になっているのか具体的に説明せねばならないだろう。

 

 (誘拐犯から救出する為に森燃やしました!と馬鹿正直に言ってしまえば・・・・当然誘拐犯側にも責任があるが、それはそれとしてオレにもやり過ぎという事でお咎めがありそうだな。 いや、お嬢様はお偉いさんだ。 恩義を感じてくれりゃあある程度のやらかしは握り潰してくれたり・・・・流石に都合の良すぎる考えか? じゃあ森の火災部分をどうにかボカして・・・・いや待て、そもそもお嬢様はずっと眠ってたから誘拐云々の話を信じてくれない可能性もあるじゃねぇか。 オレは助けた側だとどうやって証明すればいいんだ? お嬢様次第でオレが火災起こしてお嬢様掻っ攫った犯罪者だと勘違いされかねねぇぞ!?)


 緊張状態から解放された途端、色々と不安点が湧いてくるクズルゴ。

 自分以外が全員誘拐犯で自分はそこから助け出した味方などと、お嬢様が無条件で信じてくれると考えるのは余りにもご都合主義。

 信じてもらう為にありのまま起こった事を丁寧に解説するとなると、火災を起こしたのが自分だという事も、クズルゴとしては本来秘匿したいゴーストの事も全て話さねばならない。


 火災を起こした張本人、ゴーストを従える屍霊術師、しかも依頼を受ける為には本来必要な過程をすっ飛ばして飛び入り参加したイレギュラーでもある。

 信じて貰える要素が微塵もない、どうしよう。

 もしかすると起きたお嬢様への対応はお嬢様を奪還する時よりも難しいかもしれない。


 (・・・・・そもそも攫う方と攫われる方が悪い。 オレ、悪くねぇ)


 沢山考えた結果、クズルゴは無性にお嬢様へ文句を言いたくなった。

 自分にしてはちゃんと真っ当に正しい事をした筈なのに・・・・自然破壊という過程には目を瞑って・・・・なんでこんなに悩まされねばならぬのだ、と。

 ここからでも出来る上手い納得のさせ方が思い当たらないので現実逃避に入り始めた結果故の怒りであった。


 そんな当のお嬢様はクズルゴに抱えられたまま未だに起きた様子がない。

 考える時間が欲しいので叩き起こそうとはしないが、だとしても眠りが深過ぎやしないだろうか。

 火の熱気もある、音だって割と大きかったしなんなら運ぶ時に結構揺らした。

 それでも起きないとは・・・・わりかし図太い神経してやがる。


 尚、そのお嬢様は当然ながら安全の為に透明化させている。

 そして先ほどまでそれどころでなかったのでクズルゴはしっかりとお嬢様の姿を認識していない。

 実はこの男、ここまでやっておいてお嬢様の顔すらよく分かっていない。

 精々誘拐犯から掻っ攫った時に髪は長くて銀色であるのを見た程度なのだ。


 ・・・・元から知らなかったとしても救助対象の顔すら見ずに唯一分かる女性である事のみを判断材料に助け出し、その後も簡易的な安否確認すらまともにしなかったとか正気か?


 「・・・・あら? あらあら?」


 クズルゴが色々嫌になっていると、女性の声が聞こえてくる・・・・どうやら、ようやくお嬢様が起きたようだ。

 先程までは神経図太いなまだ眠ってるのかとか思っていたが、まだ良い説明方法が思いついてない今実際に起きられると物凄く困ってしまう。

 だからといって何も言わずに黙りこくるのはは論外、少なくとも味方である事ぐらいはアピールせねばなるまい。


 (まず最初に何を言うかが肝心だ。 不信感を与えずに、逆に安心感を与えるように・・・・)


 「ここは天国でしょうか?」


 (・・・・・ん?)


 クズルゴが声を出そうとした瞬間、お嬢様の口から突拍子のない言葉が流れて来て思わず口をつぐんでしまう。

 

 「自身の手が見えない、地に足つかない浮遊感、途切れていた意識、一変している景観・・・・ワタシは死んだのでしょうか? ここが死後消え去る魂の行き着く先という事なのですか?」


 (・・・・・)


 「・・・・いえ、火が轟轟と燃えている事から考えると天国ではなく地獄なのでしょうか? ですがワタシ、地獄に行く程の罪を犯している自覚はありません。 ならばここは景色が少々物騒なだけの天国と考えるのが妥当ですね。 去年死んでしまったペットのバックリちゃんはここにいるのでしょうか? あの子にはアナタが産んだバックリちゃんジュニアは健やかに育ち立派な蠱毒喰になったと伝えたいのですが」


 (・・・・・・・・)


 「あ、そもそも何故ワタシは死んだのでしょう? 護衛達の突然の裏切り・・・・とかでしょうか。 意外といい線行ってる気がしますね」


 (・・・・コイツの脳内、大分メルヘンだな。 結構誤魔化せる気がしてきたぞ)

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