オレと間
「色・・・・・え、好きな色ですか?」
「えぇ、好きな色です」
護衛に求める基本的なものは、魔法や身体能力で障害を排除出来る武力と、どんな状況でも対応出来る柔軟な思考力。
なので当然クズルゴは護衛選抜の質問も、それらを測る為の質疑が飛んでくると思っていたのだが・・・・お嬢様が聞いてきたのは色の好み。
(え、どういう事だ? 色・・・・護衛に色? 意図が読めん・・・・マジ分からん。 アレか? お嬢様はオレを採用するのに最初から肯定的だったし、なんて答えても採用できるような無難な質問をしたってことか? つまり贔屓? ・・・・・いやでも依怙贔屓にしちゃあからさま過ぎるし、そもそもただ他とは違うらしい特別な依頼書とやらを引っ提げてきただけの見知らぬ男を贔屓する理由がねぇ。 自分の身を、命を守るために護衛求めてる奴なら尚更だろう。 採用理由を疎かにはしない筈だ)
ちなみにこの思考はクズルゴは『色・・・・・え、好きな色ですか?』と聞いて、それに対しお嬢様が『えぇ、好きな色です』と答えている一連の合間に回されているものだ。
クズルゴは敢えて質問に驚き呆気に取られたような演技をし、いかにも自分の耳が信じられないからもう一度聞き返そうという顔でわざわざどのような質問だったか再度確認するように問うた。
これはお嬢様が色の質問をする前に『率直に、安直に、自分の心に正直に答えてください』と言っていたので直ぐに答えないといけないと思ったクズルゴが、(何だこの質問!? し、質問自体が余りにも突飛すぎてよく分からなかったという体で少しでも思考時間を稼ぐ!!)という考えからくる、せめてもの時間稼ぎだ。
お嬢様に言われた通りに正直に答えればいいのだが・・・・質問が簡単すぎて謎すぎて、どうしても何らかの裏があるのではと勘繰ってしまい『自分の答え』ではなく『相手が求めている答え』を考えてしまうのがクズルゴという人物なのである。
「・・・・・・好きな色は、赤と青と金色です」
尚、狡いやり方で思考時間を多少引き延ばすことに成功したが、結局質問の意図が分からずクズルゴは正直に答えるしかなかった。
この答えでOKなのか・・・・・小賢しく無駄に少し引き延ばされたクズルゴの答えを聞いたお嬢様がどのような返事をするのか、クズルゴは耳を傾けた。
「・・・・・・・・・・・・・3色もお答え頂き有難う御座います」
(ん?)
今、お嬢様の返答がヤケに遅かった。
結局意図が読めず絞り出すように回答したクズルゴよりも、だ。
時間にすると5秒程度・・・・色の好みを言った事に対するだけの簡単なレスポンスにしては緩慢すぎないだろうか。
しかもこのお嬢様はキャビン越しに美青年とクズルゴを選抜させるか否かの舌戦で高速で口を回す事が出来ていた・・・・・舌戦は論理を頭で組み立ててから発言するものだ、それがあんなにペラペラ喋れてたのに、何故ただ返事するだけなものにあんな間があった?
・・・・・それが分かったからといって何?、といった感じの疑問だがクズルゴは割と色んなものを怪しむ。
クロイという男は様々なものに対して直感的に違和感を感じ取った後に色々考えるタイプ・・・・つまり勘が鋭いタイプだが、対してクズルゴは勘がいいワケではないものの周囲を警戒して、不審な所があれば能動的に怪しんで疑問を持つタイプだ。
その危機に敏感な精神性がクズルゴを今日まで生かしてきた・・・・故に、クズルゴは今までの生き方に倣ってこの謎の5秒の間を訝しんだ。
「・・・・・合格です。 貴方もワタシの短い旅路に同行する護衛として、宜しくお願いします。 では、コチラの〔契約書〕を確認してサインをお願いします」
「あ、こちらこそ(結局合格なのかよ、じゃあさっきの5秒の間は本当に何だったんだよ。 合否判定を考える為にしばらく硬直してた、とかではない気がするぞ・・・・ん? 〔契約書〕? あ、それ使うの? 大体のクエストはギルドを通した普通の契約なのに、強制力がガッチガッチな〔契約書〕とはガチだね! さすがお偉いさんだ!!)」
護衛選抜に合格したので胸を撫で下ろしながらも、やはりクズルゴの心には痼りが残っているのだった。
ついでに最近ガルゴイゴなる魔人を騙す為に使った〔契約書〕(偽)の本物版がナチュラルに出てきて驚いた。
だからこそ、クズルゴはこの時気付かなかった。
自らに降りかかった疑問点を氷解させるべく思考を回し、予想外の品の登場に驚愕し、気付けなかった。
男20名と美青年・・・・・・彼らが、ヤケに険しい目でクズルゴを睨んでいる事に。
それは、一人だけ別枠の依頼書を持ってるから特別扱いされている・・・・・・事に対して、ではなく。
なんだか、もっと深く、暗い、別の事に対して向けたものであった。
ーーーーーーPast logーーーーーーー
【とある里の長の息子と、その許嫁の会話】
「ねぇ、シレイ」
「なんだ?」
「ワタシって、お喋りするのが好きみたいなのよ」
「だろうな」
「いつもいつも、なんだかんだ言っても最後はやっぱりアナタとくだらない事を駄弁っているわ」
「そうだな」
「でもよ? それってつまり、そのお喋りに付き合っているアナタもお喋り好きって事にならないかしら?」
「・・・・・・そうか?」
「きっとそうよ。 ワタシ達って結構似たもの同士ね!」
「・・・・なんか癪だから、今度からは別の奴とお喋りしてこいよ」
「なにゆえ!? 嫌よ! ワタシが好きなのはアナタとの、どうしようもなく意味もないそんなお話しで・・・・・・あら? もしかしてワタシが好きなのって、お喋りじゃなくて・・・・・・“アナタとの”お喋り?」
「そんな薄寒い事よく真顔で言えるな」
「寒いって何よ!! 反応悪いわね!! ワタシ達将来結ばれる事が契約で確約されているのよ!! 少しぐらい良い反応しなさいよ!」
「オマエの台詞、明らかに『ドキッとさせてやろう』という魂胆が見え透いるから、聞いてて痛々しいんだよ。 アレだろ? オレを骨抜きにして夫婦になった時の優位性を確立しようとしてんだろ? モロ分かり過ぎるのにそんな言葉吐かれるのはキチィ」
「・・・・・再三言うけど、アナタのその要らない事まで追加で言う癖なるべく直した方がいいわね。 些か攻撃的過ぎるわ」