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83:陰キャに会いに行けない

 <星架サイド>


 デートの明くる日の日曜日、アタシは自室で燃え尽きていた。ちなみに今日は久しぶりにパパに会える予定だったけど、急に仕事が入ったみたいで、ドタキャン。


 いつもだったら「なら沓澤製作所に行くべ」ってな感じだけど……今日は無理。あれ思い出しただけで、ベッドの上もんどり打って、汗だくになって。それで燃え尽きてるんだし。


「あん時はさあ、アレが正解だと思ったんよ」


 実際、冷静に考えられてるつもりだったし、その中で導き出した答えがアレ。

 けどやっぱ一晩経つとさ、思うワケ。欲張りすぎたよなあって。康生がせっかく勇気出して友達だって明言してくれたんだから、昨日はそこで満足しとけよって。


 表面上は思考してるつもりでも、もっと触れたいって感情に支配されてたんだろうな。だって大事にするとか言われたら。康生からしたら、友達を大事にするって意味なのは分かってんだけどさ。片想い中の女子に言ったら、そりゃ気持ち溢れ出すって。


 軽く溜め息をついて、康生ぬいを抱き締める。つか、前にこの子の頬にキスしたの、やっぱ本体と現実になったな。まあアタシがしたんだけどね。まごうことなく自分の意思で。


「ほっぺた、本物は柔らかかったな」


 ぬいのモフモフも良いけど、アタシはやっぱり……いつでもあのモチ肌の頬を触ったりチュッてしたり出来る関係になりたい。


 じゃあその為にはやっぱり「友達だけじゃ嫌だよ、女としても見てね」って意志表示は必要で。そうなると、昨日のアレも勇み足とは言い切れないのか? いや昨日は康生があっぷあっぷだったろうから、日を改めてアプローチの方が良かったでしょって話で。


「ああもう。堂々巡りになってる」


 間接キスとかは普通にしてんだからさ、ほっぺにチューもその延長みたいなモンだって開き直っちゃえば。あ、でもそれだと友達キスみたいか。


「難しいよ、もー」


 誰か正解を教えて。


 とか思った、その丁度のタイミングで携帯が鳴る。レインを開くと、パパからだった。


『1ページ分空いてるそうだから、ブッキングしておいた。午後から横中のスタジオで撮ってきなさい』


 いいって。やめてって言っておいたのに。


『ありがとう。でもいつも言ってるけど、そういうのはチョット』


 お礼と、もう一度の釘刺し。けど返事は大概わかってる。相容れない内容だろう。案の定、すぐに返ってきた文面は以下の通り。


『こちらも何度も言うけど、本気でやるなら、何でも利用するくらいの気持ちでいなさい』


 はあ、と大きな溜息が出る。正論すぎて何も言い返せない。芸能の世界は甘くない。アタシみたいなチョットだけ関わってるような人間ですら、周りを見てて普通に思う。ましてやパパみたいな、その道のエキスパートは、もっとえげつない部分も知ってるんだろう。


「本気でやるなら、か」


 多分、そこも見透かされてる。生まれつきの容姿と親のコネ。アタシ自身が努力したのはメイクやファッションのみ。でも、そんなんこの業界に居る人は誰でもやってること。努力して努力して芽が出なくて夢を諦めた人も星の数ほどいる。その人たちに比べてアタシは……


 何を利用してでも、誰を蹴落としてでも。そんな覚悟を持ってるか? 本気でやる気があるのか? パパはそう問いかけてるんだよね。


「中途半端」


 宮坂のこと言えないんよ、本来。


 アタシはつい、昨日もらったミニチュアを眺める。これ凄いんだよね。服の皺とかまでメッチャ自然で、ルーペ当てて見たりすると、本当に細かい所まで作り込んでるのが分かる。なんも予備知識ない状態で見ても分かるよね。これ作った人、モノ作りが大好きなんだろうなって。


 ケースを横にする。すると当然、アタシと康生の横顔が見える。真剣な表情で自転車を直す康生。ただそれを見てるアタシ。なんかアタシだけアホみたい。でもこれでも脚色だからね。本来はアタシこの時、スマホでムービー撮ってたし。それは流石に情緒が無かろうという配慮だと思うけど、それで事実改変してくれても、これだから。


「まんまアタシと康生だなあ」


 そういう意味では凄い再現度と言える。もちろん、康生はそんな嫌味を含んで作ったワケじゃないけど。全力で好きなことに取り組んで努力して、そうして得た技術を誰かの為に使える人。好きなこともハッキリせず、他人の努力の成果に感心するだけの人。


「はあ」


 もう一度溜息を吐く。


『行ってきます』


 パパにレインの返事をして、アタシは出かける準備を始めた。

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