77:陰キャと料理の話をした
<星架サイド>
アタシたちはゲーセンを出て、取り敢えずお昼にする。
しかし康生のあのクソゲーを見つけ出す嗅覚は異常やね。守備位置:近江とか出てたからな。二百円払ってトラウマを刺激されて……思い出したらジワジワくる。ようもあんな再現VTRみたいな状況になるよな。笑いの神に愛されすぎだろ。
毎度フードコートじゃ芸がないから、レストラン街を巡る。人出が少なめとは言え、流石に待ちナシの所はなさそうか。ちなみに今日のデート代は、二人で使う分は割り勘。それぞれの買い物はそれぞれで。という配分になってる。アタシが誘ったしアタシが出そうかと言ったけど、断られた。
逆に携帯扇風機の件を持ち出されて、お金あるんですかと心配されたくらい。アタシ自身、その設定忘れてたんよね。誤魔化すのに必死だった。まさかアンタにくっつきたいから金欠のフリしてたとは言えんし。それでも何となく、ちょっと察されてる雰囲気はあったけどね。まあ、あっちも「僕にくっつきたいから嘘ついたんですか?」とは聞けないだろうけど。
「なに食べましょっか?」
「ん、何でも良いよ」
あ、これデートで相手が一番困るヤツだ。慌てて康生を見ると、
「じゃあ僕、オムライスが食べたいです」
はい、可愛い。
「うん、いいよ。行こっか」
愛くるしさに、自然と康生の手を握ってた。流石に人目が多くて、腕組みは途中で止めちゃってたんだけどね。手くらいなら、そこまで恥ずかしくなんないっしょ。てか、誰もアタシらなんか大して注目してないけど。
「康生って子供の時、旗ついてるオムライス好きだった?」
「え? よく分かりましたね。キッズプレートのヤツをね? 旗倒さないように、周りから上手に食べていくんですよ」
とっておきの秘密を話す少年のようなキラキラした目。メッチャ頭撫でたい。
幸い、オムライス屋はそこそこ空いてて、並びゼロで入れた。時刻は13時前。正午あたりに入ったお客さんと入れ替わりになった感じだな、多分。
壁側がソファー、中央側が椅子のテーブル席に案内された。さりげなく康生が椅子に座ってアタシにソファーを譲ってくれる。何気にポイント高い。けど、
「ソファー並んで座ろ?」
頭とか撫でたいし。
「え? そんなんアリなんですか?」
「アリアリ。ほら、おいで」
隣をポンポンと叩くと、椅子からこっちに移動してくる。素直だなあ。
「わ! なんで頭撫でるんですか?」
ちょっとビックリして、体が硬直したけど、それでも大人しく撫でられてくれる康生。調子に乗って、そのままモチモチほっぺも撫でる。いや、ホントもち肌だわ。
康生はアタシの手は好きにさせとくみたいで、撫でられながら構わずメニューを開いた。
「あ、これ美味しそうですね。キノコとベーコンの……」
「もうちょっと足が速ければな」
「海老クリームソースにします」
「あはははは」
変わり身の早さに爆笑してしまう。しかし、アレを思い出してしまうから、キノコ全般、食べにくくなったよな。
「アタシは……そうだな。ハンバーグ乗ってるのにするか」
デートはまだまだ後半戦もあるし、スタミナつけとかんと。
タッチパネルで注文を送信。セルフの水を康生が二人分のグラスに入れて持ってきてくれた。優しみ。
さっきのクソゲーの話をしてるうちに、料理が運ばれてきた。康生のエビ一匹と、アタシのハンバーグ一口分を交換して、いざ実食。
「ん~、うまうま。卵がやっぱ出来ないよね。こんな上手く」
謎に倒置法で話しちゃった。
「あ、ていうか、康生なら料理上手だし出来んのか?」
「一応、近いものは」
「おお、すげえ。牛乳入れるんだっけ」
「そうですね。僕は牛乳ですけど、生クリーム入れる人も居るみたいです。ただ一番のコツは、無理にフライパンの上で成型せずに、一旦ラップの上によけるっていうやり方ですね」
お、おお。流石。すごい具体的な実践法が出てきた。
「今度、お昼に遊ぶ時、作りますよ」
「マジ!? やった」
来週には夏休みだし、入り浸りそうやな。材料費と手間賃はお渡ししないと。
「てか、アタシも何か作ったげるよ」
「え? 星架さん料理できたんですか?」
「いや、大したモンは作れんけどさ。なんか康生にお世話になりっぱなしだからさぁ」
言葉にしながら、自分で反省する。完全に作ってもらうことしか頭になかったもんな。よくないよ、これは。
「ちなみに……得意料理とかは?」
「お茶漬け?」
「ふっ」
鼻で笑われた!?
見とけよ、特訓してメッチャ上達してやるからな。