表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/225

68:ギャルがネタバレされてた

 漫研の部員は女の子ばかり(この三人と、あとは二年の先輩が一人で計四人らしい)で、こんなことを頼めるのは僕しか居なかったと。部室までの道中、切々と語られた。


 そして到着。案内されて中に入ると、独特な匂いがした。星架さんの部屋はひたすら良い匂いだったけど……なんと言うか、酸っぱい感じ。ちらし寿司を食べた後みたいな。


 そして汚い。部屋の真ん中に長机が二つくっつけて置いてあるんだけど、その上は物が散乱してて、読みかけのマンガも出しっぱなし。部屋を囲むように並ぶ本棚も、その中は整頓とは程遠く、ナンバリングが滅茶苦茶だ。褪色(たいしょく)して背表紙が白くなってる本もチラホラ見られる。


「どう? ウチの部室は?」


「い、良い感じだね。でもインクの匂いとかしないから、意外だった」


 まさか酢飯の匂いがするとは言えず、そんな感想を言った。


「テスト期間中は活動禁止で、勉強部屋になってたからねぇ」


 なるほど。


「それって、今日は活動して大丈夫なの?」


「あー、あはは。テストは終わったから……」


 乾いた笑いに、歯切れの悪い言葉尻。これ、本当はアカンね。


「ちょっと康生、大丈夫なん?」


 星架さんが小声で聞いてくる。


「まあ、あの子たちが怒られても、僕らは部外者だし、知らなかったで通るでしょ」


 いざという時、何かを切り捨てる強さも必要だよね。










 で。早速、男子トイレで着替えることに。渡された紙袋の中を確認すると、黒のタンクトップの他に、何故か、暗い黄色がかったカラーサングラス、金色のチェーンがついたネックレスが入ってた。輩スタイルを強いられてる? もう深く考えるのは止めて、ヤケクソで全部つけてやった。


「お、おお」


 部室に戻って女子四人に見せたところ、反応がそれだった。てかよくよく考えたら、ハーレム状態……だけどあんま嬉しくないんだよな。酢飯の匂いするし。


「……なんかワイルドじゃん。康生のクセに生意気だぞ」


 星架さんがペチペチと脇腹を叩いてくる。腹筋も触られて、思わず身をよじる。


「くすぐったいですよ」


 逃げるように背を丸めると、星架さんも諦めてくれた。


「二人、なんかメッチャ仲良いよね」


「もしかして?」


「いや、それは流石に」


 よく聞こえないけど、三人娘たちがヒソヒソと話してる。星架さんはどこか満足げ。なんかハーレムどころか針のむしろ感。さっさと終わらせて帰ろう。


「それで……僕はどこに立てば良いの?」


「えっとじゃあ、机どかすから、中央に」


 非力そうな女子三人が動こうとするけど、僕がさっさと持ち上げて、脇に寄せてしまう。物が乗ってたから少し重かったけど、僕一人で十分だった。

 振り返ると、全員こっちを凝視してた。慣れないサングラス越しだから、正確には分かんないけど、感心してるように見える。「なに?」と聞く前に、


「やっぱ筋肉だな」


 と星架さんが頷きながら言って、他の三人もつられて大きく頷いた。


「次は筋肉の収縮を撮るぞ。カメラ用意」


「イエスマム」


 漫研の二人が微妙にサムイやり取りをして、うち一人が部屋の壁際の棚からデジカメを取ってくる。野球部といい、カメラでロクでもないモン撮る部活ばっかりだな。


 渋々だけど準備を待ってあげてから、もう一つの机を持ち上げる。こっちのがチョット重い。と、反対側から星架さんも持ち上げてくれた。おお、楽だ。やっぱ優しいな、星架さんは。


 そんな僕らを余所に、近づいて撮影を続ける漫研部員B。進行方向に立たないで。


「おほほ~、上腕二頭筋」


 ちょっとは星架さんを見習おうか。そんなだから名前を思い出そうという気も起きないんだよなあ。まあ頑張ったところで思い出せそうにないけどさ。対面の星架さんも若干イラっとしたみたいで、眉をひそめてる。


 僕はグラサンを上げて、抑えるようにアイコンタクト。まあ宮坂みたいに悪気があるワケじゃないと思う。単純に興奮して周りが見えなくなってるだけというか。


 何はともあれ、部屋の中央が空いたので、僕はそこで彫像のように棒立ちした。


「これで良いの?」


「うん。ありがとう。ポーズとかも取って貰えると、なお良い」


 横倉さんの注文。ポーズって言ったって。


「そもそも何を描く気なの? 筋肉キャラ?」


 ある程度キャラクター性を示してもらわないと。


「あ、そっか、言ってなかったね。いま私たち、おいこめっ! どうかつの森っていうゲームに出てくる、ストーリーモードの中ボス、超武闘派構成員の浮田さんの同人を描いてるんだよ」


 あー、なるほど。確かにこんな格好だったな、浮田さん……って、あ!


 僕は慌てて星架さんを見る。信じられないレベルの不意打ちでネタバレを食らった彼女は……口が半開き。左の眉が下がって悲し気で、右の眉が少し吊り上がって怒気が滲んでる。すごい。阿修羅像みたいになってる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 恫喝の森って以外と人気ゲーなん?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ