61:陰キャが気配り上手だった
<星架サイド>
食後、康生がお弁当の包みとは別に持っていた巾着を開け、ラッピング袋を二つ取り出した。袋の中身はクッキーだった。
「これ、焼いてきたんです。星架さんも洞口さんもお見舞いありがとうございました」
それぞれ渡してくれる。アタシのは星型だ。千佳の方は、クマさんの顔。くっ、あっちの方が手間かかってそうに思える。しかし千佳がクマ好きなのよく知ってたな。
「お、おう。ウチにもくれるんか。手ぶらで行ってしまったにも関わらず」
康生は少し笑って、
「来てくれただけで嬉しかったですから」
と千佳の遠慮を和らげた。
「あんがと。しかしウチがクマ好きってよく分かったね?」
「携帯にステッカー貼ってましたし、カバンにも小さなぬいぐるみが……あ、もしかして気持ち悪かったですか?」
「いやいや、全然。よく見てるんだなって」
アタシがライチ飲料好きなのも察してたし、意外と相手をよく見てたりするんだよな、康生って。まあ気を回し過ぎてアタシが本音では武将好きなのかと勘違いしてた件もあるけど。
「星架さんもありがとうございました。あと、その、変なレイン送っちゃって、ごめんなさい」
「変なレイン?」
あったか、そんなん。
「ほら、寂しいとか、なんか子供みたいな」
「ああ、全然変じゃないよ。病気の時に心細くなるのなんて当たり前の事なんだから」
てかメッチャ可愛かったし。
「経験者は語るってヤツだなあ。てかクッツーさ、あの夢より変なもんはねえよ? 謝るなら絶対あっちだと思うけど」
「え!? なんでですか? アレ、完成したら売る前にコンクールに出しますよ?」
「寝言は寝て言えよ!? つーかマジで寝てる時のアイデアだろ!」
千佳が激しくツッコむけど、康生には微塵も響いてない様子。
「いや、意外と夢ってバカに出来ないもんですよ? 起きてる時の記憶の整理とも言われてますからね」
「全く整理されてないから言ってんだよなあ」
すげえ。あの千佳が押されてる。確かに揺るぎない意志みたいなのを感じるもんな。コンクールに出そうと思ってる、じゃなくて出すって確定で言ってたし。
「アンタは良いんか? 仮にも自分をモチーフにした天使だろ?」
確かにアタシが微妙に肖像権を有してるっぽいから、ゴネたら康生は取り下げるかも知れない。でも。
「康生の夢だから」
「だから夢違いだろって。アンタまで毒されてんじゃんか」
「星架さん……ありがとうございます」
「決定しちゃったよ。審査員の人たちゴメン。ウチじゃ力及ばんかったわ」
こんな感じで三人のお昼は、すごく楽しかった。また一緒に食べたいけど、中庭は暑さ的にもう今で限界だ。教室で一緒できれば良いけど、大所帯になるからなあ。康生が勇気出してくれたって言っても、ギャルグループに男一人混ぜるのはハードル高すぎやんね。普通の男子でもキツイだろうし。
ちなみに康生がくれたクッキーは普通に美味しかった。ホットケーキも上手だったし、お菓子作りもバッチリか。ホント「作る」ってことに関しては妥協を知らんな。
午後の授業が始まる15分前。アタシと千佳は女子トイレで軽く作戦会議。「アタシら、ちょっと」と濁した言い方だったけど、康生はそれだけで察して、一人で先に戻ってくれた。お姉さんが居るだけあって、女子は色々準備があるって学んでるんだろな。
「クッツー、やっぱ計れんとこがあるよな。まさかウチにまでお礼をくれるとは」
「良い子だろ?」
「それは間違いない。けど……そこに甘えすぎたら破綻するよな」
「うん、それは分かってる」
色んなことをしてくれて、こっちがしたことにも凄く感謝してくれる。不手際も許してくれる。
でも千佳の言う通り。心地良いから貰うことばっかり、ってなったら、いつか康生に限界が来る。そうなる前に……何か、もっと返せるものはないかな。
「しかしあの星架が男のことで顔赤くしたり青くしたりする日が来ようとはなぁ」
千佳がしみじみ言ってくる。他人事だと思ってからに。まあでも、反対の立場だったら同じこと思ったか。恋、すげえよな。人間変えちまうもんなぁ。
と、そこで予鈴が鳴り、会議未満の駄弁りは終了となった。