60:ギャルが東大みたいだった
「自分から、学校では絡まないで欲しいとか言っときながら、覆してすいません」
「う、ううん。全然良いよ」
三人、中庭のベンチに腰掛ける。ウチの学校の中庭は中央に池があって、そこを低木が囲うようにして美観を演出してる。春先は花も咲いたりして確かに悪くなかったけど、今は池から少し匂いがするし、もう少しするとボウフラ&蚊の群棲地になってしまういそうな気配。
「結構よくここで食べてるんでしたよね?」
いつだったか雑談の中で星架さんが言ってた。彼女たちは教室で食べる時は園田さんや他のギャルも含んだ大所帯だけど、星架さんと洞口さんだけで食べる時は、こっちを使ってるらしい。やっぱりこの二人はグループの中でも特に仲良し同士なんだろうな。
「そう、だけど……もうそろそろ無理やんね。暑すぎるし」
間違いない。そろそろ梅雨明けだろうけど、明けたら明けたで、容赦ない太陽光が降り注ぎそう。
「しかしクッツー、どういう心境の変化なん? 人目につかんとは言え、自分から誘ってくるなんて」
いきなりズバッと聞いてくる洞口さん。
「何と言うか、朝、クラスの人たちが僕に話しかけてくれたんですよ」
「うん、知ってる。見てたし」
「それで……ちょっと僕も悪く考えすぎてたのかなって」
彼らからは「溝口、男子には完全にライン引くタイプなのに、気に入られてんのすげえな」くらいのことしか言われなかった。特に裏があるような雰囲気もなく、純粋に額面通りな感じで。
「あー。もっと僕らの星架たんをよくも~、みたいになると思ってたんか?」
洞口さんが半笑いで核心を突いてくる。僕は小さく頷いた。
「僕にそんなつもりがなくても、周囲はやっかんだりするモンなのかなって」
「まあ四月だったら、そうだったかもな。みんな星架見て、すげえ美人だなって色めき立ってたし。けどまあ三ヶ月近く経って、一向に脈ナシじゃあ、ワンチャン狙ってた奴等も他でカノジョ作り始めるんよ」
「そんな……何かそれって、本当に気持ちがあったワケじゃなくて」
「そ。まあ皆そんなもんよ。別に星架じゃなくちゃダメって奴なんてそうそう居ない。というか脈もない相手に傷ついてでも追い縋るような根性あるヤツの方が珍しいし」
そんなもん。そっか。
「所詮、アタシの外見だけに惹かれてくる連中は皆そんなもん。一応は高い志望校出してみて、E判定だから第二志望、第三志望へ。第一志望は偏差値高くて箔がつくから狙ってみただけで、そこでしか学べない事があって志望するって人は少数も少数」
あ、メッチャ納得できる説明だ。まあそりゃそうか。本人は何人もそんな人たち見てきてるんだろうし、分析も済んでるか。
それに誰だって、今の生活がある。その落ちた(諦めた)志望校のことをいつまでも考えてる人なんてよっぽど執念深いか暇か。
「まあそもそも願書どころか、志望欄に書く気すらない人も居ただろうしね」
確かに。世の中いろんな人が居る。美人だからって無条件で狙ってみようとする人ばっかりじゃない。それこそ中学から付き合ってるカノジョがいる人、二次元にしか興味ない人、野球部、本当に様々だ。
というか、僕なんか誰かに願書出せるレベルですらないんだけどね。まずは友達から作れるようにならなきゃいけないのに、カノジョなんて遙か先のことだ。
「宮坂ももう諦めたっぽいしな。隣のクラスの女子と仲良くなってるらしい」
「菌類の?」
「人類の」
そっか人類か。何だかなあ。例のキノコ氏、クラスに何となく居づらいらしくて、休み時間の度に他のクラスの友達に会いに行ってるみたいだったけど、もうそこで新しい狙い目を見つけたってことか。
現実はそんなもん、か。性格が多少アレだろうが、外見に気を遣ってて、積極的に女子に話しかけられるヤツがモテる。
「だからもう別に何も遠慮せんで話しかけてくれて良いんだよ?」
「は、はい。そうですね。何か用事がある時はレインじゃなくて、今度からは直接言うようにします」
いきなり登下校の時と同じように気安くじゃなく、徐々にポツポツ話す回数を増やしていけば、よりクラス内の混乱も少ないと思われる。
僕も変わらないといけない時期、なんだと思う。そう思わせてくれた人と……胸を張って友達になりたいから。