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ギャルの自転車を直したら懐かれた【8月25日・第1巻発売予定】  作者: 生姜寧也


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50/225

50:ギャルが天使だった

 創作への熱意で体が火照っているのだとばかり思ってたけど、お風呂に入って少し経ってもクラクラするもんだから、試しに体温を測ってみたら38度を超えていた。やっぱ帰ってすぐにお風呂に入って暖かくしておくべきだったか。


 なんて冷静に振り返りつつも、体はダルくて仕方ない。かかりつけ医も午後の診療時間が終わってる時間だったから、明日朝イチで父さんが車を出してくれる事になった。母さんも姉さんも眉を曇らせていた。風邪くらいで大袈裟とも思うけど、やっぱ家族の温かさは沁みる。


 ベッドに横になると、枕元のスマホがチカチカ光ってるのに気付いた。ああ、そうだ。星架さんが明日の朝、待ちぼうけにならないように、レインをしておかないと。先に来ていたメッセージに目を通す。自転車を預かった事に対する改めてのお礼の言葉だった。相変わらず律義だ。


 ボーッとする頭で返信を書こうと思ったけど、辛いので流れを無視して伝えるべきことだけ打った。


『明日は病院に行くので、朝は一緒に登校できないです。先に行ってて下さい。ごめんなさい』


 それだけ送ると、いよいよ意識が遠のいて、僕は瞼を閉じた。するとすぐに全てが真っ暗になった。









 夢を見ていた。


 天界から光のスロープが、この沢見川に降りてきて、そこを爆走する自転車が一台。その自転車には銀色の髪をなびかせる美しい天使が乗っていた。やからの如くイキってて、盛んにベルを鳴らしている。そのまま蛇行し、光のスロープの端に生えているキノコを勢いよく轢き殺した。


「オラ! 4失点が!」


 天使は徐行しながら沢見川に降臨する。ピョンと自転車を降りると、その後ろにも誰か乗っているのが見えた。ニケツだったみたい。その後ろの人も自転車を降りた。


「康生くん。いつも精が出るね」


 織田信長だった。ペラペラなのは肖像画そのままだからかな。立体感がまるでない。


 天使と信長は連れ立ってウチの工場に入ってくる。僕は慌てて二人にライチジュースを出した。


「かたじけない。ああ、これは美味いな。今度、利休に淹れさせよう」


「うまうま」


 二人とも気に入ってくれたみたい。


「もしかして二人は僕を迎えに来たんですか?」


 なら僕は天に召されてしまうのか。


「人間50年。キミはよく生きた」


 信長さんがそんな風に労ってくれる。


「いや。僕はまだ16年しか生きてないです」


「四捨五入したら50ですよ」


 銀髪の天使がニッコリ笑った。絶対違うと思う……けど、その笑顔で言われると、本当のようにも思えてくる。


「あの、もしかしたらアナタは……」


 僕がよく知ってる人なんじゃないか。彼女の名前を出そうとしたけど、なんでか言えなかった。


「ワタクシですか? ワタクシは車輪天使・チャリエル。バキバキにヴァージンですよ」


「康生くん、そろそろ行こうか。本能寺が燃えているよ?」


「……」


「どうせ教室では一人ぼっち。友達と呼べるような相手も居ない。下天はつまらないだろう?」


 僕は首を横に振った。


「友達、また出来そうなんです。ちょっと直情径行で困らされることもあるんですけど、誰かの為に怒ったりもできる優しい人で。確かに教室では話せないですけど、こんな殻にこもってる陰キャの僕を毎朝迎えに来てくれるんです。その行動力に救われてて……」


 言葉がまとまらない。感情だけが先走ってる。でも結論だけは決まりきっていた。


「とにかく、僕は二人とは行けません。下天で頑張ります」


 僕はハッキリと言った。二人は少しだけ寂しそうな顔をして、だけど最後には微笑みながら頷いてくれた。


「気が変わったら、いつでも呼んで下さい。時給1200円で、このスターブリッジ号に乗せてあげますよ」


「それではね、康生くん。一揆には気を付けて。一番狙われやすいのはキミの家のような小金持ちだから」


 それだけ言って二人はスターブリッジ号に乗り込む。信長さんが荷台に乗ると、チャリエル様が立ち漕ぎを始めて、ゆっくりと天界へのスロープを戻っていく。帰りは登りになるから辛そうだった。









 そこでハッと僕は目を覚ます。とても冒涜的な夢を見ていた。


 枕元のスマホがチカチカと光ってる。画面をスワイプすると、レインが3件ほど来ていた。全部星架さんからで、全部僕の体調を気遣う文面だった。家族の皆の心配げな顔を見た時と同じ、心が温かくなる。


『ただの風邪です。心配してくれてありがとうございます』


 夜中の2時過ぎだったから迷ったけど、やっぱり返しておきたくて、そう送った。もう一眠りしよう。毛布を被り直そうとした時、ピコンとメッセージが返って来た。まさか。


『良かった。ヤバい病気とかじゃなくて。雨に降られたからだよね。ごめんね。ゆっくり休んで。返信は不要です』


 こんな時間まで僕を心配して……星架さん……良い人だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 下天も天界ですよ。まぁ康生くんが、そう勘違いしているという事かな?
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