46:ギャルを姉と二人きりにした
「食べてくれば良かったのに。ていうか午後も1コマあるって……」
「それが急に休講になったんだよ。んで、愛しのコウちゃんの手料理が食べたいなあって」
調子の良いこと言ってるけど、金欠なだけだ。よく知らないVの配信に貢いでるからなぁ。
「今はダメだよ。お客さん来てるんだから。お小遣いあげるから外で食べてきて」
「うわぁ。4つも年下の弟に施しを受ける姉!」
「それ言ったら作ってもらう時点で、そうじゃん」
「ぐう」
ぐうの音が出た。なんだ、流行ってんのかな。
姉さんには少し可哀想だけど、流石に星架さんを部屋に置いてきぼりにして料理ってのも……
「アタシは別に全然お構い無くだよ? この変なゲームやってるし」
「え?」
「マジ? 星架さん話わかる~。割りの良いシノギ教えたげるよ。みかじめ料アップのコツも」
「おお! やった。あざーっす」
もう打ち解け始めてる!? す、すごい。これが陽キャ同士。僕が星架さんだったら、初顔合わせの時に謎警戒された友達の姉とか、絶対二人きりになりたくないけどな。
まあ根本的に精神構造が違うんだろね。僕みたいに後ろ向きじゃないって言うか。何か知らんけど警戒解けたんだから良いじゃん、くらいの考え方なんだろう。煽りとかじゃなく、純粋に羨ましい。
「んじゃ、康生よろしく。あ、星架さん、そこは長ドスの方が良いよ」
こうして僕は自分の部屋を追い出され、飯炊き奴隷となった。
<星架サイド>
しばらくクソゲーの攻略を伝授してもらってたけど、何となく、少しずつお互い口数が減ってきて、ついにはゲームをやめてしまった。他に話したいことがある。お姉さん(名前は春さんと言うらしい)はそんな感じだった。
「しつこくてゴメンなんだけどさ、マジで康生とは友達なの?」
「う、うん。アタシはそう思ってます」
敬語は無しで良いよと言われたけど、何か半々な言葉遣いになってしまう距離感。
「そっか……良かった。しかし何繋がりなの?」
「えっと、アタシ、昔康生にフィギュア作ってもらって……」
アタシは事情をあらかた話す。すると、春さんは、
「へえ、凄い偶然もあるもんだね」
と感嘆の声を出した。半分以上アタシの執念ですとは言い出せない雰囲気だ。
「そういうことなら、少しは安心かな」
「康生の友達として合格ってこと?」
「いや流石にそんな偉そうなことは言わないけど……それは最終的には康生が決めることだしね」
春さんは目を閉じる。一階で料理中の弟の顔を思い浮かべてるのかも知れない。
「アタシは、そう言えば康生から友達認定されてんのかな?」
思い返してみても、お姉さんに紹介された時もクラスメイト、としか。あれ? まだ友達と思われてない? ま、まあ、この人は自分の友達ですってわざわざ言わないだけか。そ、そういうことだよね。
「多分、あの子も内心では星架さんのこと友達だとは思ってるハズだけど、公然とそう認めるのは、あの子にとって凄く重たいことなんだ」
「えっと……」
「悪いけど、気長に待ってあげてくれない? お願い」
頭を下げられてしまう。康生には少し横柄な感じだったけど、本当はメチャクチャ弟想いの人なんだな。まあ可愛いもんね、康生。
「全然、気にしてないっす。今でも沢山のことしてくれるし、一緒に居て楽しいし、幸せだし。うん、大丈夫」
きっと事情があるんだろな、とも分かるし。それは多分、土曜日に警戒されたのとも少なからず関係があると推測できる。
うん、待とう。康生が本当に心を開いてくれるまで。恋人どころか、友達までの道のりも平坦じゃないなあ、と少し凹む気持ちもあるけど。
と、そこで、春さんがアタシの顔をガン見してるのに気付く。
「幸せって、星架さん……ひょっとして友達以上の感情だったりする?」
「え!? あ、いや、それは」
どう誤魔化そうか考えてると、ドアがコンコンとノックされて、飛び上がるほど驚いた。いつの間にか康生が部屋の前まで戻ってきてたらしい。
「姉さん、出来たよ。下行って食べてきて。洗い物はしてよ?」
ドアを開けながら、康生が面倒くさそうに言う。良かった。何か聞かれた雰囲気はない。「は~い」と答えた春さんが立ち上がる。入れ違いで康生が部屋に入ってきた。何故か皿を持ってる。
「はい、星架さん。ホットケーキ」
アタシの前に置かれた皿。その上には真ん丸なパン生地が二段重ね。溶けたバターの上にバニラアイス、更に上からチョコレートソースがかかってる。クッソ美味そうなんだが。
「い、いいの!?」
「はい」
「康生~、お姉ちゃんも~」
「ご飯の後でね」
そんなやり取りを余所に、いただきますをして、一口。甘い、美味い、ヤバい。て言うか、おやつまで用意してくれる優しさよ。うん、やっぱ幸せ。