45:陰キャとゲームで遊んだ
<星架サイド>
「あのさ、ひょっとしてアタシもう帰った方が良い?」
「なんでですか?」
「銀水晶の森で最終決定だし、早速製作に取り掛かりたいのかなって」
「まあお急ぎならアレですけど……まだ暑いですよ、外」
康生が窓の方を見る。
「もう少し遊んでからで良いんじゃないですか?」
うう、良かった。自分で提案しときながら、実際は引き留めてくれるの期待してた。これ、嫌われてはないって解釈で良いよね?
「ちょうど星架さんにオススメのクソゲーがあるんですよ」
嫌われてはないって解釈で良いんだよね?
「ほら、これです」
康生が木棚の別の段からゲームソフトを引っ張り出してくる。タイトルを見ると「おいこめっ! どうかつの森」とある。もう既にライン越えてる感あるな。
やるとは一言も言ってないうちに、康生はさっさと据え置きのゲーム機「無頼ステーション4」にディスクを入れて起動してしまう。
「あぁ」
始まってしまった。当たり前のようにコントローラーを渡される。
キャラメイクこそ可愛い感じのを選べたけど、小指の第一関節から先がオンオフできる時点で吐きそう。
「ちなみにこのゲームってどういう系なん?」
「まず主人公が自分のシマを貰うんですけど、それを発展させていくって感じの、ほのぼのとしたスロ……アウトローライフ系ですね」
何なんだ、アウトローライフって。シマって、そっちのシマか。
「さ、始まりますよ? 撃ち殺して」
「撃ち殺して!?」
○ボタンの指示に従って押すと、主人公が発砲した。あぁ、アタシに似せた顔で可愛く作ったのに、情緒面が乖離しとる。
「なんで、誰を撃ったの?」
「ファミリーの金を持ち逃げしようとした泥棒ダヌキですね。まあ当然の報いかと」
こ、康生が怖い。大人しい彼にこんな暴力衝動が眠っていようとは。
その後も目を覆いたくなるような蛮行が散見された。シマに新たにやってきた住人が店を開けば、用心棒代を要求し、カジノではイカサマの腕を磨き、酒場のツケは7桁にのぼる。
「人倫さえ度外視したら、結構楽しいでしょ?」
「……嫌いじゃないのが腹立つわ」
まあ、何だかんだ進めとるしな。言い訳は出来ねえ。
「シノギ図鑑もだいぶ埋まってきましたし、もう少ししたらCPUと対戦してみましょうか?」
「対戦とか出来んのか……つーか抗争だろ」
「威力を行使して競い合うんです。勝ったら何らかの利権が貰えますよ」
威力とか言うな。利権とか言うな。まあけど折角だし対戦できるレベルにまではするか。なんて思った時だった。
一階からバタンと大きな音がした。続いてバタバタと廊下を歩く足音。
「お父さんかお母さん?」
昼休みに家に戻ってごはん食べようと思ったのかな。ご挨拶、礼儀正しくいかんと。
「う~ん? 今日は近くの小料理屋で食べてくるって言ってたハズなんですけどね。二人の幼馴染みがやってる店」
へえ、素敵やね。地の人ならではというか。
「ただいま~。康生~?」
若い女性の声だ。っていうか、聞いたことある声。
「あぁ、姉さんですね」
やっぱり。体育祭の後に会った時、ちょっと警戒されてた感じだったけど……
やがてトントントンと階段を上がる音がして、部屋の前で止まった。
「入るよ~?」
「うん」
ガチャリとノブが回って、半開きのドアから少し目元の鋭い女性の顔が覗く。改めて見ると、康生がスズメだとすると、お姉さんは猛禽に似てるかも。
「あ、どうも。お邪魔してます」
「ああ、あの時の。星架さんだっけ?」
何故か名前呼びになってる?
「僕が何度かあの後、星架さんのこと話したんですよ」
ああ、それで。康生の名前呼びにつられてって感じか。てか苗字忘れられてる可能性まであるな。
「いや、女物のサンダルあったから、もしかしてって思ったんだけど、マジかあ。ガチで仲良いんだ?」
まあ今は友達の立場に甘んじてるけど、そのうち義妹になるかも知れませんよ、とかイキった事は言えない。
「何回も言ってるのになんで信じないかなあ」
「いやだってさ、タイプ違いすぎんじゃん?」
「分かるけどさぁ。見た目じゃないんだよ。星架さんは僕の武将シリーズをメッチャ面白いって気に入ってくれてるんだから」
は!? なんでそんな話に? 記憶を探ってみると……あー、体育祭ん時にキノコ相手にそんな啖呵切ってたかも。あんな流れの中の一言を……もう言葉狩りの域なんよ。
「ふ~ん、ガチで良い子なんだ。良かったね、康生」
少し恥ずかしそうに笑って頷く康生。可愛すぎて、お姉さんが頭撫でてる。いいなあ、アタシも撫でたい。
「取り敢えず、お姉ちゃん腹へったから、何か作って?」
えぇ……この流れで?