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44:陰キャの手料理を食べた

 <星架サイド>



 あっという間に、肉野菜炒め、目玉焼き、即席スープ、イカと里芋の煮っ転がし(これは昨夜の残り物らしい)を用意してくれた康生。早炊きの炊飯器が出来上がりの電子音を鳴らし、いざ実食。


 ピーマンをどけて、肉とキャベツを味噌ダレに絡めて、パクリ。うまうま。体育祭の時のおかず交換で実力の程は分かってたけど……って何か偉そうだなアタシ。座って待ってただけなのに。せめて感想と感謝は伝えないと。


「康生、これメッチャうまいよ。ありがと」


「……それは良かったです。ピーマンも美味しいですよ?」


「……」


「嫌いなんですか?」


 無言で頷く。あの苦味がダメなんだよな。


「あん時、お弁当に入ってたから、てっきり」


「あー、ママがね。好き嫌いは許さんってタイプだから」


「なるほど」


「ひょっとして康生もそういうタイプ?」


 だとしたら、対策を考えないと。い、一緒に住むことになったら、こういう価値観のスレ違いから関係が冷えるとか聞くし。


「いえ、僕も苦手な物ありますから」


「あ、そうなん?」


 良かった。なかーま。


「唐辛子は基本的にイヤですね」


「おお、そうなんか。アタシは辛い物大丈夫だなあ」


「辛いラーメンとか人気ですよね」


「ああ、あっこまで辛いのはアタシも無理」


 こんな感じで、お互いの食に関する情報を交わし合う。いいな、こういうの。同棲間近って感じで。いやまあ、告白すらまだなんだけどね。今、告ったら、何パーくらいなんだろ。


「ピーマン、こっちの皿に移して下さい。勿体ないですから」


 微笑みながらそんな事を言われる。アタシは身構えてしまうけど、康生は自然体だ。うそ、間接キス、たった一回で慣れられた感じ? うう、10パーもなかったりして。


「……はい」


 まとめて康生の皿に乗せる。替わりに肉が2切れアタシの皿に。


「あ、いいよ、いいよ。勝手にアタシが好き嫌いしてるんだから」


「まあまあ。それとも、その、僕の箸で掴んだのがアレでしたか?」


 途端に不安げになる康生。胸の奥がキュッとなる。


「ぜ、全然! 康生の箸だったらイヤとか有り得ないから!」


 むしろ間接じゃなくて、直接をされたってアタシは……いや、流石にもうちょっとムードは欲しいけど。今だとファーストキスは味噌ダレ味になるし。


 アタシは不安そうな康生をもうそれ以上見てらんなくて、もらった肉をパクパクと食べてしまった。あ、やってもた。もっと味わって食べるんだった。









 食後。


「んじゃ、僕の部屋行きましょうか」


 ドクンと心臓が跳ねる。いやいや、落ち着け思春期。


「やっと快気祝いの原案ができたんですよ。完全シークレットで作るのも考えたんですけど、全く趣味に合わない物になっても、それはそれで悲劇なので」


 確かに。合戦風景とか作られても、だいぶアレだし。


 というワケで、少し緊張しながらも、康生の部屋にお邪魔させてもらうことに。


「お、おお。若干広い?」


 アタシの部屋よりは確実に広い。


「8畳ありますから」


 康生がカーペットの上に2つクッションを置きながら答えてくれる。部屋の中央にかなり大きな机があって、その上にはボロボロの工作マットが敷かれていた。刃が何度も入ったんだろうな。努力と情熱の跡って感じか。


 康生はそのマットをクルクル手際よく丸めて、部屋の脇に置くと、木製棚からファイルを引っ張り出してきた。中から一枚、図を書いた紙を引き抜き、こっちに渡してくれる。


「これ!」


 立体的に描かれた細長い水晶が何本も地面から天へ伸びている絵だ。所々、群生する珊瑚のように小さな数本の塊もある。


「銀水晶の森」


 康生が呟く。あっと記憶に引っ掛かる物があった。マジクルのとある場面、敵の四天王の一人が逃げ込んだのが、銀水晶の森。そこで決戦かと思ったけど、更に奥に抜けた山の中で倒したってエピソードがあった。


「なんか朧気だけど、銀水晶の森、見てみたかったな、的なこと言ってた気がするんですけど……合ってました?」


 言ったわ、確かに。当時は作画カロリーとか知らんかったからな。それにしても、康生から8年前のこと聞けるとは。


「覚えてて、っていうか思い出してくれたんだ?」


「よく、銀が好きだ、銀が良い、二位じゃダメなんですか? って言ってるから、それで思い出したんですよ」


「そっか。嬉しいな。一部発言が捏造されてるけど」


「じゃあ、このコンセプトで良いですかね?」


「うん!」


 そっか、アタシが好きな色から思い出して、アタシの為に形にしようと頑張ってくれてるんだ。嬉しい。マジ嬉しい。やっぱ良いな、この人。絶対長く付き合えるタイプだよ。

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