43:ギャルを後ろに乗っけた
振替休日。
月曜日だというのに、ゆっくり起きて朝食。一回、七時半くらいに起きて「寝坊した!」って変な汗かいて、すぐに振替休日の件を思い出して二度寝したせいだった。
今日は何しようかな。昨日は星架さんも用事があったらしく、ただただ平和で退屈な休日になった。地味に筋肉痛にもなってたし、家に籠りきりだった。そのおかげで、あまり手をつけられてなかった(例の快気祝いの)自由創作の立案に充てられたのは良かったけど。
方向性は決まったけど、まだビジョンが完璧じゃないんだよね。てか資料が欲しい。ネットで良いの拾えたら助かるんだけどな。最悪、図書館か。まあ、何にせよ今日も引き続き自由創作を進める方針で。
と思った所で、来客を告げるチャイム。何かデジャヴ。姉さんは大学、父さん母さんは仕事。僕が出るしかない。というわけで一階まで来たけど、モニターに映ってたのは……やっぱり彼女だった。
今日も徒歩でやって来たという星架さん。自転車問題をどうにかしましょう、という僕の提案に反対は無かった。なにせ汗だくだ。夏を前に移動手段を失うのは厳しいよな。まあ自転車なら焼かれないって話でもないけどさ。
「康生はどういう店で買ったん?」
「普通に街の自転車屋さんですね。何だかんだアフターサービスもしてくれますし」
「そっかあ、やっぱそういう所の方が良いんか」
ということで、僕が自転車を購入した店に行ってみることに。まあ今日は下見だけでも良いし。
僕の家の裏手、自転車置き場から自分の物を引っ張り出してくる。ホムセンとか行くときは乗ってるけど、通学には使ってないせいで、少し埃かぶってた。リアキャリアをつけっぱなしにしてるので、そこに座布団を乗せて括りつけた。
「んじゃ、行きましょうか。乗って下さい」
「え!?」
「あ、そっか。急でしたね。時々、姉を運ばされてるんで、つい自然と」
「ああ、お姉さん。あれから何か言ってた? アタシのこと」
僕がサドルに跨ると、肩に手が置かれ、フワリと甘い香水の香り。続いて荷台にズシッとした重みを感じる。乗れたみたいだ。
「いえ、姉の方は特には」
漕ぎ出す。姉さんより軽いな。
「ってことは、あのメグルって従兄弟くんは……」
「えっと……まあ、少し。でも大丈夫です、星架さんは良い人だって訴え続けて何とか納得してもらえましたから」
と言うか、流石にメグルと星架さんが会うことはもうないだろうけどね。そもそも僕自身もそんなに彼と頻繁に交流を持ってるワケではないし。世間一般の親戚同士くらいの仲だと思う。なのにあんなに気に掛けてくれてるのは……
そこで急に星架さんの腕が僕のお腹の辺りに回される。横座りしてるから、片腕だけ。
「ど、どうしたんですか? 平坦な道だから大丈夫ですよ?」
返事がない。まあ、安全を期すのは悪い事じゃないんだけど、細い腕の感触でドギマギしてしまう。ただしつこく離せと言うのも、嫌がってるみたいで感じ悪いかなと思って、結局そのままにして漕ぎ続けた。
沢見川駅の少し東側、小さな自転車屋に着いた。やはり月曜ということもあって、店内に客は誰も居なかった。
店員さんが営業スマイルで用向きを聞いてくる。自転車の買い替えを検討してると言ったら、すぐに展示の幾つかを紹介された。
今日は下見だけで大丈夫ですよ、とは来るまでに何度か言っておいたんだけど、星架さんは即決してしまった。一つシルバーの車体が中々にカッコいいヤツがあって、それに惹かれたそうな。
「お金、大丈夫ですか?」
「あ、うん。電子マネーあるし」
そう言ってスマホを軽く掲げて見せる。
プイプイ! とクソデカ決済音が鳴り、無事購入完了。防犯登録だけやってもらって店を出た。
「おお、日の下で見るとマジ銀色じゃん。カッケエ」
選び方が男の子だよなあ。
「しかし良かったんですか? 即決で」
「そりゃ、康生と、デ、見に来て銀のチャリみっけたら買えってことっしょ」
「親御さんに怒られたりは?」
「ないない。自分で稼いでるお金は好きに使って良いって言われてるし。つか後でママに請求するし。あのチャリもう寿命だなってママとも話してたしね」
それならまあ良いのかな。
「あー、でも帰りは康生の後ろ乗れないな。惜しいことしたかも」
「え?」
「あ、いや、その、ほら! 楽で良かったのになあって意味で!」
ああ、そういう意味ね。
「取り敢えず本格的に暑くなる前に帰りましょうか」
太陽が中天に昇る前に、涼しい屋内に避難しなくては。星架さんも異論は無いようで、真新しい自転車に跨がった。