42:陰キャの親族に警戒された
<星架サイド>
「あ、あの溝口さんはコウちゃんとはどういう関係なんですか?」
いきなり先制攻撃!? 男の娘、じゃなかった男の子は真剣な顔でアタシの顔を穴が開くほどに観察してくる。
「ど、どういう関係ったって」
「もしかして不埒な目的だったりしませんよね? もしそうなら……」
不埒!? アレな関係になりたいなって思ってるのは不埒に当たるのか? と言うか、この子が例のメグルってことだよね。男の子だったんだ。あの時「メグルって子」なんて康生が言ってたから、勝手に女の子だと思い込んでた。紛らわしい……と言いたいけど、確かのこの容姿だと「子」って使ってしまうのは分かる。
「メグル? やめときなよ」
お姉さんが彼を止めてくれた。ただ当の彼女も、アタシの顔をジッと見てる。康生と姉弟だけあって鷲鼻がそっくりだけど、目元は彼よりキリっとしてる分、目力がある。ひょっとして……アタシの見た目的に、いわゆる不良だと思われてる感じか。
「姉さん、メグル。この人はそういうんじゃないから、大丈夫。ウチのお客さんでもあるから」
康生が仲立ちすると、お姉さんは「なんだ」という表情であからさまに警戒度を下げた。
「昔、フィギュアを作って贈ったことがあったんだけど、偶然再会してさ。それ以来、僕の作る物を気に入ってくれたみたいで。こないだも、ぬいぐるみ買ってくれたばっかりだし」
「そ、そうなんだ。お買い上げ、ありがとうございます」
「ど、どういたしまして?」
なんか知らんけど、あの日、ショップ行っといて良かった。
「……」
メグルくん? はそれでも未だ強い視線で射ぬいてくる。何気に男子からこんな警戒の目で見られたのって初めてかも。
「メグル、ありがと。でも本当に大丈夫。脅されて言わされてるとかじゃないから」
脅すって。え? そんな疑われてたん? ちょっといくらなんでも警戒しすぎと違う?
「スミマセン、星架さん。ちょっと……事情がありまして」
少し言い淀んでから、結局ボカした表現をする康生。あ、踏み込んで欲しくない所か。正直、メッチャ気になるし、親族とは言え、お姉さんやメグルって子とだけ通じ合ってるって事実に嫉妬しそうだけど……アタシも引っ越してきた細かい事情は話せてないし、ここはお互い様。ああ、でも気になる。もしかして昔、ギャルにイジメられたことがある、とか?
「あの、今日はこれから法事でして。その、レインで話すのも微妙かなって思って。二人で話せる所までって思ったんですけど、まさか姉さんたちが待ってるとは知らず」
あー、首振ってたのは法事があるから遊べませんって意味だったんか。そしてこの二人との鉢合わせは偶然も偶然、と。
「アンタが体育祭のこと黙ってるからでしょ?」
「そうだよ。知ってたら応援に駆けつけたのに」
「それがイヤだから言わなかったんだよ」
康生としては、家族の前で無様を晒すのを恐れたんだろな。けど蓋を開けてみたら、特大の三塁打だったんだし、呼んどけば良かったかも?
「二人とも話は後でするから、先帰ってて」
「えー、折角お姉ちゃんが、迎えに来てあげたのにぃ~」
「後で埋め合わせするから」
康生のマジトーンで二人は渋々頷いた。去り際、やっぱりメグルって子だけは、少し含みのある視線をチラリと向けてきたけど。
アタシと康生はその場で立ち止まり、少しだけ話すことにした。
「何か変な感じになっちゃって、すいません」
「いや、うん」
「時間ないのについて来て欲しかったのは、改めてお礼言いたかったのもあるんですよ」
「え?」
「あの時、僕の代わりに怒ってくれて、凄く嬉しかったです。ありがとうございました」
康生が、少し照れ臭そうに笑った。その顔が可愛かった。
「いいって、そんなん。アタシがムカついたってのが一番だし。つかアレ、性格悪すぎでしょ?」
「ですね」
二人で笑い合う。
「しかし、メグルって子、男の子だったんだね?」
「はい。あれ? メグルのこと話しましたっけ?」
忘れてるし。何気にモールでのやらかしのキッカケの一つだったんだけどな。
と言うか、まだ完全なオールグリーンじゃないんよね。あの警戒心の理由は、康生のいう事情ってヤツなら良いんだけど、お姉さんより何倍も強かったのが気になるんよ。も、もしかして、そっち系? あんな可愛い顔してるし。
「康生ってさ」
「は、はい?」
「男に好かれやすかったりする?」
「ひっ! なんで今そんなことを? な、ないですよ。僕にそんな趣味は!」
心からの否定のようで、アタシはホッとする。
取り敢えず性別を超えた恋敵の線は消えたっぽい。今はそれで十分。
「野球部には! 野球部には入りませんからね!」
な、何の話だ。