36:ギャルに凡退を撮られた
女子バスケを観戦した後は、僕もグラウンドへ移動した。正直、足は重い。野球は五回までの短縮試合(バスケットは2クオーター)なんだけど、それでも結構な時間、晒し者になる予定だ。
しかも家業で重量物を持つ習慣があるせいで、半端に筋力質な僕は、なんとセカンドのスタメンにされてしまった。ちなみに誰が采配したのかと言うと、3年4組の野球部キャプテンの人。バスケもそうだけど、本職はその競技には出られないが、簡単なコーチングや采配はオッケーなルールだそうで。
僕の体をペタペタ触りながら、肩を抱き、何度も頷いていた辺りでイヤな予感はしてたけど、まさかスタメンとは。補欠に選ばれた三人が心底妬ましい。まあ、一度は代打か守備交代で出場するルールだけど。それでも大半をベンチで過ごせるのはズルい。
まあ文句を言ってても始まらない。いや、試合は始まってしまった。対戦相手は1年1組。向こうもそんなにやる気がある感じではないけど、何せ相手はこの僕だ。簡単に恥を晒すだろう。
何故か2番に入れられた僕の第一打席はピッチャーゴロ。外の球を引っかけてしまった。でも意外と当てられた。向こうも山なりボールだったのもあるけど、とにかく全三振の生き恥は回避できた。
後続も倒れ、一回表は三者凡退。裏の守備、ピッチャーはあの宮坂。マッシュヘアを帽子に納めて、懸命に投げている。けど、どうも運が悪く、三振振り逃げ、エラー、エラーで失点。まあ一つは彼自身の悪送球だったんだけど。
「あれくらい捕れよ」
守備のタイムでマウンドに行った時に冷たく言われた。何気に彼と絡んだのは今回が初めて。感じ悪いな。と言うかジャンプしても届かないボール投げといて言うセリフじゃない。僕は無視してセカンドの守備位置へ戻った。
ただ少し、彼の気持ちも分からなくはない。さっきの僕の打席、ギャラリーの星架さんが最前列まで来て、スマホで撮っていた。そして今は下がって洞口さんと喋ってる。菌類に興味がないのが、手に取るように分かる。まあ要するに八つ当たりだね。
星架さんも確かに学校であからさまに絡まないでって言うお願いは今のところキッチリ守ってくれてる。けど、録画してたら意味ないんだよなぁ。
二回、三回と両チームともバットにボールが当たらない泥仕合が展開された。特にあっちの投手は、3年の奇数組に所属する野球部の先輩がアドバイスしたせいで、少し打ちにくくなった模様だ。
迎えた四回表。先頭の人がライト前へクリーンヒット。打った本人もちょっとビックリしてた。そして回ってきた僕の打席。相手投手が、ちょっと見栄えの良くなったフォームで投げ込んでくる。じっくり見てワンボール。意外とイケるかも、これ。
続く2球目、僕はいきなりバットを寝かせ、三塁前へバントした。必死に走る。相手サードが慌ててダッシュ、捕球するも、暴投。ノーアウト一塁三塁の大チャンスとなった。ここでキノコが三振。しかし次のバッターがレフト前にポトンと落ちるヒット。同点に追い付く。
続く5番が四球を選んで、6番はセカンド正面のゴロ。ゲッツーコースだったけど、またも送球が逸れて三塁ランナーの僕が生還。客席の星架さんも手を叩いて喜んでいた。
7番は四球、8番が三振に倒れ、チェンジ。ここで一気に突き放しておきたかったけど、まあ仕方ない。逆転できただけ御の字だ。とか思ってると、四回裏の守備で、キノコが二者連続四球。次の打者のピッチャーゴロを捕ったまでは良いけどサードへの送球がまたも高く浮き、二者が生還。続く打者にもタイムリーを浴び、ここで彼は交代。下がる時、やはりサードの人に文句を言ってたけど、あんなボール、頭にカサでもついてないと捕れないって。
その後、リリーフの人が三者凡退に抑えて追加点は許さなかった。最初っからこの人に投げてもらってた方が良かったのでは。聞けば、中学まで野球やってた人らしいし。
まあとにかく、2-4のビハインドのまま試合は五回表、僕たちの最後の攻撃へと移った。




