34:陰キャに富が集中してた
<星架サイド>
昼休み、今日も千佳と中庭に出て食べた後、少し食休み。アタシは今朝の康生とのやり取りを報告して、作ってもらったぬいぐるみも見せた。
「へえ、上手いもんだね」
「凄いっしょ? かなり特徴捉えてるし」
本人はそれを嫌がってたけど。
「んで、ウチのぬいぐるみも作ってもらうん? 口実じゃなくて」
「ん。まあ折角だし」
康生のだけ作ってもらって音沙汰なしってのも、気持ちバレそうで怖いし。それに。
「実際、アンタだって恩人なのは間違いないし……感謝してる」
千佳は超偶然だけど、アタシの転院&転校とほぼ同時期に引っ越し、転校先の同じクラスに居たんだよね。病気がマシになって学校通えるようになっても、「またイチからだ」って気が重かった所に、そんな幸運。親友にならざるを得なかったよね。そっから中学、高校と同じところ選んだし。千佳は横中からだから、ちょい大変だけど。
そんなワケで恩人。康生が離れてても支えになってくれてたのとは真逆に、いつも無理なく傍に居てくれる子。
千佳は顔の前で暑苦しそうに手を振って、
「クサいセリフ……何か最近キャラ不安定じゃね?」
なんて言ってくる。分かってるし。康生相手に子供みたいに甘えちゃうし、テンションの浮き沈みも激しめ。色んなことに感傷的だ。
「いやさ……改めて昔のこと思い出して深く考える機会になったワケよ、今回ね」
「まあ初恋の相手と再会したら、いやがおうにも、そうなるわな」
「ほんで考えてみたら、色んな人に支えられて、今があるんだなあって。正直アンタにも救われてたなぁって」
「……」
「あんがと、マジで」
「小学校ん時も何度か言われたけどさ、ウチはアンタと気が合うからつるんでるだけ。んな感謝されることでもねえよ」
千佳は頬にかかった自分の髪を鬱陶しそうに耳に掛けた。
「……まあでも、アンタのそういうとこ、悪くねえなって思うから付き合ってるっつーか。沓澤クンにも少しは伝わってると思うぞ? フィギュア、大切にしてたの喜ばれたんだろ?」
「うん、そうだけどさ。ホントにそうかなあ? アタシにとって大切だから、丁寧に扱ってただけなんだけどな。感謝されることじゃないっていうか」
そんな疑問を口にすると、千佳は笑った。
「さっきのウチと同じようなこと言ってる」
言われて気付いた。確かに。自分がそうしたいからしてる事でも、相手からはありがたいと思われることもあるってことか。
「まあ……前は面白半分で嫌われてるんじゃね? とか言っちゃったけどさ」
面白半分でアタシの心を抉るな。
「実際は、アンタのその義理堅い所とか、多分よく見てくれてると思うぞ。じゃなきゃ、一方的にキレた相手の家まで迎えには来てくれんだろ」
そう、なんかな?
「だから、アンタが自分の良いところ失くさない限り、たぶん大丈夫だ。頑張れよ? ガチで好きなんだろ?」
千佳は恥ずかしそうにしながらも、そんな励ましをくれた。やっぱアンタ、アタシの親友だよ。
放課後。
今日はアタシも歩きだから、テクテクと校門を抜け、左に曲がり、次の角で待機。2分くらい待つと、康生も追い付いてきた。
後ろをキョロキョロ振り返り、早足で合流してくる。心配しなくとも、うちのクラスの他の面々は南の新興住宅街か、西の駅に向かう人だけ。東の古い町にはアタシと康生のみ。もっと学校の近くが良かったって、入学してから何度も思ったけど、今はマジで最高の立地に感謝。
「康生、見て見て」
紙袋から取り出した康生ぬいぐるみ。フェルトで出来た髪の部分にヘアピンをデコってみた。
「う、うわあ」
「え? 可愛くね?」
「それ、僕が同意できると思います?」
あーうん、そりゃそうだ。
「今日さ、千佳と話したんだけど、ぬい作っても良いって許可出たからさ。また時間ある時、作ってよ」
「はあ。本気で友達コンプする気ですか?」
「へっへ。金づるっすよ、金づる」
「あはは。でも無理しないで下さいね? いくら読モの仕事してるって言っても」
「うん、実はね、ユルチューブの広告収入もあったり」
「え! 凄いじゃないですか。何の動画上げてるんですか?」
「メイクとファッション。仕事の延長だな、簡単に言うと。客層もそのまんま。でも直で投げ銭できるから、配信ありがとう、とか言ってくれる子も居て、こっちこそマジありがとうってなるよ」
「へえ……じゃあつまり、沢山の女の子たちが、推しのギャルに貢いで……それが陰キャの懐に納まる?」
言われてみれば何だそれ? って感じで二人で笑い合った。