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30:ギャルがとてもウブだった

 日曜日。

 昨日の家具等の納入を終えて、戻ってきてからはずっとジオラマ製作の事を考えていた。星架さん、あの沈没船を気に入ってくれたということは、ああいう幻想的なのが良いのかな。


 キレイだと褒めてくれた時の表情を見て、やっぱ女の子なんだな、と当たり前の感想を抱いた。ああいうバリバリのギャルの人なんかは、インドア丸出しのチマチマした物は受け入れてくれないイメージを漠然と持ってた。


 けど、そんなのは偏見だ。ギャルだって似た格好をしてても、同じ人は居ない。僕の作るものを良いと言ってくれる星架さんみたいな人だって当然いる。逆にいかにも陰キャという格好してる人たちだって、中にはジオラマの良さなんてサッパリ分からないって人もいるだろう。


 と言うかそもそも星架さんは子供の頃からフィギュアにも親しんでたし、木彫りも欲しがってくれた人なのに。それでも時々、フッと容姿やギャルというステレオタイプに引き摺られてしまいそうになる。やっぱ見た目って自分で思ってる以上にデカイよね。


 そう考えると正直、今でも自分みたいな冴えないヤツが、昔のよしみとは言え、あんな美人のギャルに構ってもらえてるという事態についていけてない所もある。何かのドッキリなんじゃ? とか。


 そんなことを考えている時だった。ピンポーンと家のチャイムが鳴る。今日は日曜、両親も姉さんも出掛けてる。つまり面倒だけど、僕が出るしかない。


 一階に降りてインターフォンの通話ボタンを押す。モニターに映ったのは今さっき冗談半分でドッキリを疑ってた相手なもんだから、本当の意味でドッキリした。


「あの、私、康生クンのクラスメイトで、溝口と言います」


「星架さん、僕です。今出ますから」


 玄関に向かいながら、今日は作業は進まなそうだなと予感した。少し前までなら、それを不愉快に思ったかも知れないけど、今は嫌じゃなかった。







 戸を開けると、やはり見間違いでも幻でもなく、星架さんがいた。黒の肩出しTシャツに、デニムのショートパンツ。相変わらずオシャレ番長だ。


「来ちゃった」


「あ、はい。レインしてくれたら良かったのに」


「いや、こないだは康生がサプライズで来てくれたからさ。今度はアタシの番か!? って」


 そういう仕組みではない気がするけど。


「えっと。取り敢えず上がって下さい」


 居間に上げて、ソファーに座ってもらう。僕の方は冷蔵庫からお茶のボトルを出し、自分のグラスへ。星架さんは前にライチの清涼飲料を美味しそうに飲んでたので、それを来客用グラスに注ぐ。


 テーブルに置くと、彼女は顔を綻ばせた。


「お、アタシの好きなヤツ。前んとき察してた系?」


「ええ、何かガブガブ飲んでたんで、そうかなって」


「おお、ポイント高いよ~」


「ははは」


 僕が笑っている間に、星架さんは前と同じくガブガブ飲んで空にしてしまった。外はやっぱ暑かったんだろなあ。


「お茶もちょっと貰っていい?」


「はい、いいですよ」


 立ち上がって別のグラスに注いでこようとした所で、星架さんの手がニュッと目の前に伸びてきて、僕の飲みかけのグラスを取って、そのまま口をつけてしまった。


「さんきゅ」


 と言って戻してくる。2口分くらい減ってるし、飲み口に薄っすら赤いルージュがついてる。間違いなく星架さんが飲んだんだ。

 僕は思わず彼女の顔をマジマジ見てしまう。まさか気付いてない? それか間接キスくらいなんてことない? ジッと見続けること、十秒ほど。やがて星架さんは体ごとそっぽ向いてしまう。後ろから見ても耳たぶが真っ赤だ。


「見んなよぉ」


 弱々しい声音に僕も羞恥で顔が熱くなる。僕をからかおうとしたのに、想定以上に自分がウブすぎたってことか。やってから気付くあたり、星架さんだなあ。


「そ、その。飲みますよ?」


 まさか捨てるわけにもいかない。勿体ないし、感じも悪い。僕こそ機転を利かせて何でもない風を装ってシレッと飲めば良かったんだな。

 まあ今さら悔いても、もう遅い。やるしかない、と星架さんのルージュの跡がついた所と反対側から飲む。


「……」


 いつの間にかこっち向いてる星架さんとバッチリ目が合った。まだ少し赤い顔で、からかうようなニヤニヤ笑いを浮かべてる。

 一気に飲み干して、


「見ないで下さいよぉ」


 僕も彼女と同じような弱々しい抗議の声を上げる羽目になったのだった。

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