27:ギャルがあざとすぎる
放課後、さっさと帰って作業の続きでもやるかぁ、と席を立ったところで、星架さんと目が合った。口の動きで「待ってて」と言ってる……ように見える。
今日一日、うっかり彼女が話しかけて来ないかヒヤヒヤしてたけど、結局ここまで何事もなく過ごせた。休み時間は図面とにらめっこしてたのも良かったのかな。
まあ今作ってる物は、仕事関連じゃないから、別に急ぎでもない。少しくらい遊ぶ時間を取っても良いよね。特に明日は土曜日だから、今日を逃すと星架さんと話せるのは月曜日になっちゃうし。
「トイレ」
と口だけ動かして答える。
立ち上がり、鞄を置いたまま廊下へ。何故か弾けるような笑顔で星架さんもついてくる。よく懐いた飼い犬のように、僕の前までやってきた。
慌てて周りを見る。幸い帰宅組の第一陣はもう階段を降りているらしく、廊下はほぼ人が居ない。教室に居残って駄弁っている第二陣は、それこそお喋りに夢中。セ、セーフ。
「ちょっと、なんでついてくるんですか!?」
「え? だって、おいでって」
「トイレって言ったんですよ!」
大体、そんな小さな子に言うような命令しないし、そう勘違いしたとしても、こんな従順に、それこそ小さな子供みたいについてくるなんて……
「じゃあ待ってるから、終わったら遊びいこ?」
だからキャラおかしいって。その8歳児みたいになるの止めて。なんか胸がキューってなるから。
斜め下から小首を傾げながら見上げてくる、その目元、下目蓋の辺りがちょっとプックリしてる。涙袋メイクってヤツか。朝、こんなメイクじゃなかった気がするんだけど……
「遊ぼ?」
もう可愛いから何でも良いや。
僕は了承してトイレに向かうのだった。
<星架サイド>
よし、と内心でガッツポーズ。
休み時間に視線を送っても康生は見向きもしてくれなかったから、しょーがなしにスマホ弄ってる時にパッと思いついたんよね。メイク変えてみるかって。昨日のちょっと幼児退行しちゃってた時、何かかなり優しかったから、幼め&弱めに見える感じで仕上げてみたんだけど。中々効いたっぽいね。
おねだりする時に使うか。まああんまやり過ぎないように、ここぞの場面だけ。しかし、まあホントにアタシかって自分でも疑っちゃうよね。あんな媚び媚びでさ。でも康生はアタシの一番弱い時を知ってるし、ワガママな8歳児になっても受け止めてくれるって分かってるから、メッチャ自然に甘えられるんだよね。てか可愛いって思われたい。美人は言ってくれたけど、可愛いはまだ言ってもらってないもん。
「お待たせしました」
戻ってきた康生と少し距離を開けて一階まで降りていく。うう、あんま人居ないし、隣り合って喋っても良くない? とは思うけど、また自分の都合で暴走して嫌われたらイヤだし。
自転車置き場には何人か生徒が居て、仕方ないから康生には先に行っておいてもらって、アタシは後から追いかける。チャリ、キイキイ言ってんなあ。ママのお古だし、もう替えどきだよなあ。康生と話すキッカケになってくれたし、愛着はあるんだけど。
しばらく走り、校門出た辺りで追いついた。声をかけると、少し笑って側に来てくれる。懐き始めたネコみたいで可愛い。
「どこ行こっか?」
「駅前は知り合い多そうですよね」
「うん。それに二人とも遠回りだし」
学校を中心に見て、アタシらの家が東、駅は西だ。
「康生んち行ってみたいなあ、とか言ってみたり」
「うーん、今日はちょっと。部屋がヤバいくらい散らかってるんで」
「そーなん?」
「今作ってる物が、かなり大物なんで」
「そっか……信長じゃないよね?」
「いやいや、僕だって信長ばっか作ってるワケないじゃないですか」
笑いながら返される。まあそれはそうだよね。反省反省。オリジナル家具なんかも作るって言ってたから、それかな?
「今作ってんのは安土城ですよ」
「信長じゃねえか」
アタシの反省返せや。
「ははは。まあ取り敢えず、今日は外で。そうだなあ……」
考えあぐねてるっぽい。
「じゃあアタシが決めて良い?」
「はい、お願いします」
「よーし、じゃあついてこーい」
押してた自転車に跨がり、康生がついてこれるくらいの速さで先を走り出した。