26:陰キャがつれない
校門に着く少し前に距離をとって離れ(これも星架さんは渋ったが)、別々にくぐることにする。門の前で担任のおばちゃん先生がフクフクした顔で立っている。挨拶当番か。先生も大変だな。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
通り過ぎる。すると後ろから、
「おはよーございまーす」
という星架さんの元気な挨拶が聞こえる。小学生かな。つい振り返ると、星架さんは先生の三段腹をタプタプしていた。こら、と怒られてはいるけど、先生も笑ってる。凄いなあ、あれが許されるキャラクター。
教室に着くと先に来ていた洞口さんと目が合った。満足げに頷かれる。恐らく昨日のうちに星架さんから連絡があったんだろう。上手く仲直り出来たって。
どうしよう。お世話になった、と言うか、この人が住所を教えてくれなかったら、僕らはまだ蟠ったままだったと思うし、直接お礼を言った方が良いんだけど……
「沓澤くん、おはよ。千佳、おーっす」
星架さんが僕の横をすり抜けざま、挨拶。そのまま洞口さんの机に向かった。僕も二人の方にペコリと会釈する。
流石に挨拶くらいはセーフだよね? と周りを見る。誰とも目が合わないし、大丈夫そう。ふう、と息をついて、何でこんなお伺いを立てるようにしなくちゃいけないんだ、と凄く惨めな気持ちになった。
分かってる。僕が弱いせいだ。星架さんの言うように、開き直ったら、どうということもないんだろう。本来、誰が誰と友達になろうと、当人同士の勝手だ。何か言われたら、お前には関係ないだろう、と返せば、相手は何も言い返せないんだから。
でもそれが出来ない。意気地がない。自分の情けなさをまじまじと実感させられる。こんなことならいっそ、一人で良いじゃないか。そんな誘惑に駆られる。
でもそれじゃ駄目だ。8年もかけてお礼を言いに来てくれた人なんだ。今度こそ裏切られない。あいつらとは違うんだ。信じられる。信じたい。
また会えて良かった。あれは本心だから。
<星架サイド>
「どう思う?」
「どうって。そんな好きなら告ったら?」
千佳は素っ気ない。昨日の電話で話し散らかしたせいで、多分ゲンナリされとる。
「いや、そうなんだけどさ。ちょっと手応えみたいなのが無くて」
「え? けど昨日は、康生はアタシのこと絶対好き~とか言ってなかったか?」
「うん。そうなんだけどさ、また会えて良かったってセリフ、冷静に考えたら、そういう意味合いじゃない気がして」
「まあそんな感じやね。沓澤クンとしては、自分が創作物あげた人が幸せになってるのを知れたから、会えて良かったって感じじゃね? ほんでまた友達になれたら良いね、くらいの」
うん、マジでそんな気がしてきたんよね。だって……
「沓澤クン、午前の休み時間、ずっと自分の机で内職してたもんな。アンタの方が何回もチラチラ見てたのに。一回も目合わなかったレベルじゃね?」
「言うなー」
完全に線引きしてる雰囲気なんよね。学校では一瞬だけ接点があったギャルと陰キャって感じで。
「つーか、話聞いてる限りさ、好かれる要素あんま無くね?」
「言うなー」
「ツイスタに動画を無断アップ、ストーキング、盗撮。男女逆だったら普通に捕まってるかんね? ぶっちゃけ彼、気が弱いから我慢してるだけかも。内心クッソ嫌われてたりして」
「ほあああああ」
「うわ、キモ」
実はあるかもって思ってた可能性。いや、大丈夫。流石に。頭撫でてくれてた時、良い感じだったし。今朝の登校の時も普通ににこやかに話してくれてたし。
「極めつけに、例の独り相撲ブチギレ事件だろ。沓澤クンからしたら、相当ショックだったと思うんよね。アンタの性格からして、ワーってなったら、後先考えずゴーなんだろうけど、相手はついてけんからね。特に沓澤クンなんて大人しい子だし。もっと仲良くなって、それとなく確かめるべきだったよな」
「……うん。だから謝ったし」
「しかも歩み寄りもあっちからっしょ? まあウチの差し金でもあるんだけど」
「うん。そこも反省してます」
「……正直に言って良い?」
「はい」
「まずは友達からだな。間違いなく。マイナスをせめてプラマイゼロにするところから始めよう」
「はい」
第三者目線でもやっぱそうか。凹むなあ。自業自得だけど。