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ギャルの自転車を直したら懐かれた【8月25日・第1巻発売予定】  作者: 生姜寧也


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209/225

209:ギャルにおあずけした

 昼前に星架さんのマンションにやって来た。何やら、指輪のデザイン案が固まったとかで。

 インターフォンを押すと、すぐにドアが開き、本人が顔を出す。目がキラキラしてる。


「紫陽花だよ、紫陽花!」


「いきなり激しい」


 玄関先で出会い頭に言われても。


「あ、ああ。ごめん、暑いよね。上がって上がって」


 そういうことでもないんだけど。まあ暑いのは事実だから、お言葉に甘えるけども。


 そして改めてリビングに通されて。冷えた紅茶を頂く頃には少しずつ汗も引いてきていた。


「昨日は色々とお世話になりました。帰りも寝ちゃってて……」


 お疲れの誠秀さんの話し相手を丸っきり押し付けてしまった格好だ。母さんいわく、運転してる時にみんな寝ちゃうと、こっちまで眠たくなって割と危ない、らしいし。


「ううん。重い物とかやってもらったし、全然気にしないでよ。それに」


「それに?」


「あー、どうしよっかな」


「んん?」


 話そうかどうか迷ってる感じ、かな。


「ほら、康生がパパに何か話してくれたんでしょ? それで30日に向けて気合い入れてくれたみたいな」


「あー、えっと」


 そういう話か。男同士の密約により、あんまり詳しいところは話せないんだよな。


「大したことはしてませんよ」


 とは言ったものの、自分でも白々しさを感じる。星架さんも信じてはなさそうだけど、ふふと笑うだけで、追及はしないつもりらしい。良かった、とホッとしたのも束の間。


「やっぱ最高のカレシだなあ、康生は~」


 ソファーの上を四つん這いで近づいて来て……今日もまた露出の多いシャツを着ているせいで、淡いピンクのブラジャーが見えてしまった。

 僕は慌てて視線を上げる。と、そのまま星架さんに唇を奪われた。


 そして流れるように、彼女は僕の膝の上に座った。ショートパンツから伸びる艶かしい生足。この間、抱っこした時に、指がとろけるほど柔らかいことを知った。また、触りたい。あの柔らかくて温かい、肌の感触を掌全体で味わいたい。


 僕は……


 何とか理性の力で、星架さんの肩を押す。彼女の残念そうな顔が見えた。


「我慢できなくなりますから」


 麗華さんも居ないこの家で、こんなペースでスキンシップをされては、陥落してしまう。


 星架さんは少しだけ頬を膨らませた。そして僕にまた抱きついて、耳元で、


「まだ我慢できるくらいの愛おしさなんだ?」


 と、からかうような口調で言う。愛おしくて我慢できなくなったら……そのメーターはとっくに振り切れてる。だけど今は誠秀さんと麗華さんの問題が第一だ。多分、僕がそう考えてることも察してくれてるとは思うけど、実際にキチンと言葉にしておいた方が良いのかも知れない。


「……正直」


「え?」


「既にこれ以上ないほど、愛おしいです」


「……っ」


「でも。やっぱり星架さんにとって、いや、ご家族にとって物凄く大切な時期です。片手間に、憂いごとを抱えたまま。それはダメです。星架さんが大切だからこそ、今は我慢するんです」


「あ、う、そっか」


「はい」


「じゃあ、さ……ママとパパが上手くいったら?」


「その時は……多分もう我慢できないと思います。高校生だからとか、まだ早いとか、そんな綺麗事、言ってられないくらい、星架さんが愛おしくて愛おしくて仕方ないから」


 あの誠秀さんとの対峙、対話。星架さんへの想いがなければ、逆立ちしたって出来なかった。僕を衝き動かしていたのは、ただただ彼女の笑顔を守りたいという、そんな単純な願い。それが無限とも思える力を与えてくれた。


「こう……せい」


 きっと彼女はからかい半分に探りを入れてきていたんだろうけど、思いの外、僕が真剣に答えたものだから、不意打ちを受けたような心理状態なのかも知れない。

 潤んだ瞳。半開きの唇。自惚れでなければ……感極まってくれたんだと思う。

 

 だけど今の彼女にこれ以上キスしたら止まらなくなりそうで……僕はパチンと大きな音を立てて、自分の両頬を叩いた。目を開けると、星架さんのビックリした顔。


「さ。本題に入りましょう? 紫陽花でしたっけ?」


「あ、ああ。うん、そうそう」


 まだ完全に甘い空気が消えたワケじゃないけど、二人とも頭を切り替える。


「ママが好きな花。アタシが覚えてないくらい小さい頃、鎌呉に旅行した時の思い出なんだって」


「ああ、梅雨の時期とかメッチャ咲いてますもんね」


「明菜さんの方の実家だっけ?」


 僕は頷いて、


「どこら辺の紫陽花を見たんですかね? 分かれば、近くの風景も込みで……あ、そっか指輪だから流石に花しか入れられないか」


 発展的な提案をしようとしたけど、作るモノの大きさを思い出し、断念する。


「取り敢えずさ、アルバム見てみよっか?」


 そう言うや、彼女は僕の膝から立ち上がり(ホッとしたような、名残惜しいような)、リビングのサイドボードへ。木戸を引いて、中に立て掛けてある何冊かの本を取り出す。凝ったデザインのハードカバーが目を惹く。


 戻ってくると、流石に僕の膝の上ではなく、すぐ隣に腰掛け、テーブルの上にそれらを広げた。 

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