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19:陰キャが来てくれた

 <星架サイド>



 絶対、千佳の入れ知恵だ。アタシが土壇場で逃げ出さないように、アポ取んなって助言したんだろな。

 そりゃさ、逃げ回ってたよ、実際。コウ……沓澤クンがレインしてくれたのに返せなかったし、教室でも話しかけたそうにしてんのに歩み寄れなかったし。


 そのくせ、見捨てられるのは怖いし、もっと強引に来て欲しいとか内心思ってて。そもそもアタシが何も説明しないから、踏み込みようが無いっつーのに。ほんで今も来てくれたのが嬉しくて飛び出したかったクセに、怖気づいて、縁が切れるギリギリでやっと勇気が出たっていう体たらく。マジめんどくさい女。


 ていうか、沓澤クンはアタシと縁切れても良いのかな。ちょっと拒絶されたくらいで、追っかけてくれないんだ……いや、だからそれがキモイんだって。全然アタシのキャラじゃねえし。

 沓澤クンがコウちゃんだったんだね。アンタ、アタシの昔の恩人だから。ずっとお礼言いたかったんだよね。だけどあん時は、他の人のついでにフィギュア作ったみたいな言い方にカチンときちゃってさ。ゴメン。また仲良くしてよ。

 こんくらいが普段のアタシだろ。なんで5日も言えねえで、あげく本丸まで来てもらってんだよ。


「はあ~」


 冷蔵庫から烏龍茶のボトルを取り出して、グラスに注ぎながら、ひっそり溜め息。お盆にアタシのグラスと客用グラスを乗っけて、ゆっくりとリビングに戻る。

 ガラステーブルにそっと盆を置いて、ソファーに座る。対面式じゃなくて、テレビが見やすいように、テーブルを囲むⅬ字型にソファーは置かれているから、アタシは彼の斜め向かいぐらいに座る形になった。


 改めて沓澤クンの横顔を見る。言われてみれば面影がある。そっか、多分、脳のどこかでは気付いてたんだな。だからあんなに拘った。

 真剣な顔はカッコいいけど、気まずそうに頬を掻いてる姿は可愛い。そのままボーッと見てると、沓澤クンはゆっくりこっちを向いた。恥ずかしくてパッと俯いた。


「……なんで顔逸らすんですか?」


「だって、今、アタシ、すっぴん」


 片言かよ。ダメだ、マジで上手く話せん。


「ブスじゃなかった?」


 こんなん訊ねて、優しい沓澤クンがうんって言うワケないし。


「いえ、全然」


「じゃあ、どう思った?」


「……正直に言ったらキモがられそうなんで」


「言って」


 キモいのアタシの方だから。なんでこんなに言わせたいんだよって。


「……すっぴんでコレとか不公平だなって、思いました」


「それって、つまり?」


「その……えっと」


「うん」


「やっぱ美人だなって」


「~~っ」


 アドレナリンが脳内で噴水みたいに湧いてる。美人とかキレイとか、今までどんな男に言われても「知ってる」って感じだったし、下心が透けすぎてキモかったくらいなのに。何これ。叫び出しそうなんだけど。


「勘弁してください。こんなん女子に初めて言ったんですから」


 本当に心が跳ねまわりそう。


「あ、いや。言ってたか」


「え!?」


 どこの誰に?


「ほら、モールで待ち合わせた時、溝口さんに」


 アタシだったよ! そうだった、確かに言われてた。あん時も照れてしまったけど。

 いやでも待って。あの時はサラっと言ってくれたのに、今はキモがられるかもとか有り得ん不安を抱いてたって事はだよ……やっぱ距離遠くなってるよな。なんか胸メッチャ痛い。沓澤クンに褒められてキモいとか何があっても思うワケないし、そんな不安抱かせちゃった事が苦しい。


 アタシの情緒不安定を他所に、沓澤クンはグラスを傾け、烏龍茶を飲んだ。そして体ごとこっちに向き直る。


「あの、溝口さん」


「ん?」


「それで本題なんですが……」


「あ、うん」


 そうだよね。それ話しに来てくれたんだし。


「あの、ここまで来たは良いけど、正直、あの時なんで溝口さんが怒ったのか全然わかんなくて、それを聞かせて欲しくて」


「そう、だよね」


 アレで分かれって方が無茶だし。


「僕が何かやってしまったんですかね?」


「ち、違うから!」


 アタシも勇気出さなきゃ。沓澤クンはアタシに無視され続けても来てくれたんだ。こんな理不尽な女を見捨てずに来てくれたんだ。今度はアタシの番。


「……ちょっと待ってて。見せたい物があるから」 

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