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17:二人の過去(後編)

 <星架サイド>



 そして、そこからの一週間は結構長かった。まだかな、まだかな、って。3日くらい経った時には、もしかして忘れてるんじゃないかとか、後回しにしてるんじゃないかとか、不誠実な疑いを持ってた。今になって思えばマジで自己中。コウちゃんだって、宿題や家の手伝いがあって、その残りの時間をほぼ全部つぎ込んで作ってくれてたと思うんだ。優しいからそんなん一言も言わんかったけど。


 しかも6日で持って来てくれたんだよね。コウちゃん指に絆創膏とか貼ってたのに、アタシ全然気づかなくて。ちょうど持って来てくれた時、ママも居て、それで後から教えてもらったくらいで。いくらガキとは言え「それは無いんじゃないか、過去の自分」って今でも思う。


 でも大喜びのアタシはフィギュアを宝物のようにベッドサイドに恭しく置いて、眺めて、周りを一周したりと忙しかったから、コウちゃんを労う暇がなかった。いや、サイテーだな本当。

 けどそんなアタシにも優しかったコウちゃん。こんな風に言ってくれた。


「ぼくもけんきゅうでみたんだ、アニメ。つよい子だよね、クルルちゃん。びょうきともたたかってるのに、平和のためにもたたかうんだもん。ぼくだったらぜったいくじけてる」


 アタシはパッと振り返って、ようやくコウちゃんを見た。クルルちゃんの魔法少女としての強さじゃなくて、心の強さに気付いた子は初めてだったから。


「だよね! クルルちゃん、つよくてめっちゃかっこいいよね!」


 そこからはアタシ、ようやく理解者が現れたって、おおはしゃぎで一方的にクルルちゃんの魅力について語った。コウちゃんは本当に楽しそうに聞いてくれて、時々、気持ちの良い相槌を打ってくれて、ママも嬉しそうで、看護師さんが来るまでずっと喋ってた気がする。入院生活の中で一番楽しい一日だった。


 それからコウちゃんは、週一くらいのペースで来てくれたと思う。いつの間にか、他の誰よりも彼に会える日を楽しみにしていた。指折り数えるってのが比喩でも何でもない感じ。

 ある日、アタシが弱音と言うか、愚痴を吐いた時、コウちゃんはこんな、宝物みたいな言葉をくれた。


「セイちゃんは、ぼくたちより、たくさんたくさん、たたかってるんだよ。クルルちゃんとおんなじ。だからすごくつよいんだよ。びょうきをやっつけて、学校にかよえるようになったら、クラスのだれよりもつよいよ」


 病弱と言われ続けたアタシが、真逆、強いって言われるなんて思いもしなかった。アタシはからかわれてると思ってムッとしたけど。


「お父さんがいってたんだ。くるしみをのりこえた分だけ、人はつよくなるって。だから今まで、たくさんのくるしいをのりこえたセイちゃんは、もうとっくにすごくつよい。それにこれからびょうきにかつから、そのくるしみものりこえたら、むてきだよ。ぜったいクラスでいちばん」


 その真っすぐな瞳に、ウソはなくて。世界の真理と信じて疑わない輝きがあった。アタシを尊敬するような色さえあった。その時はアタシ、面食らっちゃったけど、後から思いかえすと、すんごく嬉しくて、初めて病気に苦しむ自分を肯定できた。


 ただコウちゃんとの楽しい時間は、そう長くは続かなかった。アタシの転院が決まったからだ。


 元々、隣の横中市の大きな病院に入る話はあったんだけど、ママが地元(今住んでる沢見川市)の病院にこだわったから、こっちで入院してたっていう事情がある。


 そのおかげで千佳やコウちゃんに出会えたから、そういう意味では最高だったんだけど、横中の病院で劇的に快方に向かったことを思うと、治療的には足踏みだった。


 まあ兎に角、そんな経緯で、アタシは引っ越したんだけど、やっぱりコウちゃんとあれっきりになってしまった事は、ずっと気にかかってたんだ。


 いや、それだけじゃない。本当は離れて思い知ったんだ。あれが最高の初恋だったんだって。元気になって通いだした小学校には、コウちゃんみたいに落ち着いてて、誰かの為に本気で行動できる優しい子なんて一人も居なかった。猿みたいにうるさいクラスの男子たちを横目に、ようやく失恋に気付いたんだ。

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