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144/225

144:陰キャが仲間を得た

 <星架サイド>



「ダメだかんな?」


「分かってるよ。流石に親友のカレシに手を出すほど腐っちゃないから」


 アタシも言いながら、千佳がそんなことするハズないとは信じてるんだけど。

 けど康生のあの笑顔は反則だからな。子供みたいに熱中してる様子に微笑ましさを覚えていたら、急にフッとこっちに向けられる優しい笑み。自分のモノづくりで相手に喜んで欲しい、ただそれ以外に何の他意もない笑顔が持つ破壊力。


 まともに喰らったら、グラっと来ちゃうのも無理はないんよね。アタシや千佳みたいなタイプは、男の下心にウンザリしてる分、それがゼロの純真なヤツがモロ弱点なんよね。逆に雛は恐らく大丈夫なタイプだろうけど。


「まあでも、アンタが珠のように可愛がるのも、よく分かるわ」


「がるるるる」


「どうどうどう」


 千佳に肩を撫でられて、しぶしぶ犬歯を引っ込める。


「しかし…………ああいう健気なヤツが、搾取されて傷つけられるってのは胸糞悪いよな」


「え?」


「ほら、なんとか一矢くらい報いてやりてえって、言ってたろ?」


「ああ、うん……今も変わらんよ、そりゃ」


 ちょっと急に話が飛んだように感じたのは、アタシが幸せボケしてたからか。けど両想いになれた幸せの中でも、忘れちゃいけないよな。康生にはまだ傷があるってこと。


「あんだけウチにも優しくしてくれるヤツだから、もう義憤とかアンタの彼氏だからって理由じゃなくて、仲間の一人として手を貸すつもりだ」


「サンキュー。頼もしいよ」


「つってもまだ方法が見えてこないんだけどな……莉亜に相談してみるのも手かも知れん」


「ああ、なるほど」


「アイツ、男の傷つくこと熟知してるだろ?」


 その評価もどうなんだろう、とは思うけど。まあ実際、男友達すらロクに居なかったアタシらのグループの面々よりは余程いいアイデアを閃きそうではある。


「守秘義務込みで、報酬払った方が良いかもだけどな」


「ああ、それはそうかもな」


 莉亜、アタシらなら兎も角、康生とは大して絡みもないし、情に訴えかけようにもって感じだわな。それに結構ドライな所あるけど、逆に言うと金と契約があれば裏切ることも考えにくいってメリットもある。


「ウチらだけで進めとくか?」


「うーん、いやダメだな。康生とは、何かする時は事前に話し合うって約束してる。コソコソして不安にさせる方があの子にとっては良くないだろうから」


「……」


「なに?」


「いや、本当どんだけ好きなんだよって」


「うっせ。世界一だよ」


 結局……しばらくは楽しい時間を過ごして、康生の心も落ち着いた頃「ちょっくら復讐しようぜ」って持ち掛けてみる、という事で落ち着いた。














 康生が戻って来てから本格的にちぎり絵教室が始まった。

 千佳は田園風景を出来る範囲まで、アタシは自分でブクマしておいた可愛いコーギーの写真を基にしたデフォルメ。どちらも康生が黒鉛筆をシャッシャと走らせながら、どんどん形にしていく。


「いやあ、予想はしてたけど、絵も上手いもんだな」


 千佳は感心しきりだ。アタシは付き合う前に何度か絵を描いてるとこ見たことあるから知ってたけど。

 やっぱ空間把握能力っつーか、ちょっと脳のつくりが違うんかもなあ、アタシとは。もちろん本人の努力も少なくないハズだけど。


「写実的なのは訓練すれば描けますよ。芸術的なのはセンスが要るんでしょうけど」


「康生、センスもあるけどね。独特すぎるヤツ。いつの日か、評価される時が来るかも?」


「2000年後とかに沓澤製作所が地層から掘り起こされて、ノブエルが出土……これはこの時代の神の偶像なのでは、みたいな感じですか?」


 千佳と二人で笑ってしまう。2000年後の偉い学者先生たちが眉間に皺寄せながら、ミニチュア自転車を滑走させてキノコを踏み潰してる光景を想像してしまった。


 喋りながらも手を動かしていた康生がやがて下書きを終えた。こんなもんかな、と顔を上げ、アタシたちにそれぞれ、台紙を渡してくれる。


「その絵に沿って、色も合わせて、ちぎった紙を乗せてみてください」


 アタシはコーギーの小麦色の毛並みに合わせて、その色の折り紙を取ろうとして、


「星架さんの方は、和紙の方が良いですね」


 と康生に遮られる。

 目で「どういうこと?」と訊ねると、康生は実際に和紙の方を軽くちぎって見せた。


「お? おお。淡い感じというか」


「そうですね。繊維がモワッとしてるんで、こっちの方がより本物の毛っぽく表現できるかと」


 そこまで言って、千佳の方を振り向く康生。


「洞口さんの方も雲とかは和紙の方が良いかもですね。ただ田んぼなんかはキッチリ区切られてるんで、折り紙をハサミで切り出した方が良いと思います」


「意外と奥が深いんだな」


 千佳が感心したように言う。


「まあ勿論、正解があるワケじゃないので、思うまま楽しんでやるのが一番ですけどね」


 そう締め括った康生。ニコニコ笑ってる。その手元を見ると、やたらイケメンの真田幸村の下絵。売る気だ、コイツ。意外とちゃっかりしてるトコあるよな。そこがまた可愛いんだけど。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大天使チカエルさえも堕天しかねない康生の純粋な笑顔 洞口さん星架さんが居なかったら本気になってそうですね もっとも星架さんが居なかったら繋がりもなかったんでしょうけどw 仲間として復讐だと…
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