141:陰キャの挨拶が長かった
<星架サイド>
冷蔵庫からプリンの入ったカップを人数分、みんなの前に並べる。トレーに5個ずつ載せた物を2セット。つまり全部で10個あるので、みんな1個ずつで、雛乃は6個、という形で平等に分けた。
「……マジで気にしすぎんなよ」
と千佳が康生に声をかけていた。食べ損ねた横中東のプリン。その代替とお詫びの意図を正しく察したみたいだ。
「それも勿論ありますけど……一番は、みんなに振舞って、楽しい時間を過ごしたいって、そういう気持ちですから」
「そうそう。それに簡単だから初心者のアタシでも作れるってのも決め手の一つよ」
アタシも助け船を出してやる。千佳もそれでシリアスはやめにしたみたいで、
「そっか……よし! じゃあ二人の新たな門出を祝って、みんなで乾杯するか!」
ジュースが入ったグラスを持ち上げながら、そんな提案をしてくる。
「あはは。照れ臭いけど、まあやるか。ほれ、康生」
アタシも乗っかって、隣の康生を肘で突いた。一瞬「え、僕?」みたいな顔をするけど、すぐに覚悟を決めたらしく、自分の分のグラスを掴んだ。それを胸の前に持ち、挨拶を始める。
「えー。改めましてこの度、星架さんと交際させて頂くことになりました。皆さんが僕たち二人を温かく見守ってくださったこと、イベント開催などでもご協力くださったこと。本当に」
「なげえよ! かんぱーい!!」
「ええ!?」
「かんぱーい!!」
全員のグラスがカチンとぶつかり、涼やかな音が響く。
乾杯の後、少し寂しそうにチビチビ飲む康生を、横からギュッと抱き締めてあげた。
会が始まって一時間弱。ママは中座(夕飯の買い物に行った)している。
残ったアタシたちは、しばらくはプリンとお菓子を思い思いに食べながら、スイーツ繋がりで駅前の洋菓子店や、近場の飲食店の話なんかで盛り上がってたけど。
「で? 結局どっちから告白したの~?」
無難な話題が尽きた頃に、ついにマスコミごっこが始まってしまった。まあ雛乃には話してなかったもんな。気になるのも当然か。
「告白はね……アタシからなんだけど、ちょっと特殊な感じになっちゃって」
「特殊?」
「あー、その。何と言うか」
隣の康生を見ると、恥ずかしそうに、だけど小さく頷いてくれた。
「この子が凄く辛くて苦しい時に、絶対の味方だよって示したくて、勢いで言っちゃった部分が無きにしも非ずで」
まあ、あの日にまさか告白するなんてアタシ自身、全く予定になかった事だけどね。康生の心を救いたくて、その流れの中で康生から嬉しすぎること言われて……ぶわっと想いが膨れて、気付けば勝手に言葉が出て行ってたっていうか。
「正直、ふたりともボロボロ泣いてて、とても平常心じゃなかったですよね」
康生が注釈を加えてくれる。
「あ、でも。勢い任せだった所はあるけど、言った内容は本音も本音だからな」
「それは、うん。分かってます。本当に嬉しくて、嬉しくて……」
切なげな目で見つめられると、アタシもあの時の気持ちが蘇ってきて、思わず彼の唇に視線が行く。自然と、ふたり顔が近くなって……
「雛、アンタにはまだ早い」
そんな声が聞こえてきて、ハッとアタシたちは距離を取る。見ると、千佳が雛乃の目を手で覆い、それを雛が丸い手で払いのけようとしていた。
「私も見たいよ~。星架のキスシーン」
ぐお。やってもうた。流石にキスまで見せる勇気はまだ無いのに。勝手に吸い寄せられて、一瞬、親友ふたりの存在を忘れてたわ。
「……まあ、その調子だと順調に関係は進んでるみたいだな。ウチの苦労も浮かばれるわ」
冗談気味に言う千佳。そうだよな、本当に苦労かけた。
「それなんだけどさ。アタシも康生も、千佳には特別感謝してるからさ。今度キャンプ行かね? 千佳の分はアタシらの奢りで」
「おお! キャンプ! 行く行く!」
テンション上げる千佳。良かった、喜んでくれてる。けどすぐに、窓の外に目をやって、
「つっても、もう少し涼しくなってからだな。8末ないし秋でもいいぜ」
現実的なことを言い出す。まあそうやね。ガチで命に関わるレベルの暑さだしな。ワンチャン、9月でも残暑がヤバいかも知れんが。
「取り敢えずさ、礼ってんなら、アレ教えてくれよ。ちぎり絵だっけ?」
ああ、あったな、そんな話も。
「良いですよ。準備もすぐですから、明日にでもやりましょう」
康生も二つ返事で、明日の予定が決まった。