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139:陰キャの背が高かった

 <星架サイド>



 千佳と雛乃に、空いている日をレインで確認すると、毎日ゴロゴロしてるだけだというので、早速だけど明日ということで約束を取り付けた。ウチまで来てもらって、そこで報告したい事があるとだけ打ったけど、千佳からは、


『なんだろうなあ~』


 というメッセと、黒猫がニターとゲス笑いするスタンプが送られてきたので、バレバレ。雛乃は、


『じゃあお昼は軽くだけ食べて行くね』


 という返事。当然、報告内容は言ってないし、パーティーにするとも言ってない。なのに何故か食べ物を貰えると察知してるみたいだ。時々アタシはあの子が怖い。

 あと多分、軽くとか言ってるけど昼飯もガッツリ食ってくる。


 康生に二人からの色よい返事を伝えると、少しホッとしたように笑った。


「じゃあ、スーパーでお菓子買ってきましょうか。あ、いや。折角ですから……たまごプリン作りませんか?」


「え?」


 言われて思い当たる節。例の横中東に行った日、食べたいねと話していながら、結局それどころじゃなくなってお流れになったヤツ。康生、やっぱ気にしてたんだね。

 ……拒む理由もないし、汲んで乗っかっておこう。


「良いね。作り方、教えてくれる?」


「はい!」


 素直な返事。頭を撫でてしまう。


「んじゃあ……行こっか」


 そう言って立ち上がろうとして……ガラス戸越しにベランダが視界に入る。朝に干した洗濯物が既にパサパサになってそうな強烈な日差し。エアコンの室外機が微かに風を送っている以外はほぼ無風。これは……


「言うて徒歩1分ですから」


「うん、そ、そうだよね」


 流石に、往復2分だけで死にかけることはないと思いたいけど。念のためアタシは玄関で日焼け止めクリームを自分の顔や手、続いて康生にも塗ってあげた。くすぐったそうに笑う顔が可愛かった。


「ちょっとの距離なのに、なんか申し訳ないですね」


「まあ40、50になった時に後悔しないため?」


「40、50かあ。その頃でも星架さんは綺麗なんだろうな」


 サラっとそういうこと言っちゃうトコあるよね、康生は。


「……30年後、自分の目で確かめてみてよ」


「はい……って、それって」


「アタシもアンタが30年後、シミだらけの老け顔にならないように見張っとくからさ」


 調子は軽いけど、本気の宣言だ。30年後、絶対隣にいるって。

 康生がギュッと後ろから抱き締めてくる。靴履けないじゃん、なんて照れながら言うけど、振りほどく気はサラサラなかった。5回くらいキスした。













 たったの2分で無事死亡、ゾンビになって戻って来て、まず昼食。スーパーで買ってきた弁当を二人で平らげた。食後、少しだけ休んでからプリン作りに取り掛かった。


 康生のお気に入りのレシピサイトを見ながら、工程を進めていく。鍋に牛乳を入れて、火にかける。その間に、卵を2つ割って、ボウルに出す。もう1つの卵は別の皿に向かって割り、卵黄と白身を分けた。卵黄だけ使うみたい。3つを合流させ、砂糖を加えた。


 菜箸を突っ込んで混ぜると、カッカッカとボウルの底を箸先が打つ小気味いい音が鳴る。割と楽しい。


「プリンカップはあるんでしたよね?」


 康生がコンロに背を向け、食器棚に目をやる。


「あ、うん。全く使ってないから、一番上の段だと思う。ちょっと待ってて、椅子持って……」


 言い切る前に、康生は棚の戸を開けて、軽く背伸びして一番上の段に手を伸ばした。あ、そっか。届くんだ。

 目当ての物を掴んだみたいで、シャツの袖から伸びた二の腕の筋肉が軽く隆起して、血管が薄っすら浮き上がる。その様子が妙に艶めかしくて、ドキッとした。

 

 アタシより6センチ以上も高い身長(アタシが170で康生は176~7くらい)、無理な体勢でもグッと掴める逞しい腕。

 男の子だ。いや、そんなの勿論わかってるし、今までも何度も感じたことはあったけど。

 実際に交際が始まって初めて見る、彼の「オトコ」の部分は、想像以上にクラクラと響く。


 こ、この腕にいつか抱かれるんだろうか。さっきのバックハグみたいなレベルじゃなくて……その、男女の抱擁を、いつか。


 そこでアタシは今の状況を、ふと冷静に見てしまう。ママは今日はパートで夕方まで帰らない。男女二人きりで肩寄せ合って一緒に料理。何も起きないハズもなく。


 い、いやいや。昨日の今日で、そんなことにはならんでしょ。で、でも皆は付き合ってどれくらいで、えっと、アレをするんだろう。いや、もちろん他のカップルと合わせなきゃいけないワケでもないけどさ。参考までに、そう、参考までに。

 ……後で調べるか。


「……ん!? 星架さん!」


「ひゃ、ひゃい!! 初めてだけど頑張るから、よろしくお願いします!」


「知ってますよ! その初めて作るプリンがヤバいんですよ!」


「はい?」


「ああ、もう」


 康生はプリンカップを脇に置いて、急いでコンロの火を止めた。60°程度に温める予定だった牛乳が沸騰しかけていた。

 あー、うん。火を扱ってる時は、エロ妄想はやめましょう、ってことで。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 普段は男女逆転しててもいざと言う時はベッドヤクザな康生くんに期待
[良い点] 肉食な妄想が収まらない星架ちゃん、メインディッシュの康生君が目の前に居ていつまで妄想だけで我慢できるのかな
[良い点] そのプリン砂糖入りすぎてませんか?もう甘々なプリンができてますよ 康生にオトコを感じる星架さんにスケベってつっこみつつ 実にいいイチャコラを繰り広げられ30年後の未来まで宣言しちゃう二人は…
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