138:ギャルと報告会を企画する
スイカを御馳走になった後、星架さんが「ところで」と切り出してきた。
「ママにはさ、康生と付き合えることになったって言っちゃったんだけど、良かったよね?」
ああ、そういう話か。改まった感じだから、何かと思ったら。
「はい。と言うか、僕も家族にバレちゃいましたから」
「やっぱり。ていうか、花火大会に二人きりで行く時点で、バレバレだったよね」
今になって冷静に考えてみれば、確かにそう。告白しに行きますって言ってるようなモンだよね。
「パパには……」
「う」
カノジョのお父さんとの対面シチュ。創作物だと怒られたり殴られたり。
「ははは、気負わなくても、多分そういう方面にはうるさくないよ、パパ」
「何故そんなことが?」
「いやあ、職業柄、男女のドロドロは沢山知ってるだろうから。多分、マトモに一対一で付き合ってるならそれだけで立派とか、そんなレベルだと思う」
「……芸能界ってそんなに怖い所なんですか」
噂には聞くけど。
「まあアタシもそこまで詳しいワケじゃないし、全部が全部、そうってワケでもないんだろうけど」
珍しく奥歯に物が挟まったような言いよう。それだけで僕の危機感が煽られる。
「あ、あの。以前は応援するって言っちゃいましたけど、モデル業から、その……芸能界とかは」
「あはは。行かない行かない。こええもん」
ホッとした。同時に自分の中に激しく渦巻く独占欲に驚いた。
「妬いた?」
「うん」
もはや敬語も忘れて、ただ頷いていた。
「そっかあ、妬いちゃったかあ」
頬をモチモチされる。次に頭もワシャワシャと撫でられる。久しぶりに会った犬を可愛がるような動きだけど、僕はされるがままにしておいた。
やがて頬に戻ってきた指の背が優しく慈しむように産毛を撫でていく。
「心配せんでも、アタシも自分の容姿は自覚してっからさ。危機管理は割としっかりしてるよ」
「はい」
それは感じる。男を寄せ付けない雰囲気あるもんな。僕以外。
「てか何の話だっけ?」
「誠秀さんに言うかどうかっていう」
「ああ、そうそう。どうしよっか。康生の方は、芳樹さんには言ってるんでしょ?」
「は、はい。言ってるっていうか、母さんと姉さんに知られたら筒抜けっていうか。拡張スピーカーっていうか」
「あはは」
笑い事じゃない。多分もうメグルも知ってるだろうし、なんなら僕を子供の頃から知ってる母さんの幼馴染とかそこら辺にも連絡網よろしく周りきってる可能性まである。地元密着の恐ろしさよ。まあメリットも多いんだけどさ。
「じゃあアタシも折を見て話して良い?」
「は、はい」
まさかそっちだけダメとは言えない。星架さんの言葉を信じるなら、嫌な顔されることはないハズだけど……星架さんは女の子だし、男心に疎いところあるからなあ。
一人娘に初めての彼氏ができる男親の心境か……と、とりあえず菓子折りは用意しよう。
「んじゃ次。千佳と雛乃にも話したいんだけど」
「あ、それは、はい」
特に洞口さんにはお世話になったどころの話じゃないもんね。どうなったか教える義務があるとさえ思う。
「良かった。千佳はマジで恩人だもんな。本当によく相談に乗ってくれてさ。アンタがノブノブ言ってて全然振り向いてくれない時から」
「あ、あはは」
「雛乃もメイク教室で頑張ってくれたし。おやつも食べてた」
おやつは加算ポイントじゃないと思うけど。体重の加算ってことなら、まあ。
「そうだ。どうせなら感謝と報告を兼ねたパーティーにしよっか」
「それ良いですね。お菓子も沢山作れば、重井さんも喜んでくれそうです」
ただ洞口さんには、更に他の謝礼もしたいけどね。本当、あの人が居なかったら、僕らまだ付き合えてないだろうし。
「ただ千佳には別で感謝を示したいけどね。雛ほど食い意地張ってねえし」
と思ったら星架さんも同じことを考えてたらしい。ですね、と同意して。
「……何か洞口さんが好きそうな物ってありますか?」
「うーん。そうだなあ。クマと……後は、意外と自然が好きだよ、あの子」
「へえ」
そう言えば、いつだったか夏休み入ったら山でキャンプしようとか言ってた覚えがある。
「じゃあキャンプですね。言ってましたもんね」
「ああ、言うだけなトコあるけどね、あの子。だから、こっちで調べてあげないと」
「そういう手間も含めて、全部やってあげて、プレゼントってのも良いですね」
「うん、アリだな」
星架さんがワクワクを抑えきれないみたいで、ソファーに座ったまま、足をパタパタしている。子供みたい。
「んじゃ早速!」
リビングのパソコンを使って、キャンプについての情報収集。
1時間ほど調べた結果、日帰りのコテージを借りる方針で決まる。保護者の同伴必須などの条件が厳しくないこと。費用が割と安く済むこと。平日の昼間ならガラ空きっぽいこと。比較的近場でも見つけられたこと。ここら辺が決め手となった。




