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129:ギャルの踏み台になった

 僕たちが人生の浪費をしている間に、いつの間にか花火の打ち上げが本格的に始まっていた。次々と暗い空に光のオタマジャクシが打ちあがり、やがて弾けて花となっている。


「やば。星架さん、そんなダブりクソゲーで遊んでる場合じゃなさそうです」


「お、おう。アタシらも、もっと湖の近くに……」


 そこで僕たちは現実を知る。つまり、もう完全に良い場所は取られきった後だということ。

 まあ、さっきから屋台の周りがやたら空いてるなとは思ってたんだよね。みんな打ち上げ時間前に少しでも良い場所を確保しようと動いている間に、僕らはいつまでも食っては遊んでしていた、ということか。


「……ごめんなさい」


「なんで?」


「いえ。僕がもっと周囲に注意を払ってたら……」


「んー。それ言ったらアタシもじゃん? 康生だけの責任じゃないし」


「けど」


 なおも言い募ろうとした僕の鼻を星架さんの人差し指が押す。


「それにさ……楽しかったじゃん。飯食うのも、輪投げすんのも。賞品は……まあこれも笑い話よ」


「星架さん……」


「失敗しないようにって気持ちも分かるけど。アタシは康生と一緒なら基本なんでも楽しいよ? だって……」


 だっての続きは何だったんだろう。いや、それはきっと僕から言わないといけない言葉だ。もう何回もヒント……どころか答えだって言ってくれてるんだから。


「つか、今のままでも花火は見れるじゃん。湖面に映るのがウリだからって、それ見なきゃ楽しめないって事じゃないと思うよ」


 そう言って励ましてくれる星架さん。ああ、やっぱこの人、最高の女性なんじゃないかな。

 だけど、だからって甘えてばかりはダメだ。仮にも僕がエスコートを買って出たデートで励まされて終わりじゃ、いかにも情けない。


 僕は周囲を見回して、少しでも可能性のあるポジションを探す。


「あ」


 街路樹の根元、土の一角がガラ空きだ。


「あっこ、行ってみませんか? 僕が肩車できるスペースがあります」


「か、肩車!?」


 星架さんの素っ頓狂な声。あ、しまった。挽回することばかり考えて、視野が狭くなってた。僕が彼女を肩車するってことは、彼女の、あ、足の間に……


「すいません、忘れてくだ」

「いこっか」


 僕の撤回を遮って、星架さんがそんなことを言った。そのまま僕の手を取り、街路樹の方へ歩き出す。ほ、本当に? 自分から言っておきながら、僕の方が躊躇してしまう。だけどその間にも星架さんはズンズン進んで、やがて到着してしまう。


「かがんで」


「え、は、はい」


 星架さんも恥ずかしいみたいで、少しぶっきらぼうな言い方だ。ていうか、結局また気を回してもらったのか。敵わないなあ、と思いながら、僕は片膝をついて、姫に忠誠を誓う騎士のようにこうべを垂れた。後ろから僕の頭に跨る星架さん。浴衣の生地越しに、柔らかくて温かい内腿が僕の頬を両側から挟む。少しだけ石鹸のような匂いがした。


 諸々を振り切るように、グッと膝に力を込めて立ち上がった。


「お、おお!?」


 星架さんが怖いのか、より強く足を閉める。そしてアゴの辺りを両手で掴まれる。クラクラした。顔中に星架さんの体を感じる。さっきはお尻を触りながら歩いていたに等しい状況で、今度は股ぐらに後頭部を突っ込んでいるような状況。こんなの青春警察に見つかったら、百叩きじゃ済まないよ。


「おお、すげえすげえ。見えるよ、康生」


 言いながら、自分のお腹と僕の後頭部で挟んで固定しているカバンを漁る気配。多分スマホを取りだしたんだろう。少しだけ重心が上がったのも感じる。背筋を伸ばして、湖面を撮ってるんだ。


 しばらく無心でシャッターをきったり、ムービーで撮ったりしてるようだった。時折「キレイ」と呟く声も聞こえる。僕の方は腕と足がプルプルしてきたけど、何とか耐えていた。

 その時、ふ、と視線を感じた。少しだけ首を動かしてみる。一人の男性と目が合った。けど、その人はすぐに視線を逸らした。


「あ」


 星架さんの足を見てたんだ。浴衣から僅かに覗く綺麗な足。僕はたちまち、嫌な気分になった。


「星架さん、下ろします」


「え? どした?」


 返事もせずに、ゆっくりと腰を下げて行く。やがて地面近く、また片膝を着くくらいに体が下がると、星架さんは僕の肩から降りた。


「しんどくなった?」


「……」


 僕は曖昧に頷きながら、星架さんの腰に手を回し、歩くように促した。困惑気味に「ホントどしたん?」と聞かれながら、でも返事は出来ずにひたすら歩く。とにかく、あの場所から離れたかった。

 自分でもここまで気分が悪くなるとは思わなかった。独占欲、嫉妬心。ああ、やっぱりダメだ。早く告白して、僕だけの物にしたい。彼女だけの物になりたい。だいぶ気持ち悪いことを考えてる自覚はあるけど、止めようもなかった。

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